第22話 家族会議
週末。私は、久しぶりに怜さんの実家へ向かった。例の武岡龍世と薫の記念撮影の動画を見て彼女がショックを受けて以降の訪問に緊張していた。
「大丈夫かな……」
アプリ開発の打ち合せ、打ち上げでよく怜さんの実家へ行っていたはずなのに、扉が重々しく感じた。
「今日は来てくれて、ありがとう。結衣」
「大丈夫ですよ。もう、私も家族になったので嬉しいですよ」
不安げな表情で出迎えてくれた彼女に対して、私はにっこりと笑みで返した。とはいえ、義妹夫婦の家族会議にどの立場で出席すれば良いのか困惑していた。
「今回の家族会議は、専門の下着を扱う下着屋の副店長として客観的に参加しつつ、おかしいと思ったら義理の姉として注意するから安心してね」
「う、うん。ありがとう、結衣」
テーブルに案内されると、眉間に皺を寄せて複雑な面持ちの両親と頭を抱えている義妹旦那である武岡龍世、そして真顔の義妹が鎮座していた。
「ふたりは思春期で、そういった性に関する事に子供が興味を持つことは親としては、喜ばしいことだ。だが、それはそれとして限度はある。……何なんだ、あの動画と写真は。ただの性的好奇心ならまだしも、『人を痛めつける行為』と『撮影していること』が問題なんだ!」
両腕を組んで威圧する龍世の父親の声は淡々としているが、困惑と怒りの籠っているのか声が震えていた。
「あれは、私たちの性生活を満足させる為の記念撮影です」
「薫さん。私は息子。……いや、貴方のご主人に聞いている」
「うちのお母さんが、私のスマホを取り上げてラインのやり取りを見ていますよね? 私から積極的に頼んでいるので、亭主は悪くありません」
「父さん。俺から言い訳をさせてくれ」
「龍世。いつも守ってくれているから、今度は私が貴方を守るから」
「わかった。無理はするなよ。俺が補助するから」
龍世の父親の尋問に対して、薫さんは淡々と答えてから双方の母親の顔を見る。これに対して龍世さんは、薫さんの様子を見守る。
「えっ、ちょ、薫……?」
私の隣にいる怜さんが動揺していたので、私は「大丈夫ですよ」と小声で優しく言って背中をさすった。
あんなに龍世さんの後ろに隠れていた薫さんが相手の顔をじっと見て答える姿に、私は気圧されていた。これが、一生彼と地獄のそこまで人生を添い遂げると決心した女の覚悟なのか。……私には隣にいる桐生怜さんと一緒にいる覚悟が出来ているの?
「薫。……私たちは貴方に寂しい思いをさせてしまった。そればかりか、龍世さんにお世話を押し付けた私たちが悪かった。……でも、私たちが仕事でいないときはいつもあんな感じなの?」
「お母さん。それは誤解です。私たちは普通の行為をするときは写真も動画撮らずに愛し合っています。三週間に二回は」
「……三週間に二回?」
双方の母親が顔を見合わせると、怜さんと薫さんの母は声を震わせながら自分の娘の顔を見る。
「……いや、その……」
「ご、ごめん、ちょっとついていけないわ」
「いや……あの。その……。ごめん、私たち。貴方たちの事が理解するのが難しくなったわ」
怜さんと薫さんの母は言葉に詰まっていて、顔色が悪い。ってどんなことをしてたんだよ、三週間に一回は。
いや……え、三週間に二回? ってことは、年間……二十四回? ……思ったより、普通? いや、無理かも?
普段は龍世さんが薫さんをリードしていたけど、裏では薫さんがリードしてたってことね。なんか、意外。
でも、他人の性生活に口出すのも変だよね……。とは言っても、親が心配する気持ちも分かる。
「薫さん。百歩譲って、マゾな性癖を自分の旦那に頼んで発散するのは良いとして、それを撮影して保存することが問題だ。万が一、もしスマホがハッキングされたり、誰かに勝手に思われたら、一瞬で拡散されたんだぞ?」
「た、確かにそうだけど、姉たちがリリースするアプリの新機能なら多少のリスクは抑えられるって期待してるの」
「薫さん。うちのお店の専用のカメラ機能の事を話しているけど、あれは完全じゃないの」
私は、薫さんの一言に対して苦言を呈す。
ここから、私は客観的にこのふたりの問題に切り込んだ。
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