第14話 傾城

「小乙女女史は、小人のコート・カード、ナンバーは11、『傾城』に閉じ込められてしまった」

 星鏡はテーブルの『傾城』をジッと見つめた。小乙女の目が何かに怯えているようだ。

一体、そこで何が起こっているんだ。

 星鏡は、男にまっすぐに目を向け、言った。

「このデッキにダイブさせてもらおうか」

「主の願いを受けて下さるのですか」と男がうれしそうに言った。

「あなたの主の依頼は何だ」

「パメラ・スミスがタロットダイバーとして成し遂げた伝説のフォーチュンテリング。それと同じことをしていただきたいのです」

「小乙女が無謀なダイビングをした最大の理由の一つがわかった。彼女はパメラ・スミスを歴史上最も偉大なダイバーとして深く尊敬していたんだ」

「ピクシーは不世出のタロットダイバーでございました」と男は遠い過去を思い出すかのようにしばし目を瞑った。

 男はテーブルに配ったカードを両手でかき集めると、手中に一つにまとめ、シャッフルした。男はシャッフルし終わると、またカードをテーブルに配り始めた。

ドリーム』『竜使い』『独裁者』『ホムンクルス』『恐怖政治』『ジェノサイド』『大淫婦』『オストラコン』『冬将軍』『美酒』『プランテーション』『コクーン』『ゲーム』『ハルマゲドン』『飢餓』『革命家』『羅睺らご計都けいと』『女装者』『詐欺師』『操り人形』『ネメシス』『クラカトア』『アジテーター』『アヘン』『黒死病』

「ここに並べた26枚のカードは大黙示と呼ばれています。タロットの大アルカナと同じようにそれぞれ複雑な意味を有しています。良い意味も、悪い意味も含めて」

 それから、男はまたカードを配り始め、12枚を星鏡から見て正位置に縦に一列に並べた。

 小人が1人から10人まで描かれたカードが10枚と、『傾城』と『暗君』という標題のカードだった。

「小人のスートです。数札が10枚に、コート・カードが2枚の合計12枚。タロットでは各スートのコート・カードはペイジ、ナイト、クイーン、キングの4枚がありますが、この『偉大なる指輪のカード』ではクイーンとキングの2枚のみ。小人のスートではこの『傾城』と『暗君』がそれです」

『傾城』には小乙女が絵に閉じ込められている。『暗君』には愚かそうな皇帝が描かれていた。

 次に……、と男は言いながら、さらに12枚のカードを同じように一列に並べた。

 奴隷が1人から10人の数札と『枢密卿』『暴君』というコート・カードが2枚。

 さらに男は、もう12枚を並べた。

 傭兵が1から10人、それと『異端審問官』と『王位簒奪者』

 そして、カーニバル。コート・カードは『偽予言者』と『空位』だった。

「いうまでもなく、小黙示にもその一枚一枚に深い意味がございます。単純にどれがよくてどれがよくないかとはいえません」

「このカード世界にダイブして、あなたの主人に頼まれたものを持って帰ってくればいいのだな」

「さようで。ご無事をお祈りしております」

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