第23話 成人式の写真

「元々、あの公式アプリのカメラ機能は、前々からお店で無断で隠し撮りするお客様が増えたのに加えて、海外で似たようなカメラアプリが流通し始めたから、貴方のお姉さんに頼んだものよ」


 私の話に、この場にいる全員が私に注目する。


「SNSで簡単にエッチな画像とか動画とか手に入りやすいから、もうある程度妥協して色んな制限をかけたうえで楽しむなら良いと思うの」


 薫さんが少し唇を噛みながら、小さく頷いた。


「たとえば、君たちの写真がもし流出したら?」

「……それは怖いです。でも……龍世に撮ってもらうと、私、すごく安心できるんです」

「俺も、怖いと思いつつやってました。でも、結衣さんの話を聞いて、俺も考え直したいです」


「気持ちは、分かるよ。でも現に、貴方達の家族にバレてこんな事になっているでしょ。いくら『個人の楽しみだから』って言っても、ネットに出たらもう消せないんだよ?」


「そうだな。薫、俺たちのためにも、もう少しルールを決めないか?」

「そうだね。まだ親にバレた程度で済んでるけど、ネットは怖いもんね」


 私の説得に対して、ふたりは納得してくれてホッとした。隣で聞いてた怜さんも。


「よく言ってくれた。私たちも気をつけないとね」と言って私の肩を軽く叩く。

「そうだね、怜さん」


 私は怜さんにウィンクして返事をする。このままいけば、ふたりの家族会議も終わる。それが終わったら、怜さんのご両親に私たちの事を認めてもらいに日程調整をしなくては。


「分かった。私たちの記念撮影撮影は全部削除するよ。……その前に、双方のお父さんとお母さんに聞きたい事があるの」

「薫さん。なんだ?」


 薫さんの含みのある一言に、双方の両親が真剣な目で薫さんの方を見る。


「……まさか、例のアレを聞く気?」


 怜さんは小さく呟き、身構える。私は、怜さんの肩を抱き寄せて不安にさせないようにする。


「……ふぅん」


 薫はゆっくりと両親を見渡し、にやりと笑った。


「じゃあ、お父さん達の成人式のあの写真は何?」


 その場の空気がピシャリと凍った。


「どういう事だ?」


「覚えてませんか? お義父さん。中学に上がる前の年末年始。私と龍世とお姉ちゃんの三人で見つけたんだよ。お義父さんがうちのお母さんにキスしてる写真が。うちのお父さんが私のお姑さんにキスしてる写真も」


 龍世のお父さんを除く三人の親たちは俯き、恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「ぐぅ……。桐生、双方結婚したら写真は処分しようって約束じゃなかったのか?」

「武岡。すまん、忘れてた」

「クソ……。こ、これでは子供たちに示しがつかんな」


 龍世の父親が苦虫を噛み潰したような表情で、怜さんと薫さんの父親に苦言を呈する。


「じゃあ、あの写真は認めるのね?」

「あぁ。薫さん。俺は確かに昔、成人式の二次会で酒に酔った勢いで君と父親と一緒に、龍世と君の母親にキスをしたし、胸を揉んだ。……申し訳無い」


 うわぁ、龍世さんのお父さんって感じだ。男らしくて潔いけど、生々しくてこっちも恥ずかしくなってきた。横で聞いている怜さんは唇を震わせて体調が悪そうにしていたので、私が背中を擦って気持ちを落ち着かせる。


「ふぅん。じゃあ、その後はどうなったんですか?お義父さん」

「……信じて貰えないかもしれないが、あれ以来の記憶が無い。一夜の過ちは今日に至るまで無い」

「……本当にそうなんですか?証拠はあるんですね。ここではっきりさせないと、 私たち夫 婦やお姉ちゃんの家庭に問題が後々出てくるんですよ」


「薫さん。何が言いたい?」

「私たち三人って本当に誰の父親なのかなって」

「ちょっと! 薫!」

「う、疑う様な事をしたのは申し訳なかったが、正真正銘、ふたりは私の子供だ!龍世くんの父親ではない!」


 怜さんと薫さんの両親が顔を真っ赤にして抗議するが、それを遮る形で怜さんが割って入って立ち上がる。


「ふたりとも黙って!私も気になる。ねぇ!私はどっちの娘なの?!」

「「れ、怜?」」


「わ、私。あの年末の大掃除の時からずっと気になってたの。うちの家系の女性って皆最低C〜Dカップまであって胸は大きいよね」


 双方の両親は、黙って彼女の話を聞いた。


「……でも、私だけAで胸が小さいし、小さい頃に薫から『眉と目元がりゅーせーに似てる』って言われて気にしてたの」

「れ、怜さん……」


 私は、彼女に何て声をかけて良いのか分からずに戸惑っていた。きっと、怜さんはずっと言えずに苦しんでいたんだ。私も彼女につられて自然と涙が出始めていく。


「だから……ずっと怖くてふたりに聞けなかったの。もしかしたら、あの成人式の写真の続きがこの部屋の何処かにあるかもしれないって」

「怜……」


 彼女の父親は小さく呟き、項垂れる。彼も彼でどう言葉をかけたら分からないのかもしれない。


「いいだろう。三人が俺たちを疑うというなら、はっきり白黒つけよう」

「龍世くんのお父さん」

「もしも、怜さんが俺の子供なら、母さんと離婚して慰謝料代わりに財産分与したお金を三人に渡そう」

「あ、貴方?」

「だが、違ってたら三人ともここで土下座して詫びろ。それで良いな」


 こうして、家族会議は、双方の親たちの疑惑を晴らす形で終わった。

 私は、泣きつかれて目元が腫れた恋人の手を握って私のアパートまで連れて行く事にした。

 すると、恋人の母親に呼び止められた。


「結衣さんも怜の大切な人だから、もう家族よ。だから、娘をお願いします」


 え……これ、もう公認の仲ってこと……?


「えと、あ。はい」


 私は戸惑いながらも短く返事をして玄関を出る。


「……結衣。ありがとう。これからもよろしくね」

「……は、はい!!」


 こうして、波乱の家族会議に一旦幕を閉じた。




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