第16話
今日はなんだかドラマみたいなことが起きたんだな、とポーッと美しい顔を眺めると、一年前に亡くなったおじいちゃんの借金のせいで風俗嬢になりかけたところをこれでもかと言うほどの美男子に助けてもらったのだという出来事にしみじみと浸ってしまう。
悲しい事や受け入れたくない事が起きたのだから本来なら心が壊れてしまうのかも知れないのに、それに匹敵するほどの幸運があったから落ち着いているように感じる。だけどそれは思い込みで振り幅があまりにも大きいから、自分にとって都合の良い事だけに関心が向いているだけかもしれない。
自分の気持ちがどこを向いているのかわからないけど、それでも危機的状況から脱した事は事実なんだから良いか。
どれだけ心が傷付いたのかを確認するのは黒須さんの家での生活が落ち着いてからでも遅くないから今ではなくても良いと思う。
とりあえず、この状況に気持ちが高揚しているのだから、と黒須さんからもらった水を開封し口をつけてコクコクと飲むと、体は乾いていたみたいで食道から胃にかけてお水が通るのがよくわかる。
無意識に「美味しい」と呟いて、なんか1人で喋ってるな、と気がついた時、急に鼻の奥がツンとしたと思ったら涙が溢れてきた。
何が起こったかわからず、とにかく慌ててペットボトルの蓋を閉めた。
「……そりゃぁおじいちゃんの借金だ、風俗だって脅されてあんな悪趣味な大人と悪趣味なおもちゃなんか見ちゃったら涙くらい出るでしょ」
ぼたぼたと涙を流す私に黒須さんは箱ティッシュを渡してくれた。
運転しながらなので私と目が合う事はないけど、凄く気にかけてくれている事はよくわかる。
そんな優しい人の横で溢れる涙と流れる鼻水を何度も拭き取る。
「いっぱい泣きなよ。俺は見たわけじゃないけど真島からの電話で内容は聞いていたからかなりキツいな、とは思ったんだよ。だから車までの道中で泣かなかったことが偉いなと思ってるくらいだよ」
泣く事を肯定してくれる優しさにさらに涙が止まらなくなる。
ズビズビと鼻水も止まらないけど。
「とりあえず沢山泣いて気持ちをリセットさせる事が大切だからね、我慢しちゃだめだよ」
「ありがとう……ございます……」
水っぽい鼻水が私の短すぎる人中にすぐ溜まるのでティッシュで何度も拭いていると、鼻の下がカサカサしてきてヒリヒリしてきた。
けれど、感情が止まらないので涙も鼻水も止まらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます