8話目 カラオケに行く話

「カラオケ行きませんか?」

 テスト明けのお昼休みの教室で、カリンさんは初めて友だちになった日のときのような唐突さで提案してきた。

「カラオケ? ちょっと……」

「そうなんですか? クーポン貰ったんで誰かと行きたいのですが……」

 カリンさんはシュンと小さくなる。そんな彼女を見て、なんとなく申し訳ない気持ちになった。

「あ、そういえば、ここ……」

 ハニートーストが美味しいってSNSで話題になっていた気がする。

「やっぱり行こうかな」

「良いんですか!」

 カリンさんはパアッと表情を明るくさせた。

「それなら、あたしも行きたーい」

 玲奈はやや身を乗り出して話に入ってきた。のんびりするのが好みな玲奈としては、カリンさんの提案に乗ってくるとは思わなかった。

「それじゃあ、放課後一緒に行きましょう!」

 カリンさんは拳を天に上げて、「おー」といいてみせた。初めて出会ったときも思ったけれど、元気のある人だなと思った。

  × × ×

 放課後になって、すぐ私たちはカラオケボックスに向かって到着した。菊池さんはバイトがあるため、来ていない。

 暗く狭い個室の電灯を先頭を歩いていたカリンさんはつけると、大きなモニターには最近ヒットしているアイドルのJポップが流れている。角テーブルには新作で推している飲食類のメニュー表やカラオケリモコンが置かれていた。

「早速歌いましょー!」

 カリンさんはソファに座って、カラオケリモコンをパッと取って曲を探している。

「あたし、飲み物持ってくるよ。なに頼む?」

「私、ジンジャーエール」

「ワタシ、コーラでお願いします!」

「はいよー」

 手をひらひら振ってドリンクバーのあるコーナーへと歩いていった。

 私は赤いソファに座る。ソファは思っていたよりふんわりとしていて座り心地が良かった。

「そうだ。目的の」

 私はメニュー表を開き、お目当てのハニートーストの乗っているページを開いた。

 メニュー表に写っているハニートーストは様々あった。テンプレートのハニートーストはもちろん。ハニートーストの上にいちごとチョコレートの乗ったもの。チョコバナナが添えてあるもの。抹茶アイスとバニラアイスを乗ったものと、その他にも選べるトッピングが書かれていた。

「どれにしようかな?」

 様々な選択を取れてしまい、私は迷ってしまう。

「ハニートーストですか?」

「うん。迷っちゃって」

 カリンさんはマイクを片手に覗き込んできた。

「どれも美味しそうデスよね」

 カリンさんも食べたいようで、メニューに目を通している。しばらく立たないうちにイントロが流れてきた。カリンさんは立ち上がって歌を歌い始めた。曲は先程、個室に入ったときに流れていたアイドルのJポップだった。カリンさんは明るい曲調のJポップをノリノリで歌っている。

「飲み物、取ってきたよー」

 ドリンクバーから戻ってきた玲奈はトレーに頼んだドリンクを乗せて個室に入ってきた。

「置いちゃうねー」

 そのままドリンクを角テーブルに置いていく。

「ありがとう、玲奈」

 カリンさんは歌に熱中している。

「ハニートースト頼むの?」

「うん。カリンさんにも言われた」

「迷ってるんだ?」

「うん……」

「それとどれで迷ってるとかある?」

「シンプルなものにメープルシロップのトッピングつけるか、いちごとチョコの乗ってるやつにしようかで迷ってるんだけど」

 どちらも捨てがたい選択で迷ってしまう。

「それじゃあ、あたしメープルトッピングの頼むから、桜子はいちごとチョコのを頼みなよ。それでシェアしよ」

「いいねそれ」

 玲奈の提案に乗って、玲奈は電話にを取って注文をしてくれた。私は玲奈が持ってきてくれたジンジャーエールを一口飲む。ちょい辛で美味しい。そうこうしているうちにカリンさんは歌い終えていた。

「次なに歌いましょうかねー?」

 カリンさんは楽しげで、再びカラオケリモコンで選曲をしていた。

 しばらくカリンさんの曲を聞いていると、店員さんが入ってきてハニートーストを角テーブルに置いてくれた。

 私の前にはいちごとチョコレートのハニートーストが置かれた。出来立てのハニートーストは、ほっこりしていて美味しそうに見えた。

 いただきますと声にしながら手を合わせて、早速ナイフとフォークを手にして、いちごとチョコレートがフォークに乗るようにハニートーストを一口サイズに分けて食べる。チョコレートの甘さといちごの甘さが合わさって美味しい。ハニートーストも噛み心地が柔らかく、蜂蜜の甘さがふんわり広がって幸せな気分になった。

「桜子、メープルも食べる?」

「うん。ありがとう。頂きます」

 私は玲奈のメープルシロップのかかったハニートーストをまた一口サイズに切り分けて頂く。メープルシロップの濃厚な甘さがじんわりと広がって美味しかった。

「サクラコたちは歌わないんですか?」

「私はハニートースト目当てだから」

「それじゃあ、あたし歌おうかな」

 玲奈はカラオケリモコンを手にとって、曲を入れて、すぐ歌が流れてきた。玲奈が選曲したのはしっとりとしたバラードだった。控えめに言って上手いと思った。

「良いなあ、玲奈の歌声」

 私たちはカラオケリモコンを回して曲を入れていき、時間いっぱいまでハニートーストとカラオケを楽しんだ。

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