第3話 追跡者
早朝の江ノ島は、観光客もまばらで静かだった。美智子は江ノ島電鉄の駅を降り、海からの潮風を深く吸い込んだ。どこか懐かしい感覚が胸をかすめる。彼女は昨日から友人のマンションに身を潜め、用心のため携帯電話の電源を切り、新たに購入したプリペイド携帯だけを持ってきていた。
「旧村井邸……」
美智子は地図アプリを確認せず、直感だけで歩き始めた。昨日のフラッシュバックから、場所がおぼろげながら思い出されていた。坂道を上り、民家の間を抜けると、古い西洋建築の洋館が見えてきた。明治時代の実業家、村井吉兵衛の別荘として建てられた建物だ。
今は観光名所として公開されているが、平日の早朝ということもあり、人影はほとんどない。美智子は入口に立ち、再び鮮明なフラッシュバックに襲われた。
_雨の日の午後、健太郎と二人で駆け込む洋館。誰もいない展示室でそっと手を繋ぐ。「このプロジェクトが終わったら、正式にお付き合いしてください」と真剣な表情で告げる健太郎。頬を赤らめながら頷く自分。_
「記憶が……戻りつつある」
美智子は震える手で額を押さえた。それは確かに自分の記憶だった。操作されていたはずの記憶が、少しずつ表面に浮かび上がってくる感覚。
「来てくれたんですね」
振り返ると、健太郎が立っていた。昨日と同じ落ち着いた表情だが、目の奥に緊張の色が見える。
「約束通りよ」美智子は静かに答えた。「あなたの言うことが本当かどうか、確かめたいの」
健太郎は周囲を警戒するように見回し、美智子の腕を軽く引いた。
「中に入りましょう。ここでの会話は危険です」
二人は入場料を払い、館内に入った。昨日の雨で観光客は少なく、二階の展示室には誰もいなかった。窓からは相模湾が一望でき、朝日に照らされた海面がきらきらと輝いていた。
「三十年前、私たちはよくここに来ました」健太郎は窓際に立ち、遠くを見つめながら言った。「プロジェクトの重圧から逃れるために」
美智子は隣に立ち、同じ景色を眺めた。
「昨日、USBの内容を見ました。私の記憶が操作されたという証拠が……」
「はい」健太郎は重々しく頷いた。「プロジェクトMの全容です」
「あなたが実験責任者だったのね」
美智子の声には怒りが滲んでいた。健太郎は悲しげに微笑んだ。
「最初は純粋な医療技術として始まったんです。アルツハイマー患者の苦痛な記憶を和らげるための技術でした」
「それが、どうして……」
「軍事転用されたんです」健太郎の表情が硬くなった。「私が阻止しようとした時には、すでに手遅れでした」
美智子は窓ガラスに映る自分の姿を見つめた。六十五歳の姿。しかし、心の中では三十代の記憶が蘇りつつある。その違和感に彼女は戸惑いを覚えた。
「あなたは私の記憶を消した」
それは質問ではなく、確認だった。健太郎は長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「あなたを守るために」彼の声は震えていた。「プロジェクトの真実を知ったあなたは、それを公表しようとした。そうすれば、あなたは消されていた」
「消される?」
「はい。国家機密を守るためなら、彼らは躊躇しません」
美智子は寒気を覚えた。昨日のUSBの内容が事実なら、プロジェクトMは単なる記憶操作技術ではない。それは戦争における心理兵器としての可能性を秘めていた。敵国の要人の記憶を操作し、重要情報を抜き取る。または虚偽の記憶を植え付け、誤った判断をさせる。そんな恐ろしい用途が想定されていたのだ。
「でも、なぜ今になって私に接触したの?三十年も経っているのに」
健太郎はポケットからタブレットを取り出し、美智子に見せた。画面には「メモリーリンク」のアプリ画面が表示されていた。
「あなたが開発したこのアプリは、プロジェクトMの技術に酷似しています。無意識のうちに、あなたは過去の技術を再現していたんです」
「それで私は再び危険な状況に……」
「はい。彼らはあなたのアプリが広まることを恐れています。基本原理が似ているため、誰かがプロジェクトMとの関連性に気づく可能性があるからです」
美智子は深く息を吐いた。混乱と怒りが入り混じる感情に支配されながらも、冷静に考える必要があった。
「あなたは三十年間、何をしていたの?」
「監視していました」健太郎は静かに答えた。「彼らの動きを。そして、あなたを」
「私を?」
「あなたの安全を確認するために。プロジェクトが終了した後も、彼らがあなたを完全に諦めたとは思えなかったからです」
美智子は健太郎をじっと見つめた。彼の目に嘘はなさそうだった。それでも、すべてを信じるには躊躇いがあった。
「証拠はある?あなたが私を守っていたという」
健太郎はタブレットをスワイプし、別の画面を表示した。そこには美智子の過去二十年分の活動記録が整理されていた。彼女の転職、引っ越し、そして「メモリーリンク」の開発過程まで。
「ストーカーみたいね」美智子は皮肉を込めて言った。
健太郎は苦笑した。
「そう思われても仕方ありません。でも、これは愛情からではなく、責任からです」
「責任?」
「あなたの記憶を奪った責任です」健太郎の声は真摯だった。「そして、かつての約束を守るために」
「約束?」
健太郎は美智子の目をまっすぐ見つめた。
「『もしもの時は、必ず真実を伝える』。あなたと交わした約束です」
その言葉に、美智子の脳裏に別のフラッシュバックが走った。
_実験室の隅、二人きりの時間。「もし何かあったら、健太郎さんが真実を教えて」と懇願する自分。「約束する」と真剣な表情で応える健太郎。_
「思い出した……」
美智子はその場に膝をつきそうになった。健太郎が素早く彼女を支えた。その腕の中にいることが、不思議なほど自然に感じられた。
「あなたが開発したアプリには、記憶回復効果があるようです」健太郎は優しく言った。「意図せずに、自分自身の記憶ブロックを解除しつつあるんです」
「皮肉ね」美智子は弱々しく笑った。「自分で自分の記憶を取り戻すなんて」
二人は静かな展示室の隅に座り、健太郎はさらに詳細を語り始めた。
「プロジェクトMは表向き一九九五年に終了しましたが、実際は別組織に引き継がれています。コードネーム『イレイザー』という組織です」
「イレイザー……消す者」
「はい。彼らは国家にとって不都合な記憶を持つ者を監視し、必要なら『処理』する組織です」
美智子は恐怖を覚えた。まるでスパイ映画のような話だが、彼女の人生に起きている現実だった。
「彼らが私を追っているの?」
「おそらく。あなたのアパートの異変は彼らの仕業でしょう」
美智子は昨日のことを思い出した。スマートフォンの異常な動作。監視カメラの映像欠損。そして消えた「メモリーリンク」のアプリ。
「彼らは何を望んでいるの?」
「あなたの頭の中にある情報です」健太郎は厳しい表情で言った。「プロジェクトMの核心部分——記憶操作のアルゴリズム。それは文書化されておらず、主任研究員の頭の中にしかありませんでした」
「主任研究員?」
「あなたです、美智子さん」
美智子は言葉を失った。彼女自身が中心的な研究者だったという事実は、USBの資料にはなかった。
「私が……そんな恐ろしい技術の開発者?」
「技術自体に善悪はありません」健太郎は諭すように言った。「あなたはアルツハイマー患者を救うための技術を開発したんです。それが軍事転用されたのは、あなたの責任ではない」
美智子は混乱していた。自分が知らない自分の姿。失われた記憶の中の自分自身。それは別人のようでありながら、確かに自分だった。
「何をすればいいの?」
「あなたの記憶を完全に取り戻す必要があります」健太郎は決然と言った。「そして、プロジェクトMの真実を世に出す。それが彼らの力を削ぐ唯一の方法です」
「でも、それをすれば私たちは狙われる」
「その通りです」健太郎は悲しげに微笑んだ。「危険な賭けです。でも、三十年前、あなた自身がそう望んだんです」
美智子は窓の外を見つめた。海は相変わらず美しく、無情なほど平和に広がっていた。
「時間がありません」健太郎は立ち上がった。「ここに長居するのは危険です。次の場所に移動しましょう」
二人が展示室を出ようとした瞬間、美智子は違和感を覚えた。入り口付近に立つ男性——黒いスーツに身を包み、耳にはイヤホン。一見すると普通の観光客に見えるが、その視線は明らかに二人を追っていた。
「健太郎さん」美智子は小声で警告した。「あの人、私たちを見ている」
健太郎は一瞬だけ男性の方を見て、表情を引き締めた。
「イレイザーの工作員です。見つかりました」
「どうすれば?」
「私に続いて」
健太郎は美智子の手を握り、別の出口に向かって歩き始めた。しかし、その方向にも別の男性が立っていることに気づいた。
「囲まれている……」
「裏口から」
二人は展示されている調度品の間を縫うように進み、スタッフ専用の通路へと向かった。背後では男性たちが動き始めたのが分かる。急いで階段を降り、裏口から外に出ると、あいにく雨が降り始めていた。
「車はありません」健太郎は雨の中、辺りを見回した。「徒歩で逃げるしかない」
二人は雨に濡れながら、坂道を駆け下り始めた。六十代とは思えない俊敏さで健太郎は動き、美智子もそれに続いた。日頃のウォーキングが功を奏し、彼女は息を切らしながらも何とかついていけた。
坂道を下りきったところで、健太郎は突然方向を変え、路地に入った。狭い路地を抜けると、海岸線に出た。雨で視界は悪いが、それが追っ手からの隠れ蓑にもなった。
「あそこです」
健太郎は海岸沿いの小さな漁師小屋を指さした。二人は急いで小屋に飛び込み、ドアを閉めた。中は埃っぽく、漁具が散らばっていたが、今は使われていないようだった。
「彼らは本気です」健太郎は窓から外を警戒しながら言った。「こんなに早く動くとは思いませんでした」
「私たちの行動を予測していたの?」
「おそらく。あなたの携帯電話は?」
「電源は切っています」美智子はプリペイド携帯を取り出した。「これしか持っていません」
「賢明な判断です」健太郎は安堵の表情を見せた。「でも、彼らには他の追跡手段もあります」
彼はポケットから小さな装置を取り出し、操作を始めた。
「これは?」
「電波探知機です。もし追跡装置があれば、それを検出できます」
健太郎は装置を美智子の周りで動かした。すると、彼女のジャケットのポケットで反応があった。
「何か入っています」
美智子は恐る恐るポケットに手を入れた。見覚えのない小さな金属片が出てきた。コイン大の薄い金属で、表面にはなにも印がない。
「追跡装置です」健太郎は厳しい表情で言った。「いつの間に……」
「わからないわ。昨日からこのジャケットを着ていたけど……」
「青山公園での接触時に仕掛けられたのでしょう。あるいは、その前から」
健太郎は追跡装置を床に置き、靴で強く踏みつぶした。
「これで時間を稼げます。しかし、彼らはまだ近くにいるはずです」
美智子は雨音を聞きながら、震える手で顔を覆った。事態の深刻さが現実味を帯びてきた。
「私、怖いわ」
「当然です」健太郎は優しく彼女の肩に手を置いた。「でも、あなたは三十年前も勇敢でした。真実のために立ち向かう勇気を持っていた」
美智子は深呼吸をして、気持ちを落ち着けようとした。そして、健太郎の目をまっすぐ見つめた。
「次はどうするの?」
「プロジェクトMの最終段階の記録がある場所に行きます」健太郎は決然と言った。「東京郊外の廃棄された研究施設です。そこであなたの記憶を完全に取り戻せるかもしれません」
「東京に戻るの?危険じゃないの?」
「はい、最も危険な選択です」健太郎は皮肉げに笑った。「だからこそ、彼らも予想しないでしょう」
美智子は窓から外を見た。雨は激しさを増し、海は灰色に染まっていた。どこかで雷鳴が轟いた。
「こんな天気でよかったわ」彼女は小さく笑った。「追っ手の視界も悪いでしょうから」
「そうですね」健太郎も微笑んだ。「あなたらしい発想です」
二人は小屋の隅に腰を下ろし、雨が弱まるのを待った。不思議なことに、この危険な状況にありながら、美智子は健太郎と一緒にいることに安心感を覚えていた。それは三十年前の感情の残響なのか、それとも新たな感情なのか。彼女にはまだ判断できなかった。
「健太郎さん」美智子はおもむろに尋ねた。「私たちは、どんな関係だったの?」
健太郎は遠い目をして、小さく微笑んだ。
「最高の理解者であり、最愛の人でした」
「恋人同士?」
「はい。そして、同志でもありました」
美智子は健太郎の横顔を見つめた。年齢を重ねた彼の表情には、苦労の跡が刻まれていた。それでも、凛とした佇まいは昨日のフラッシュバックで見た若き日の彼と重なる。
「記憶が戻ったら、全部思い出せるのかしら」
「おそらく」健太郎は静かに頷いた。「ただ、それが幸せかどうかは分かりません。辛い記憶も戻ってくるでしょうから」
雨の音が小さくなってきた。健太郎は立ち上がり、窓から外を確認した。
「人影はありません。移動するなら今です」
「どうやって東京に戻るの?」
「私の車を駅付近に停めています。まずはそこまで行きましょう」
二人は雨の中、再び走り始めた。今度は海岸線を離れ、人家の間を抜けて駅方面へ向かった。美智子は健太郎の背中を追いながら、断片的な記憶が蘇るのを感じていた。
_研究室での徹夜作業。健太郎と交わす専門的な会話。コーヒーを飲みながらの議論。そして、プロジェクトの危険性に気づき始める自分。_
駅前の駐車場に着くと、健太郎は古いセダンのドアを開けた。
「乗ってください」
美智子が助手席に座り、健太郎がエンジンをかけようとした瞬間、駐車場の入り口に黒いSUVが滑り込んできた。
「彼らだ!」
健太郎は急いでエンジンをかけ、車を発進させた。黒いSUVも動き出し、二台の車は雨の中、狭い江ノ島の道を疾走し始めた。
「シートベルトをしっかりと」健太郎は集中した表情で前方を見つめながら言った。「少し乱暴な運転になります」
美智子はシートベルトを締め、後方を振り返った。黒いSUVは着実に距離を詰めてきていた。
「彼らは何をするつもり?」
「可能ならあなたを拘束し、私を排除することでしょう」健太郎の声は冷静だった。「最悪の場合は……事故に見せかけた処理です」
美智子は恐怖で体が震えた。しかし同時に、不思議な高揚感も覚えていた。まるで三十年前の続きを生きているかのような感覚。失われていた自分の一部が戻ってくるような感覚。
「健太郎さん」美智子は震える声で言った。「私、少しずつ思い出しているわ。あなたと過ごした日々を」
健太郎は一瞬だけ彼女に視線を向け、微笑んだ。
「それは良かった。記憶が戻りつつあるということは」
「でも断片的よ。パズルのピースがばらばらに」
「大丈夫です」健太郎はハンドルを握りしめた。「すべてのピースを集める場所に向かっているんですから」
黒いSUVがさらに接近してきた。健太郎は急カーブを曲がり、裏道に入った。雨で視界が悪い中での運転は危険だったが、彼の運転技術は確かだった。
「元諜報部員の運転技術ね」美智子は小さく笑った。
健太郎は驚いた表情で彼女を見た。
「思い出したんですか?」
「あなたが防衛省の諜報部門から来たことを、私に打ち明けた夜のこと」美智子はぼんやりと言った。「雨の夜、このあたりのホテルで……」
健太郎の表情が柔らかくなった。
「そうです。私はもともと諜報部員でした。プロジェクトMの安全管理責任者として配属されたんです」
「そして、私と出会った」
「はい。運命的な出会いでした」
雨の中を走り続ける車の中で、美智子は頭痛に襲われた。記憶が戻る痛み。そして、新たなフラッシュバックが押し寄せる。
_「このプロジェクトは中止すべきです」と健太郎に訴える自分。「このままでは兵器になってしまう」。真剣な表情で頷く健太郎。「あなたの言う通りだ。私も上層部に働きかける」。_
「プロジェクトを止めようとしたのね、私たち」
「はい」健太郎は苦い表情で答えた。「しかし、時すでに遅し。私たちは危険分子としてマークされていました」
美智子はさらに思い出していた。残酷な現実。そして、最後の選択。
「だから私は自分の記憶を消すことを選んだの?」
健太郎は長い沈黙の後、重々しく頷いた。
「あなた自身の選択でした。『私の記憶を消して、彼らの監視から逃れさせて』と。そして私に約束させたんです。『いつか、本当に必要になったら、真実を教えて』と」
窓の外では雨がさらに激しさを増していた。美智子は言葉を失い、ただ前方を見つめた。彼女の人生は、三十年もの間、嘘の上に築かれていたのだ。
「もうすぐ高速道路です」健太郎は言った。「そこまで行けば、少しは安全です」
しかし、交差点に差し掛かった瞬間、別の黒いSUVが横から現れた。健太郎は咄嗟にブレーキを踏み、ハンドルを切った。車は滑るように止まり、二人は前に投げ出された。
「くっ」健太郎は唇を噛んだ。「待ち伏せていたか」
美智子は恐怖で声も出なかった。彼らの車は交差点の真ん中で止まり、両側から黒いSUVに挟まれていた。
「美智子さん」健太郎は彼女の手をしっかりと握った。「私を信じてください」
美智子は頷いた。命の危険を感じながらも、不思議と冷静さを保てていた。それは研究者としての理性なのか、それとも過去の自分の残響なのか。
「どうするの?」
健太郎は助手席の下から小さな装置を取り出した。
「これは最終手段です。車から飛び出したら、私の後についてきてください」
黒いSUVから男たちが降り始めた。黒いスーツに身を包み、無表情の顔。まさに「イレイザー」の名にふさわしい、影のような存在。
「今だ!」
健太郎は装置のボタンを押し、瞬時に辺りが煙に包まれた。彼は素早くドアを開け、美智子の手を引いて車から飛び出した。煙の中、二人は小さな路地へと逃げ込んだ。
「あれは?」
「発煙装置です。諜報活動の基本装備」
二人は雨と煙の中、路地を駆け抜けた。美智子の心臓は激しく鼓動していた。しかし、それは恐怖だけではなく、三十年ぶりに感じる生きている実感だった。
「あそこ!」
健太郎は江ノ島の裏側にある小さな港を指さした。そこには小型モーターボートが係留されていた。
「海から逃げるの?」
「はい。最も予想されない脱出路です」
二人はボートに飛び乗り、健太郎はエンジンをかけた。後方では黒いスーツの男たちが港に向かって走ってくるのが見えた。
「間に合ったわ」
モーターの音が雨音にかき消されながら、ボートはゆっくりと港を離れ始めた。岸壁には黒いスーツの男たちが立ち、何か叫んでいるようだったが、雨のためにその声は聞こえなかった。
美智子は海上から江ノ島を見つめた。雨に煙る神秘的な島の姿。そこで彼女の一部が蘇ったように感じた。
「次はどこへ?」
「東京郊外の廃棄研究施設です」健太郎は操縦に集中しながら答えた。「そこにすべての答えがあります」
美智子は雨に打たれながら、前方を見つめた。自分が何者なのか。自分が何をしたのか。そして、これからどう生きるべきなのか。
すべての記憶が戻った時、彼女は何を選択するのだろうか。
(第3話 終)
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