第2話 破滅の魔女

 ソファーには、幼女が踏ん反り返っている。俺は、幼女に話かける。


 「それで君は誰なんだ?」


 「君、僕の事を知らないのかい?」


 彼女は、心底驚いた表情をするとこれまでの経緯を話しだした。


 「僕は、アルフィナ。世間では、破滅の魔女と呼ばれているんだよ。百年前とある国の王族と揉めてしまってね。つい勢いで国を滅ぼしてしまったんだ。その後教会の人間が来て僕を封印して行った。暫くはこの地で休んでいるつもりだったのだけど、君が召喚した家で封印が解けたのさ」


 よし、こいつはもう一度封印しておこう。面倒事の匂いがする。


 「えっと・・・アルフィナさん?封印ってどうやったら出来るんだ?」


 「嫌だなー。僕と君の仲じゃないか。アルフィナと呼んで欲しいな」


 モジモジしながらそんな事を呟く。しかし、チラチラとこちらを窺っているのを感じる。これは、俺の反応を楽しんでいるのがバレバレだ。


 俺が反応しない事に不満な様子で、アルフィナが声を上げる。


 「こんな美女が頼んでいるのに君は、酷い男だね」


 「何処が美女何だ?精々美少女だろ?」


 アルフィナは、自分の体をペタペタと触り納得したように頷く。


 「ああ。そうか。今は、この姿だったね。封印されている間に力を温存する為に幼い姿だったね」


 そう言うと何かを唱える。アルフィナの体を光が包み込む。眩しさに目を閉じる。光が収まり目を開けるとそこには、美女が立っていた。


 腰まで伸びた青い髪。金色の瞳を持つ。


 「ふふふ。どうだい?美しいだろう?これが僕の本来の姿だよ」


 アルフィナは、そう言うと微笑む。その姿にドキッとしたがそれを誤魔化す様に咳払いをして話を続ける。


 「そ、それでアルフィナ。封印は、どうやってやるんだ?」


 「封印自体は、そんなに難しくない。核を用意して魔法陣を展開させるだけだね。問題は、相手との実力差と魔法陣に持たせる機能。私の封印には、千人の人間の命が使われ、魔法陣の機能も内側から破壊出来ない事だけだった。まあ、だからこそ私を封印出来たのだけどね。・・・それより、何故そんな事を聞くのかな?」


 笑いながら問いかけていたが、アルフィナの目は、こちらを射殺さんばかりに鋭くなる。

 ツー。と首筋に冷や汗が流れる。俺は、何とか誤魔化しながら話を進める。


 「特に他意はないよ。俺は、気づいたらこの場所にいたから、分からない事も多いんだ。不快にさせたのなら謝る」


 アルフィナは、面白そうに笑いながら口を開く。


 「ふふふ。君は本当に面白いね。僕は全く気にしてないよ。それよりもだ!!君は、迷い人と言う事で良いのかな?」


 「迷い人?それは何?」


 「うーん。正確には分かっていないんだけど、ごく稀に他の世界から現れる人がいるんだ。その人たちは、決まって気づいたらここに居た。と言うみたいだね。だから、君も迷い人なのかと思ったんだ」


 「成程な。それなら俺は、迷い人と言う事になる。元々は、この世界と別の世界に居たんだが、気づいたらこの森にいた。何か使える物はないかとステータスを確認して、そこにあったスキルを使ってみたんだ」


 アルフィナは、俺の説明を聞き嬉しそうに頷く。


 「やっぱりそうか!!では、この家も君のスキルと言う事で良いのかい?」


 ズイ!と鼻息荒くアルフィナは、顔を近づける。アルフィナの行動に若干引きながらも頷いておく。


 「そうかそうか!!やっぱり僕の直感に間違いは無かったか!!うん。決めた。僕も此処に住むよ」


 勝手に此処に住む事を決められても困る。しかし、何も分からない異世界で一人でいるよりかは、断然アルフィナが居る方がいいかもしれない。


 「君は、この世界の事を何も知らないだろう?此処に僕を住まわせてくれるなら、僕が色々教えてあげるよ」


 確かにアルフィナの言う通りだ。覚悟を決める。


 「分かった。これから宜しく」


 アルフィナは、嬉しそうに微笑むと力強く頷く。


 「ああ、こちらこそ宜しく」



 「ファイアアロー」


 指先から炎の矢が現れゴブリンを貫く。


 「グギャ!!」


 驚いた様な声を上げるが倒す事は出来ずそのままゴブリンが向かって来る。


 「ウインドカッター」


 首がゴトリと落ちる。俺が仕留め損ねたゴブリンをアルフィナが仕留める。


 「はぁ、やっぱりダメか・・・」


 「初めてにしては、上出来だと思うよ。後は、練度を上げていくだけだよ」


 アルフィナの話を聞きながら数日前の事を思い出す。



 アルフィナが俺の家で生活する事が決まった後、俺はこの世界の事を聞いていた。

 

 「此処は、異世界フラムフェルト。剣と魔法の世界だよ。様々な種族が存在していて魔物が跋扈している世界だね」


 「魔物は、俺でも倒せる様になるのかな?」


 「うん?大丈夫だと思うよ。最初は、少し苦戦するかもだけどレベルが上がって来れば倒せる様になるよ」


 「でも、俺攻撃スキル何も持ってないよ?」


 「スキルや魔法は、後から覚える事が可能だよ。但しユニークスキルは、産まれた時にしか覚えず、どれだけ鍛錬しても決して覚える事が出来ないね」


 「じゃ、じゃあ俺でも魔法を使える様になるのか?」


 「勿論。魔法は、誰でも使えるからね」


 次の日から魔法の訓練を始めた。アルフィナの指示に従いながら魔力を感知する所から始める。


 目を閉じて体に魔力が流れる感覚を感じる。暫くそうしていると、体の中心から暖かい感覚がする。アルフィナの方をチラリと見ると嬉しそうに頷いている。どうやら魔力感知には、成功したようだ。


 「それじゃあ次にいこうか。次は、魔力操作だよ」


 「そうか・・・。まだ魔法は、使えないのか?」


 「ふふふ。そんなに焦らなくてももう少しで使える様になるさ」


 アルフィナの言葉でやる気を取り戻す。日本では、使えなかった魔法を使えると分かれば、皆んなテンションは上がるものだ。俺だけがはしゃいでいる訳ではない・・・筈だ。


 魔法の訓練を始めてからアルフィナの目が生温かくなっているのは、多分気のせいだと思う。うん。そう思うことにしよう。


 そろそろ現実逃避をやめよう。魔力操作の訓練をしているがこれが全く上手くいかない。魔力を感じる事は出来るのだが、これを自由に操作するとなると、かなり難しい。


 「アルフィナ~~。やっぱり無理だよー」


 愚痴を溢す俺にアルフィナは、首を傾げながら少し考える。考えが纏まったのか俺の方を見ながら口を開く。


 「そうだね。なら一度魔法を使ってみようか?その方が上手くいくかもしれないからね」



 ゴブリンを倒す事は、出来なかったが取り敢えず魔法を発動する事は、出来たから成功だ。アルフィナの言う通り後は、練度を上げる事に注力する。


 「それじゃあ暫く、僕は出かけて来るよ」


 アルフィナに魔法を教わって暫くした頃、彼女が昔の知り合いに会いに行く事になった。


 長い間封印されていた彼女の知り合い・・・。きっとその人物も長命種なのではないだろうか?


 エルフやドラゴンだったりして?いや彼女は、賢者なのだから元勇者もあり得るのか?


 「僕の話聞いてる?」


 妄想から現実に引き戻される。目の前には、少し不機嫌そうにアルフィナが睨んでいる。


 「だ、大丈夫。ちゃんと聞いてるよ。アルフィナが帰って来るまで無理はしない」


 まだ疑いの目を向けているが、諦めたのか溜息を吐く。


 「まあ、いいよ。そんなに時間は掛からないからね。くれぐれも森の奥には、入っちゃダメだよ。今のユータでは、倒せない魔物ばかりだからね」


 アルフィナは、一通り注意すると出かけっていった。本当に心配性だ。大丈夫。魔法が使える様になったからと言って、魔物相手に試したりしないよ。・・・多分。


 やっぱり魔法は楽しい。アルフィナが出かけてから森に来ていた。勿論アルフィナの言う事を忘れた訳ではない。しかし、森の奥に行く訳でもない。きっと大丈夫だ。


 それに今しかない。アルフィナがいたのでは、駄目なのだ。かっこいい魔法を使って見たい!!男の子なら誰しもそう思う筈だ!!


 男の子と呼べる年齢は過ぎてる?聞こえませーん!!男子は、常に少年の心を持っているのだ!!


 やはり、闇魔法だろう。漆黒の闇で剣を作ってみたりしたい。


 「ぐぬぬぬ!!」


 魔力を操作して剣の形に整える。まだまだ制御が甘いのか刀身が揺らいでいるが、それがまた良い。いずれ自由自在に刀身が変わる剣なども作ってみたい。


 鎧は諦めた。今の俺では、そこまでは出来ない。


 ・・・さて、そろそろ現状をどうにかしよう。先程からゴブリンが攻撃している。まあ、アルフィナが出掛ける前に作った魔道具を使っているから問題はない。


 ただし結界の魔道具の為、攻撃を防げても魔物を倒す事は出来ない。まっまぁ、何とかなるだろう。相手は三匹だ。


 「よし!!」と気合を入れるとゴブリン目掛けて走る。ゴブリンとすれ違い様に剣を振る。しかし、ダメージを与える事は出来ない。


 「グギャ!?」


 ゴブリンも不思議そうに首を傾げる。


 「グヒ!!」


 鼻で笑われた!!ゴブリンどもは、こちらを指差しながら笑っている。仕方ない。究極奥義を出そう!!


 「はあああ!!」


 「お主、困っておるのか?」


 「・・・・!!」


 声の方を向くと真っ赤な髪を腰まで伸ばし、燃える様な紅い目をした幼女が心配そうに見ている。その後ろには、生温い目でこちらを見ているアルフィナがいた。


 「僕に言ってくれたら魔法錬成も教えたのに!!」


 恥ずかしさの余り家に駆け込み布団に包まる。もう引き篭もりになる!!部屋から出ないぞ!!


 そんな決意も虚しく、アルフィナによって強制的に部屋から連れ出されるのは、それから二日後だった。

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