恋愛相談室のツンデレ課長さん

心弦

第1話

「おはようございます。本日から入社しました、川畑侑大と申します。これから、恋愛相談室まごころでお仕事させていただきます。1日でも早く力になれるよう頑張りますので、これからよろしくお願いいたします。」朝のオフィスに明るい声が響いた。社員が笑顔で拍手をしてくれる。そんな中1人だけ拍手もせず、ただ机に突っ伏している女性社員がいた。その不機嫌そうな社員に侑大は近づく。彼女の名札には「恋愛相談室まごころ課長 柳瀬 双葉」と書いてあった。課長さんか、と思いつつ侑大は話しかける。「課長さん、お綺麗ですね。」女性は最初に容姿を褒めると親しみやすくなる、とこの会社の面接のために調べた記事に書いてあったんだ。「ふっ、予習済みだよ。」と心の中でカッコつけつつ、双葉の反応を待つ。きっと、課長さんの機嫌も良くなるだろう。しかし、その言葉の矛先となった双葉は完璧にセットされたその美しい黒髪とその豊満な胸を揺らしながら侑大の方を振り返り、鋭い眼差しを侑大に向けた。

「……は?」その冷たい声にオフィスの空気が一瞬にして凍りついた。続けて「川村くんだっけ、今なんて言った?」とまたもや空気が凍るような冷たい声で言った。ん?あんま嬉しくなさそうだし、名前間違ってるぞ?侑大は内心でツッコミつつ双葉の問いに答える。「え?課長さんお綺麗だなって思って…その黒髪すごく似合ってますよ!」侑大は悪びれることなく、屈託のない笑顔を見せる。その言葉に双葉の顔がじわじわと赤く染まっていく。「こ、これセクハラよ!」

「ええっ!?ただの感想じゃないですか」と侑大が反論すると、「感想でも言って良いことと悪いことがあるの!」と切って捨てられてしまった。声を荒げる双葉だが、内心では心臓がバクバクと高鳴っていた。こんなにストレートに褒められるなんて、いつ以来だろう。そんなことを言い合っていると、「まぁまぁー。」と双葉の隣の席に座るチャラそうな金髪の男性社員が2人の間に入り、「入社早々喧嘩なんて辞めましょうよー。」とその張り詰めた空気を打破するような口調で言った。そこで2人は我に返り、自分たちの声が少し大きすぎたことに気がついた。「あぁ、課長さん。すみません。」

「わ…私も少し言い過ぎたわ。ごめんなさい。」

ーーこの子はただ天然なだけ。自分に気があるわけではないのだと双葉は自分の高鳴る鼓動から目を逸らして自分に言い聞かせた。

しかし、侑大が入社したその日から、双葉の平穏なオフィスライフは崩れていくのだった。



 部長が「えっと、侑大くんのお世話係をやってくてる人は居ないかな?」と気まずそうに言った。すると双葉が「私がやります。」と申し出た。「じゃあ双葉さん、お願いね。」と部長が戸惑いつつ言った途端、双葉が「部長、女性を下の名前で呼ぶなんてセクハラですよ。」と素っ気ない態度で言い放った。いつもこんな感じなのかなー。ちょっと怖いなと侑大は思った。

 気まずいなーと思いつつ、隣を歩く双葉を見る。しかし、先ほどのことをまだ根に持っているのか少し距離を置かれてしまっている。なんで僕のお世話係なんかに名乗り出たんだろう?と考えていると双葉が話しだした。「知ってると思うけどここは、恋愛相談室よ。恋愛に真剣に困っている人の相談に真剣に乗るの。」

その後、詳しい説明が終わったところで、来客用のドアが開いた。

「お客さんよ。」と双葉が言うと

「はい。頑張ります!」と侑大が威勢のいい声を上げながら自分の頬を張った。


 「どんなお悩みでしょうか。」と双葉が大学生くらいの女性に話しかけた。

「えっと、大学で好きな人が居るんですけど距離を縮めるために積極的にスキンシップをしたいけど恥ずかしくてできないんです。」

「なるほど。」と双葉が考え込んでいると、

「スキンシップは自然に。ほら、こんな感じで。」と侑大が双葉の手を触りだした。すると、双葉の頬がまたもやじわじわと赤く染まり始めた。

「ちょ…ちょっと急に触らないでよ。」と言うと

「あぁごめんなさい。」と言って侑大は手を離した。(もっと触れててよかったのに)と双葉は思ったのだがそんな煩悩を消すような勢いで相談者の女子大生がいきなり立ち上がった。「そ…それです!」

「ん?どうかしましたか。」と双葉が聞くと、興奮した様子で「そ…それぐらいのスキンシップなら私にも出来ますし、そっちの彼女さんみたいにデレてくれると思います!」

「別にデレてなんかないですし、彼女さんってなんですか!?」

「え?お二人付き合ってないんですか?仲良さそうだったからてっきり、ごめんなさい。」

「と…ともかく悩みが解決したならお帰りください。」

「あっ、はい。良いものも見れましたし、もう帰らせていただきますね!」

「良いものってなによ!」とツッコむ双葉をよそに女子大生が来客用のドアを開けて帰っていった。


 ここまで来た廊下を2人で歩きながら少し話をした。双葉が「今回はたまたまうまくいったからいいけど次からは先走らないようにして。」と叱ると、

「はい。以後気をつけます。」と侑大は反省した様子で言った。

「うん。よろしい。あと、手触ったやつセクハラだから。」と双葉がいたずらっぽく笑いながら言った。


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