それぞれの道

「本棚はそれぞれ運び出したわね。あ、本棚のあとは畳の色がそこだけ青い」

　カーテンがあるのに意外と日焼けするものだなって？　貴方しょっちゅうカーテン閉め忘れてたでしょう。

　ん、大丈夫よ空の整理ダンスぐらい動かせるわよ。

　これでも、高校時代柔道部だったんだから。

　今度は何？　失くしたと思ってたトランプが出てきた？

　揃ってないとトランプにならないから白カードに書こうかって話になったけど、結局そのままになったのね。

　それにしても、忘れたころに見つかるなんて、ね。

　それも、よりによってハートのエースが。

「お引越しのお祝いもらったよね？　何かお礼しないとね」

　え、0円をスマイルで返すって？　ハンバーガーショップじゃないんだから。

　でも、ちゃんと仕分けないとね。貴方の分と私の分に。

「よし、片付いたね。お互いに忘れ物がないか点検しましょ」

「私は忘れ物はない……」

　貴方も忘れ物ないのね……

「掃除機かけちゃうから」

　あ、水回りの掃除してくれるんだ。ありがとう。

　よし、終わった。まあ、たいして広くないからね。

　水回りも終わったんだ。

　じゃあ、退居ね。

　大家さんへ挨拶するんだっけ？

　あ、もう終わらせてるんだっけ。

「鍵が逆さま」

　結局最後まで鍵の向きを覚えられなかったんだ。

「じゃあ、元気でね」

　え？

『きみは幸せでしたか？』

　私は……