猫おじさんと初詣:鎮守の杜の狸

リビング。正月らしさゼロの部屋の中、王子は

〖愚者〗と書かれたカーキ色のパーカーを着て、

こたつでだらけている。テレビではお笑い番組が流れている。



王子は、ふてぶてしい顔でテレビを見ながら

頭をコタツの天板に横倒しにして

「正月ほどやることのない日はないな」と思う


するとキンキン声を張り上げながら優花はリビングに駆け込んできて

「オジー! 今から初詣に行こう!」


王子は振り返りながら怪訝な顔で

「……オジーはやめろよ、なんど言ったら、、、」


優花は得意げに胸を張り

「だって猫の姿のおじさんには、ちょっと違う名前が似合うと思って! どう? 可愛いでしょ!」


王子は面倒くさそうに目を閉じると

「可愛くなくていい。俺はおじさんで充分だ。」ぼつりとこぼす


「猫でおじさん、、、名前が王子だし、おおじ、オジー呼びやすいし猫にピッタリ」得意気に優花は言った

『人の話を聞かない奴だ』とため息が出る


王子はパーカーのフードを少し被りながら

「正月ってのはだな。こたつに入って、笑って、食って寝る。それでいいんだよ。」


「オジー、またそのパーカー着てるの?」

王子は少しくすんだカーキー色を大体着ている


「いいだろ。これが一番楽なんだよ。」


優花はパーカーの胸元を指さしながらニヤリと笑い

「だって、〖愚者〗って書いてあるんだよ!? 何、、、馬鹿の自己紹介なのかな?」と軽く小首をかく

王子ちょとムッとして

「違う。これは深い意味があるんだよ。」


「どこが!? ただの引きこもりが開き直ってるだけじゃない?」と語尾を上げて言いながら


自分のリュック下し中から白いパーカーを取り出す。胸元には大きく〖賢者〗の文字が書かれている。

優花は得意げにぱーかーを広げ

「じゃあね、見てみて私のこれ! オジーが愚者なら、私は賢者だね!」


王子は呆れた顔で「お前な……よくそんな恥ずかしいもん買ったな。」


「それをオジーには言われたくない」


優花はパーカーを頭にかぶり下に降ろすと、頭と腰に手をおきポーズを決めて

「似合うでしょ!? 賢者って感じする?」


王子は真顔でめを細めて「全然しない。むしろお前が愚者だろ。」


「ひどい!そんなこと言うオジーにはチュルルお預けにするよ!」と優花はたしなめる様に言う


「ニャッッつ」思わず変な声が出てしまう王子


「そうそう実はもう一枚パーカー買ったんだ、見てみて」と言うと

リュックから赤いパーカーを取り出すと自分の肩に合わせて王子にみせる


パーカーの胸には小さく四角に背中には大きな黒い文字で【悪魔】と書かれてた。ただし逆さに書いてある

「可愛いでしょ、二枚買うとお得になってたんだ」ニンマリ笑いながらと言った。

「文字が逆じゃね?」と王子は言った

「そうなんだよね、、、なんだろ?印刷失敗したから安いのかな?」と優花は小首をかしげた


少し間をおいて「、、、うーん多分」と王子は言いかけると


優花は突然真剣な顔で「ねえねえ!、オジー。せっかくだから初詣に行こうよ。」と言葉をさえぎると

無理やり王子の腕をひっぱった

「も~う!早く!」

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そんなやり取りの中、優花が初詣の話を切り出す。


「初詣なんて何年も行ってないし、そもそも正月だから神様に挨拶って逆に失礼だろ」           


優花は口を尖らせながら「ダメ! 正月は神様に挨拶しないと!」                   


王子はうだうだししながら「神様はいないが悪魔はいるかもな」と優花を見ながら言った


優花は手を腰に当てながら

「フーン、、、じゃあ神様にはやっぱり感謝しに行かなきゃじゃん!もし行かないと凄い天罰下るかもね」

横目でチラッと亮介をみて一言

「天罰って怖いよね、、、、」王子は自分が猫になったのは姪っ子優花の‘お願い‘を思い出し少し間をおいてモゴモゴしながら

「……理屈が無茶苦茶だ……」とぼつりと言った




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王子=オジーがデフォルトです

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2. 初詣への道中(愚者と賢者の変装)



神社の参道。石段を上がる最中上からお囃子の音が聞こえる

開けた参道には出店があり正月二日目だがそこそこ人通りはある石段を上がる二人。


オジーはジーパンに愚者のパーカーの上からスカジャンを羽織、黒い目出し帽とマスクにパーカーのフードをかぶってる

おまけにサングラスをかけ一見、変質者に見えないでもない

優花は賢者のパーカーの上からダウンを着てピンクのリュックサックを背負い

寒いのに関わらず黒いショートパンツにニーハイを太腿の上までとめている


「オジーなんか変質者か輩みたいだね」階段を飛び跳ね優花は言った

「あんな、、、俺は半月ぶりの外出だし、そもそも顔を出して歩けないだろ」

「えーーーっ?結構可愛いと思うよ、逆に人気でると思うけどね」とちょと意地悪い顔をしながら優花は言った

「他人事だと思って」オジーはぼやいた

参道の屋台を眺めながら歩く2人。

「ちょとお腹すいたから、何か買ってくるからそのベンチで待ってて」

優花はそういうとダッと駆け出す


オジーはベンチに座ろうするといい匂いが横でする

屋台のイカ焼きが鼻の鼻腔をくすぐる


「……凄いいい匂い、なんか腹減った。」フラフラしながら屋台へ

「へい!いらしゃい、」屋台の親父が言った


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「ハフっ、ハフ、、ハフ、、」オジーは人目の付かないベンチで参道とは逆の方を見ながら

イカ焼きと格闘していた。猫舌のせいで思ったより食べにくい

眉間にしわを寄せて何とか口の中でイカを転がしていた」


「オジーは猫だからイカ食べちゃダメだよ!」肩越しから優花が声をかけてきた

『んっぐっ』思わずイカを飲んでしまうオジー細い喉に引っかかる


「げほっつ!げほっつ」熱いうえに飲んだので咳き込む、頭から湯気が出そうだ


「おまっ、、ビックリ!するッつ、、、だろ」思わずサングラスがずれる

「もー!勝手に買い食いして!猫はイカを食べるとお腹を壊すんだからダメなんだよ」ベンチに座るオジーに上から見下ろして言う優花

「はい、お水」とペットボトルを差し出す


急いで蓋を開け浴びるように飲みこむ「げほっつ!げほっつ!」

「はははっはあはっは、、、オジー面白い!漫画みたいな顔してる」ケタケタ笑いながらオジーを指さす

「正月に死ぬところだったわ、」ふーっと息をはく

「でもホントにイカはダメだよお腹壊すからね」「はいっ」と別のトレーをオジーに渡す優花

同時にオジーのイカ焼きを取り上げる

「ああああ、、、俺のイカ焼き」名残惜しそうなオジー


優花はオジーの隣に座るとパクパクと残りのイカ焼きをたいらげる

「これ、は、たこ焼き」オジーに手渡されたのわアツアツのたこ焼き

「タコもイカも同じだろ」怪訝そうな顔をすると

「大丈夫だよ!タコ入ってないから、タコの代わりにチーズはいってる」


「タコの入ってない、たこ焼きッて最早たこ焼きでわないだろ」たこ焼きをどよんと見つめる

トレーを開けると、たこ焼きの上にかかってる鰹節が熱さで踊ってる

「、、、、俺、猫舌なんだけど」


優花は食べ終わったイカ焼きのトナーを置くと、オジーの持ってるたこ焼きに楊枝をさすと

「フーフーしてあげようか?」と笑いながらオジーの前に楊枝の刺さった、たこ焼きを差し出す

ちょっと顔を離すオジー「子供か!食べれるはっ」と一個口に放り込む


「!!!!」「あちいいいいいい!!!」耳の穴から飛び上がるほど湯気が出そう

「はははっはあはっは、、、、オジーほっホントに面白い!!!!」

ベンチに座りながら笑い転げる優花

「アハハ!無理するからさあ、フーフーしてあげっるて」

「んんんんんんんん!」水をガバガバ飲むオジー


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青い空のしたカランカランと神社の鈴がなり二回『パンパン』と手をたたく二人、神前に頭をさげる。

「何願ったの?」優花は尋ねる

「、、、、秘密と言いたいとこだけど」と「早く人間に戻してくださいだよ」

優花は「ええええええええっ、その願いは却下です、かないません!」

「なんでだよ、、、、」

「だって私の願いの反対だもん!私はいつまでもオジーが猫でありますように!だし願わくばもっと可愛い猫になりますように!だから」

「ひで!」


境内の中、二人のやり取りを見つめる人影「これはこれは又、猫の化身様ですね。お正月そうそう珍しい、、、、」

白い羽織に赤い袴、仙人のような白く長い髭の神主


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優花は楽しそうに「オジー! おみくじ引こうよ!」


オジーはスカジャンのポッケに手を入れながら「俺はいいよ、こういうの興味ないし……」

優花は既に箱にお金を入れていた

「いいから引いてみて! 猫の運勢もあるかもしれないよ!」


細い棒の入った箱を両手で振って逆さにする優花

渋々ながらおみくじを引くオジー。優花も隣で引き、結果を見比べる。


「私は大吉! やったー!」ガっ!と両手を上げて喜ぶ優花



オジーはおみくじを広げて「俺は……『凶』だと……?」


優花は爆笑しながら「オジー、今年もついてないね!でも大丈夫だよ私がいるからね」と得意げに人差し指を左右に振った


「うるせえ。」


さらに、おみくじには「動物に関する出来事に注意」と書かれている。



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3、鎮守の杜の大狸:狸様の百鬼夜行




「そろそろ、帰るか」オジーが境内の石段を降りる

「ねえー!お昼ピザにしようよ!」優花は石段を二段飛ばしで降りる

「正月早々、ピザはないんじゃねー?」


「えーー?お餅飽きたし、今時食べたいものたべるっしょ!」少し先に降りた優花は振り返り言う

「ピザがダメならケンタでもいいよ、チキンバーガー!」


「正月からジャンクだなー?子供か?」少し呆れ顔のオジー

「子供ですよーっ」とイーッと舌を出してみる優花


「でもオジーは私のペットだから飼い主の言うこと聞かないと駄目でしょ?」おどけてみる

「誰が飼い主だ!俺はペットじゃない!」



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しばらくすると何故か辺りは白い霧に覆われてきた

「、、、、なんか真っ白だね」少し不安そうな優花


「先がよく見えないからゆっくり降りよう」⦅昼間なのに霧とは?⦆オジーもちょっと不安になる

程なく階段の踊り場に出る、空気が冷たい


『カーアー、カーア―』バサバサと頭上をカラスが数羽通り過ぎる、振り返ると降りてきた先の階段も真っ白に覆われて先が見えない

異様な静けさが流れ

オジーと優花は背中合わせに張り付く


『シャン、、シャン、、、シャン』階段の上から鈴の鳴る音が近づいてくる 更に小さな笛の音とお囃子が少し上からも聞こえる

白い霧の中に何かの影が見えると同時に『ぽん、ぽん』と跳ねる小さな音が先にくる

「 、、、、!」ゾクゾクッと寒気がしたオジーは優花を抱きかかえて石段の脇の大きな木の後ろに隠れる

木の影から様子を覗う二人


ぬっと霧の中から大きな担ぎ棒を持った二足歩行の狸達が出てきた、先頭の狸達は山伏の頭巾を被り錫杖で石段を叩きながら降りてくる

中には笛や太鼓を持ち踊り歩く狸、笙を吹く狸もいた。「、何あれ!狸のお祭り!」目を輝かしながら覗き込む優花

『しっ!声がでかい』オジーは小声で言い、優花の口元を手で押さえながら

『あれは多分、狸の百鬼夜行だ、、、あいつらに気ずかれたら帰れなくなるぞ』

 

『百鬼夜行?』もごもごとオジーの手の中で優花が口を開く

先頭の狸に引き続き神輿を担ぐ狸が出てきた、神輿の上には熊の三倍以上ある大狸が飾り立てられた巨大な椅子に座ってる

見るからにヤバそうな雰囲気がでてる


大きく派手な着物の上に金ぴかな陣羽織をまとい金属バットのおおきさの飾り付けの煙管を咥えてる

着物の前ははだけて胸が出ていた⦅フーーーーーッ⦆と煙管をひと吹き、踊り場の前で

「、、、ここらでいいやろ」野太いこえで大狸は言った。すると今までの騒ぎがピタッとやみ静けさが戻る「おろせや、」と大狸

神輿の前にいる鎧兜を被っている狸が手を挙げて周りの狸が台を神輿の周囲の下に置いた。

鎧兜の狸が踏み台を神輿の前に置いて「親ビンどうぞ、、、」と大狸に声を掛ける

ゆっくりと神輿が台の上に乗ると「ぎゃあー------!」と大狸は悲鳴を上げる!ビックリする周囲の狸

少し離れたオジーと優花の耳をつんざく!


大狸の巨大な金玉袋が神輿と踏み台の間に先っぽが挟まったのだ

「わわわわあっ!親ビン大丈夫ですか!」慌てた鎧兜の狸、思わず大狸の金玉袋っを引っ張る

ぎゅううーー!「ぐうっ!がゆうあああああ!」顔を真っ赤にして唸る大狸。金玉袋が踏み台の隙間から取れると同時に

【バッキイ―――!】と鎧兜の狸を殴った「いってえええやお!太三郎、何度もしやがっちぇ!」金玉袋の先っぽをフーフーと吹きながら大狸は言った

「親ビンすいまへん」と兜の上からこぶをなでて半べその鎧兜の狸



踊り場横の木の影から様子を覗ってるオジー達。あまりの出来事に『ブハアッつ―――』と腹を抱えて吹きだす優花

思わずスマホを取り出し撮影しだした

オジーは『おい!やめろよっ!ヤバいって!』と小声で優花を抑える

『、、、だっつて、こんな面白いのないよ!』と吹きだしながら言う優花


神輿の上の大狸が少し落ち着くと、じろっと木の影の優花達の方に目をやる

「もう、ええやろ、隠れてないで出てきや」ハッと息を止めるオジーと優花

急いで木の影に隠れるがスッと音もなく二人の両脇に先程の鎧兜の狸と似たような格好の狸が仁王立ちで居た


ビックリ!する二匹まるで忍者のようだ


オジーと優花はポンと肩を叩かれると踊り場の中央に転げ出た



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