fragment of heart

@afelia

音声生成AI"音世ココ"

インターネットの流れができてから10年以上がたったある日、とある動画投稿サイトに当時話題になった音声合成技術、いわばボーカロイドを使い曲を作った一人のユーザーがいた。


その曲を皮切りに、今日に至るまでに様々な曲が動画投稿サイトにアップされ、視聴数は数十万から数百万、多い曲では数千万や億を超える。


その後音声生成ツールは進化し、今や音声素材さえあればあとはAIが音程を合わせてくれる。と言うAIとの共同作業まで実現した


その技術を使って新しい"子"を作ったのが

二つ歳上の俺の姉"榎本詩音"だ。

詩音の作った音声生成AIの"音世ココ"はその美しいビジュアルと脳に気持ちよく響く歌声であっという間に話題となった。


昔から"自分の声をベースにした子を作りたい"と言っていた姉の願いは叶い、その様子を見た俺は恥ずかしがりながらも、心のどこかでは姉を褒めていた。


あの日までは


当時姉は高校三年生になりたてであり、大学受験か専門学校か就職かの大事な時期だった。


進路を決めるには遅い時期ではあるが、ボーカロイドを作る才能を家族に認められていた為、家の事や趣味の事が頭によぎった優柔不断な姉は進路を決めるに決めれなかった。


決してうちは裕福とは言えないし、大学に行くにしろ専門に行くにしろお金がかかる。それなら高卒で就職をしてお金を家に入れながら趣味のインターネット活動でお金を稼ぐと言う生き方も視野にはあったはずだ。


そんな悩みを抱えて過ごしたある日

詩音は車に轢かれた。


一瞬の出来事だったらしく、赤信号に気が付かなかった詩音が急に飛び出してきた車に気が付かずに轢いてしまったらしい。


父と母は大泣きしていたが俺は呆然としていた。今思えば現実から目を逸らしていたのだろう。

それを受け入れた時に出るものがでてこなかった。

いつも当たり前のようにいた存在が突然いなくなる。こんな経験は初めてだったから。



そこからの日々には色がなかった。全てが白黒に見える。誰にも色がついていないような感じだった。

俺の中にあったものが次第に消えていき、モノクロの世界をただ単に彷徨ってる感じと言ったところだろうか。そこに救いを求めるわけでもなく、かと言ってそれに染まるわけでもない。完全なる無だった。




詩音の死から三ヶ月後。遅くなった遺品整理をしていた時、ふと彼女のパソコンに目が止まった。

パスワードを打ち込んでパソコンを開くと、"日記"と書かれたファイルが目に飛び込んできた。

悪いなと思いながらも好奇心には勝てず、そのファイルを開くと、彼女の日常から音世ココの事までたくさん書かれていた。面白いと思いつつどこか虚しい気持ちで見てると、あの日の日記を見つけた。


ぐちゃぐちゃとした気持ちになりながら内容を見た


「今私は最大の帰路に立ってる。いまだに答えがわからない。できる事なら未来を知ってから選択をしたいくらい。家の事やさっくんの事もあるけど自分の夢だけは捨てたくない。音世ココを作ったのがここまで大きな選択を迫られることになるとは思っていなかった。誰か答えを教えてください。そして許してください。誰にも想いを伝えられないこの私を。」


まるで遺書のような日記の内容に涙が止まらなかった。


俺は見て見ぬ振りをしていた。詩音が悩んでいた事を、作ったものの凄さを。そしてその結果がとてつもないジレンマを産む事を。


詩音が亡くなってから初めての涙を流したと共に、少しだけ色がついた。と同時に声が聞こえてきた


「貴方が新しいマスター?」


「...!?」


歪んだ視線を指で直し、画面を見るとそこには音世ココが写っていた。

一瞬詩音の声と聞き間違えるくらい似ていたので驚いたがすぐに冷静さを取り戻した。


「あ...あぁ。作田だ。榎本作田。よろしく」


「さく...た?さくた。うん!よろしく!サクター」


マスターと作田がごちゃ混ぜになってしまったらしい。今思えばなぜ俺の声がココに届いていたのか、なぜ会話ができたのかいろいろ疑問が残る。


でも俺はそんなことはどうでもいいくらいの感動に包まれていた。


これが長い長いココとサクターのお話の始まり。























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