「少年が先輩を失って曇る話」
結晶蜘蛛
「少年が先輩を失って曇る話」
某県のシンボルタワーをなぎ倒し、周辺を火の海にした巨大な怪獣の脳天に打ち込み、沈静化させた。
ティラノザウルスに酷似した怪獣の遺骸を係員たちが運んでいる。
当然、シンボルタワーをはるかに超すサイズの恐竜なんてありえないし、それに銃弾を撃ち込んだ程度で倒すなんてもできるはずがない所業だ。
だが、それでも「逸脱存在」なら可能だ。
「条理から逸脱した存在」、既存の物理法則から考えられない能力や概念を発揮する存在――逸脱存在。
それら逸脱存在を見つけ、沈静化し、収容するのが僕たち「境界逸脱監視機構(KDI)」の指名だ。
「ごっめ~ん、迷ちゃった~」
「先輩、収容車まで20mもないのですからどうやって迷うのですか?」
「いや、似てるような車が多いから、君がどこにいるのかわからなくなっちゃって……」
「……それは僕が小さいって暗に言ってます?」
「ちがうよー!」
このふんわりした物体は先輩で、僕のオペレーターだ。
逸脱した存在に対抗するには逸脱した存在をぶつけるしかない。
そのために「逸脱存在」を埋め込み改造しているのが僕たち「収容者」だ。
それも子供であるほうが適合しやすいから、僕みたいな子たちが用意される。
しかし、素体に人間を使ってるとはいえ、逸脱存在であることは変わりなく、「収容者」を制御するために「オペレーター」がいる。
そして、僕と先輩は「収容者」と「オペレーター」のコンビであった。
†
先輩はとにかく抜けている。
いままでどうやって生きてきたのか疑問に思えるほどだ。
任務があると何か一つは忘れ物があるし、歩けば転ぶ、自室で迷えるのはもはや才能だと思う。
口調も間延びしてるし、こんな危うい場所で働いてるのに暢気な性格は特に変わりない。
「いっつもありがとねー、これコーヒー」
「……先輩、ちょっと飲んでみてください」
「え? いいの? ――しょっぱい!」
「……やっぱり、塩と砂糖を間違えてましたか」
こういうミスも頻繁に起こしている。
だから僕がしっかりしないといけない。
けれど、いいところもいっぱいある。
一生懸命なのは本当だし、約束はきちんと守ってくれる。
何度も「オペレーター」を変えた自分と最後まで一緒に居てくれたのは先輩だけだ。
最高峰の「逸脱存在」を内包し、いつ敵側にまわってもおかしくない自分を相手にしても全く気負わないで触れてくれるのは正直うれしい。
だから、僕がしっかりして、先輩を支えないといけない。
†
某日、大規模な収容違反が起きた。
「逸脱存在」が予期せぬ逸脱性を発揮し、収用房を破壊。
それがきっかけで無数の逸脱存在の収容違反へとつながったためである。
僕は先輩と一緒に、最大の脅威となる「逸脱存在」と立ち向かうことになった。
「夢鯨」と呼ばれるソレは薄い霧を発生させ、範囲内の「夢」を顕現させていく。
僕たたちをはじめとした多数の「収容者」たちは立ち向かったが、クレヨンで描かれた無数の夢に阻まれ、「夢鯨」までたどり着くことができない。
そんな中、「夢」たちに僕と先輩は囲まれてしまいました。
持っている逸脱した小銃で応戦するも、このままだと多勢に無勢――先輩を守れない。
「―――ッ!」
このまま押し切られると思い、先輩を失いたくない僕の思いに呼応し頭上の天の輪を輝き、――暴走しました。
†
「――あ、よかった、起きたんだね」
「せん、ぱい……?」
僕が目を覚ますと、夢鯨の残骸が転がっていました。
先輩は全身に怪我をして、僕の頭を膝にのせて笑っていました。
「君が暴走するから、元に戻すのに手間取っちゃって……」
「先輩! それはいいから、早く治療を!」
「……ううん、もう無理だと思うから、最後ぐらい、こうさせてくれるかな?」
先輩が笑った自身の腹部をさするとそこには大穴が開いてました。
誰が――いや、きっと僕がやったに違いない。
先輩に手を伸ばしたいと思っても、暴走の反動か身体を動かすことができない。
「うん、大丈夫、大丈夫、君のせいじゃないよ、だから、自分を、せめないで……。君はいろんな人を守って、あげてね」
そう言って、先輩は笑って、僕の頭をなでて――指に力が抜けるのを感じました。
僕が、僕がしっかりと先輩を守らないといけなかったのに。
僕が殺したようなものだ。
先輩、どうして先輩みたいな人が死なないといけなかったんだ。
どうして……。
†
先輩、あれから時が経ちました。
先輩に言われた通り、僕は今もたくさんの人を守るために「収容者」を続けています。
あれから僕にもたくさんの後輩ができて、みんないい子で、今も頑張っています。
それでも……やっぱり、あなたに会いたいです、先輩……。
「少年が先輩を失って曇る話」 結晶蜘蛛 @crystal000
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