『みだらのひも』 後編
ぼくは、ひもを、引いた。
ビルが崩壊したせいか、ひもを引いたせいか、分からなかった。
床が抜けたのである。
いや、多少正確に言うならば、床がかなり、斜めに傾いたのだと思う。
それで、入り口のドア方向に転がってゆき、地底に転落した。
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地底。それは、ダークな憧れである。
地底世界を題材にした物語や映画も多数あった。
コナン・ドイルさまの、チャレンジャー教授シリーズに出てくる『失われた世界』は、とくに、必死に読んだものである。映画にもなったが、原作には届かない。
バローズさまの『地底世界ペルシダー』は、一部しか読まなかった。
地底世界は、どうしても、筋道が通りにくい面がある。
上と下の概念そのものが、理解しにくい。
映画では、途中でぐるっとひっくり返ったりもしたように思う。
しかし、あまり説明しようとすればするほど、分からなくなり、混乱してしまいそうでもある。
地底は、降りれば降りるほど、熱くなり、圧力も高くなる。
生物はいるかもしれないが、人類にはしょせん、キリがある。
また、日本には『核シェルター』は、ついに整備されなかったというのが、通説である。
核シェルターに、どれほどの意味があるのかは、議論されてはいたが、大部分の市民は『かやのそと』で、無関係だった。
国により大きく考え方の差があり、いわゆる『核シェルター』が、とにかく整備されている国もあるにはあったが、災害大国にしては、そうした緊急避難施設は、かなり貧弱だったことだけは、確かである。
なんてことは、いま、あまり意味がない。
なんにしても、ぼくは、地底に落ちたのだ。
『あなた、ダイジョブれふか?』
と、誰かに尋ねられていた。
『どこに、きたのでしょうか。』
『ここは、キュウ、トウキョウト、の、イシノ、 カタマリ。つまり、ボウレイ・トシ。ジクウにハサマレタ、トシのナキガラ。トシの、トウエイサレシエネルギーが、シュンジニフウササレテ、ドコニモユケナクナリ、カタマッタ、トシのカゲ。グウゼンのサンブツニシテ、キセキのカタマリれす。』
『さっぱり、わかりません。』
『わたくしが、おはなしします。わたくしは、カタ・クリコ。』
『カタ・クリコ! 東京都、最後の知事!』
見上げるように、巨大な人である。
『はい。あたりです。ただし、カタ・クリコの意思の固まり。都市全体のエネルギーにより、実体化された、ゆうれい都市伝説自体。複数の核兵器の発した力が、巨大な都市と共鳴し、生まれた、あるまじき怪物。あちらこちらに、ゆうれい現象を起こし、怪物になり、また、みだらなひもを吊り下げました。』
『なんのために?』
『人類は、いまだに、戦争の意思を引きずっております。戦争を偽り、金儲けや権力やその他諸々の概念に不当に置き換える人が、この期に及んでも絶えないのは、まことに残念です。ここは、そのことを考えるための、テーマパークにいたしましたいと、思い付きました。あのひもは、つまり、仮称『みだらのひも』としましたが、ここの入口です。』
『じゃ、地震は、なに?』
『地震は、人類の手に負えない、自然のなせる技。偶然です。ほほほほほほほほ。あなたがたは、いまや、自然の力と、人類の力と、両方を相手にしています。両方選ぶ道もある。あなたには、この、ひもを、あちこちに、ぶら下げてほしい。ただでとは申しませんよ。10本、1000ドリム。』
『やすい。捕まったら、説明しにくい。』
『ほほほほほほほほ。なら、15本2000ドリムにしましょう。ただ、とにかく、吊り下げるだけです。取り外そうとして引っ張ると、ここに来ます。わたくしだけでは、動ける範囲が、この人工岩盤の上だけなのです。とりあえず、千本差し上げます。なにが見えるかは、はい。こちら。複数の水素爆弾が微妙な時間差で起爆して、それから10分後までの光景が、永遠に繰り返されています。ここは、特殊な空間で、エネルギーが減退しません。いつまでも、繰り返されています。』
なるほど、旧首都だろう。たくさんの人がいる。
という、瞬間に空中で、なにかが、起爆したみたいである。
こいつは、核融合爆弾で、プライマリに原子爆弾を使い、その力で核融合を起こし、さらに、もいっかい核分裂するらしい。いわゆる、3Fであろう。しかし、しろうとが、見た目で分かるようなものではない。
でも、なぜ、見ていられるのか、も、謎だけれど、つまり、これは、やはり、何かに記憶された映像なのだろう。
ぼくには、エネルギーが、影響していない。
そのあとの光景は、表現しにくい。
核実験の映像となにが違うかというと、これは、実在した都市なのである。
はたしてこれは、単なる作り物なのか?
それでも、ぼくは、何回も何回も、ひたすら繰り返される光景に、唖然としていた。
🙇
『みだらのひも』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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