16話目 夏祭りに行く話

 熱気の漂う八月の夜。私たち四人はお祭りの開かれている神社へとやって来ていた。

 私は紺色のシンプルな浴衣を。玲奈は朝顔の模様が入った水色の浴衣を。カリンさんは鮮やかな赤色の浴衣を。菊池さんは海を連想させそうなグラデーションの入った浴衣をそれぞれ着ていた。

「早速デスがどこから行きますか? みんなはどこか行きたいところはありませんか?」

「私は特にまずはここ、ってところはないかな」

「あたしも。みんなに合わせるよ」

「じゃあ、アヤノはどこか提案ありますか?」

「射的」

「アヤノ、射的好きデスよね! オッケー。それじゃあ射的の屋台に移動しましょう! それでいいデスね?」

 私と玲奈は頷く。そうして私たちは射的の屋台を探し始めた。

  × × ×

 射的の屋台を見つけた私たちは店番のお姉さんにお金を支払って射的の銃とコルク玉を五発分受け取った。菊池さんはやる気のようで玉を十五発分受け取っていた。

「アヤノ、やる気デスね。なにか狙いでも?」

「あのぬいぐるみ」

 そう言った菊池さんの視線の先──上の段の一番右端──には、大きめのクマのぬいぐるみがドンと鎮座してあった。

「ぬいぐるみって落とすの難しいんじゃ?」

「うんうん。まず動かないって」

 私と玲奈は心配するも、菊池さんは気にもかけず射的の銃の発射口にコルク玉を詰めていた。

「やることに意義がある」

 真剣な目で大きなクマにぬいぐるみに視線を向け、射的の銃を構える。さながら一流のスナイパーのように見えた。映画でしか見たこと無いけど。

 そうして一発目が放たれる。コルク玉はクマのぬいぐるみに命中した。クマのぬいぐるみは私が思っていたより軽かったようで、若干後ろへと下がった。それから残り十四発。コルク玉はクマのぬいぐるみに命中し続け、見事クマのぬいぐるみを落とすことが出来た。

「すごい」

「まさか落とすなんて」

 私と玲奈は声を合わせて驚いた。

「……達成感」

「アヤノ、射的得意デスもんね!」

「そうだったんだ。それならそうと言ってくれればよかったのに」

 玲奈が抗議の声を上げるも、カリンさんは笑って受け流した。

「私たちはどうしようか」

「無難にお菓子とかでいいんじゃない?」

「そうしよっか」

 玲奈と話している内にカリンさんは撃ち終えていたらしい。結果は駄菓子の袋詰めを手にしていた。

「あたしたちも同じの狙おっか」

「うん、そうしよう」

 私たちは協力して駄菓子の袋詰めを狙うことにした。

 一発目。私は照準を合わせて、引き金に指をかける。コルク玉はあらぬ方向へ行き、外れてしまった。玲奈もコルク玉を装填し私と同じ駄菓子の詰め合わせを狙った。コルク玉は命中したけれど、微妙に動いただけで、落とすまではいかなかった。

 そうして何発かは当たったものの、ふたりとも最後の一発となった。

「次で最後だね、桜子」

「そうだね」

 緊張して銃口の先が震えて、狙いが定まらない。

「桜子、せーので撃たない?」

「うん。分かった」

 玲奈の提案に乗って、せーの、と私たちは声を合わせて引き金を引く。コルク玉は二つとも命中し、無事に落下させることとなった。

「やったね、桜子!」

「うん! 玲奈の協力のおかげだよ!」

 私と玲奈は手を合わせて喜んだ。店番のお姉さんにから駄菓子の詰め合わせを貰って二人でどう分けようか話していると、カリンさんが話しかけてきた。

「ふたりともおめでとうございます! 今度はどこか行きたいところありますか?」

「私、ちょっとお腹空いたかも」

「あたしも。どっか食べ物屋さんの屋台に行かない?」

「オッケーです。なにかいい香りがしますから、とりあえずそっちに向かってみますか」

「賛成」

 菊池さんはいつものようにクールに返す。

 私たちはいい香りのする方へと足を向けた。

 程なくして匂いの正体が分かった。いい匂いの正体は牛串を販売している屋台だった。

「牛串デスか良いですね! どれにしましょう?」

 牛串にも種類があったけど、私が目を惹かれたのは神戸牛を使った牛串だった。お値段はちょっとするけれど、高級感があって魅力的に見えた。私は店員さんに声をかける

「神戸牛の牛串一本ください」

「あたしも同じのください」

 店員さんは、一本八百円です。タレと塩、どちらにしますか? と質問してくる。それじゃあと私と言う。

「私、塩で」

「じゃあ、あたしはタレにしようかな」

 カリンさんが間に入ってきて店員さんに注文をした。

「ワタシは両方いただきます!」

「菊池さんはいいの?」

「ボクはいいよ。なんとなく先のこと予想出来るし」

「……?」

 私が疑問に思っている間に焼きたての牛串が出来あがっていた。

「いただきます」

 早速出来立てホヤホヤの牛串をあーん、と一口頂く。牛肉のジューシーさと塩の加減がちょうど良く美味しい。お肉の食感もホロホロしていて心地いい。玲奈も同じようにかで美味しさを満喫しているらしい。玲奈の表情から美味しさが察せられる。

「美味しいね、桜子。塩の牛串はどんな感じ?」

「肉汁がジューシーで塩加減もいい感じだよ」

「ねぇ、一口交換しない?」

「いいよ」

 私は即答で答えた。玲奈のタレの掛かった牛串を頂く。私の食べた牛串のも劣らずジューシーで、タレも甘だれがかかっていて美味しかった。

 カリンさんの方を見てみると、カリンさんは牛串をそれぞれ半分ほど食べていた。

「アヤノ、牛串……食べませんか?」

「やっぱりね」

 菊池さんはカリンさんが食べ切れないことを予測していたらしい。カリンさんから半分残った牛串二本を受け取った。

 私たちが牛串を食べ終えると、どこからかアナウンスが聞こえてきた。アナウンスは花火がもうすぐ打ち上がるのを知らせるものだった。

「花火デスって! 楽しみデスね!」

 カリンさんがワクワクしだすと、菊池さんが提案する。

「どこか見やすそうなところに行かない?」

「そうデスね。ここじゃあ人がいっぱいで見づらいと思います」

 悩むカリンさんと綾野さんに対して私は口を開いた。

「それじゃあ、公園はどうかな」

 私の提案に玲奈は納得したように頷いた。

「うん、そうだね。意外とあそこ、穴場なんだよね」

「オッケーデス! それじゃあ、みんなで移動しましょう!」

 私たちはみんなで花火を見るため、駆け足で公園へと向かった。

  × × ×

 公園は人気ひとけがなかった。穴場である証拠だ。私たちは公園の長ベンチに座って花火が打ち上がるのを待っていた。

「花火、もうすぐデスかね?」

 カリンさんの問いに私は答える。

「うん、もうすぐだと思う」

 そう言って間もない内に、ヒュ~っと花火の打ち上がる音が聞こえ、すぐにドーンと大きな音をたてた。キラキラと鮮やかな閃光を散らした。みんなしてわぁ、と口にしていた。それから花火は何発も上がり、みんなして見惚れていた。

「花火、きれいだね」

 そう言ったのは玲奈だった。私は玲奈の顔を見る。花火を見上げる玲奈はどうしてか花火以上に綺麗に見えた。

 私は打ち上がる花火を見返してボソリと言葉を漏らした。

「そうだね」

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