7話目 勉強会をする話
「勉強会がしたい?」
いつものような昼休み。教室で私と玲奈はカリンさんの頼み事を聞いていた。
「そうデス! テスト近いので、勉強教えてほしいのデス!」
確かにテストは一週間後に迫っている。
「いいけど教科は?」
「その……言いづらいんデスけど……」
私の問いかけにカリンさんは言いづらそうにして口を開いた。
「……え、英語を」
「え? 英語?」
思ってもいなかった教科だったため思わず私は聞き返してしまった。
「そうデス! ワタシはアメリカと日本のハーフですけど、生まれも育ちも日本というのは初めて会った日に言いましたよね?」
確認するカリンさんに私と玲奈は同意の頷きをした。
「言ってたね。ね、桜子」
「うん。言ってたよね」
カリンさんは説明を続ける。
「パパは日本大好きだから英語忘れたよって言うし、日常会話も日本語なので頼れる人がいないのデス……」
カリンさんは手で顔を覆って恥ずかしがってるようだ。
「お願いデス! ワタシに英語教えて下さい!」
私の手を掴んでカリンさんは頼み込む。カリンさんを見捨てるなんて選択肢は当然なく、私は笑顔で答えた。
「私たちで力になれるなら」
「そうだね。やろうか、勉強会」
「やったー、ありがとうございます!」
カリンさんは両手を上げて喜んだ。
「アヤノはどうしますか?」
「ボクはパス。バイトあるから」
「相変わらず仕事熱心デスね、アヤノは。肩を揉んであげます」
カリンさんは綾野さんの背に回って肩を揉み始めていた。私はカリンさんに向かって声を掛ける。
「じゃあ、三人で放課後に勉強会しようっか」
「よろしくお願いしますデス!」
カリンさんは菊池さんの肩を揉みながら、頭を深々と下げた。
× × ×
机を向かい合わせて私たち三人は英語の教科書を開いていく。
私と玲奈でカリンさんに勉強を教え合いながら時間が進んでいく。カリンさんが頼み込むほどだからどのくらい困っているのだろうと考えていたけれど、私が想像していたよりもカリンさんは勉強の内容を習得していた。それに飲み込みが早かったので、試験範囲の内容をあっさりと復習できた。
「頼まれたときはどれくらいのものだろうと思ってたけど、意外と出来てるじゃん。ね、桜子」
私は頷いて答える。
「うん。むしろ私たちにとって良い復習になったかも」
カリンさんはブンブン手を振って言葉にする。
「いえいえ、二人の教え方が良かったからすんなり試験範囲の内容を振り返られたのデス。ありがとうございました!」
カリンさんは勉強を教えてほしいと頼んたときのように、また深々と頭を下げた。
「お礼を言うのは私たちの方こそだよね」
玲奈の意見に私は首を縦に振って同意した。
「思ったより時間が余ったね。ふたりともどうする?」
私は二人に問いかけた。
「うーん別の教科を復習ってする時間も微妙な時間だしねー」
玲奈の台詞に呼応して時計の方へと私は顔を向ける。時刻は下校時刻のチャイムが鳴る十分前を指していた。
「なら、なにか雑談しますか」
カリンさんが提案する。
「お題は?」
玲奈は足をプラプラさせながらカリンさんに問いを投げる。
「うーん、お二人は犬派デスか、猫派デスか?」
カリンさんは人差し指を顎に当てながら言った。
「私は猫派だよ」
「あたしも桜子と一緒。猫派」
「そうなのですね……」
「ほう、カリンのその反応からするに」
玲奈は察した目でカリンさんを見て、シュンとしたカリンさんは呟いた。
「はい……犬派デス。ちなみにアヤノも犬派デス」
私は納得して頷く。
「ふーん。幼なじみ同士似るものが出てくるものなのかな?」
「もしかしたらそうかも知れませんね。二人は猫のどこらへんが好きデスか?」
カリンさんが私たちに尋ねてくる。
「私はたまに大きい子もいるけど、基本的にはスリムな身体つきかな。あと気まぐれなところ」
「あたしもー」
「やっぱり幼なじみ同士似るものがあるのデスかね」
カリンさんは顎に手を乗せて考え込む仕草をした。
× × ×
夕日の差す帰りの電車の中。カリンさんと別れた私と玲奈は隣り合って座席に座っていた。
電車が動き出すと、玲奈がスマートフォンを取り出した。
「カリンがあんな事言うから、猫動画見なくなっちゃった」
「私も見ていい?」
「もちろん、いいよ」
玲奈はワイヤレスイヤホンを取り出し、片方を渡してくれた。
「借りるね」
私はワイヤレスイヤホンを受け取り、耳に付ける。玲奈はというと、スマートフォンを素早い指でいじって動画サイトを見つけ猫動画を探していた。
「まあ、どれでもいいよね。猫、みんなかわいいし」
「そうだね」
玲奈は適当な動画をタップして再生させる。動画内の猫は二匹で寄り添って眠っていた。
私が玲奈に肩を寄せると、玲奈は頭を寄せてきた。私は玲奈に合わせて軽くコツンと当てるようにして動画の猫のように頭を寄せた。
それからの時間私たちは降りる駅まで身を寄せて動画を眺め続けていた。
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