第3話 魔王の魔法
あの自己紹介の後、ニーアは1時間ほど質問攻めを受けていた。
半分ほどは、真面目に答えていたが、残り半分は絶妙に誤魔化している。
「そういえばさぁ〜、なんで勇者様は魔王ちゃんを拾ったの?」
「そうそう、それ気になってたの」
「ああ、それはねぇ、100年程度で死なない話し相手が欲しかったからだね」
「へぇ、そうなの?」
「ああ、長い時は200年ぐらい1人旅だった時もあったからね」
「その時は超暇だったよ」
「200年か、すごいねぇ、気とか狂わないの?」
まあ、一般人なら気が狂いそうな程の時間一人で旅をしているからな。
普通の精神なら壊れているかもね。
勇者の精神を一般人と同じに創るわけ無いけど。
「いや?一人でいることが苦しかったことはなかったね」
「ただ、どちらかと言うと寿命で死ねないことの方が辛かったなぁ」
「長寿故の悩みみたいな感じ?」
「うん」
「あまりに長く生き過ぎるも楽じゃねーなー、て思ったよ」
「すっごい贅沢な悩みだね」
「確かに、そうかもなぁ」
まあ、この世には生きたいのに生きる事の出来ない人が一定数はいるからな。
だが、寿命が実質無限なのも、死にたいのに死ねない、という事が起きる気がするが。
彼のように1人で全部抱えてしまう人種は特にだが。
「そうだ、魔王ちゃんの名前はどうするの?」
「名前、か」
「そうそう!いつまでも魔王ちゃんって呼び続けるのも、なんか、あれでしょ?」
「名付け、、、よし!じゃあ訓練場に行くぞ」
「ん!訓練」
おお、ドーガ達が何言ってんだこいつって感じでニーアを見ている。
実際そうだし。
「なに言ってんだニーア」
実際に言ったな。
「僕は至って真面目だよ」
「そうだから困ってるのよ」
「変なこと言い始めたなー、ってなってる」
「まあそれは置いといて、魔王は名付け方が特殊なんだ」
「へえ!どんなの?」
これは私が掻い摘んで説明するか。
確かここら辺にそれが書いてある本があったはず、、、
ああ、あったあった。
えーと、魔王はそれぞれ司る“属性”や“摂理”がある。
その属性に合わせた名前を付けないと、寿命が極端に短くなってしまう。
逆にその属性に合わせた名前をつけると寿命は無限に近い。
魔王テチャールの魔王学3章4節12行より
「・・・ってとこだな」
「ほへぇー、そうなんだ、なんか不思議」
「ん、不思議」
「なんでかは僕にも分からないけどね」
私は知っているが、わざわざ今ここで言うことは無いだろう。
まず、おそらく文字で認識出来ないだろうし。
◆◇◆
「よーし、準備運動終わり!」
「ん、終わり」
あの会話の後、ニーア達は家の裏庭に出ていた。
というかマジで広いなこの家。
「よし、じゃあ覚えてる魔法撃ってみて」
「ん、魔法、、、」
その瞬間、ニーアは思った、使える魔法が何かを、ちゃんと聞いておけばよかったと。
しかし、後悔先に立たず。
『死』
「え!?ちょっ!?」
「あ、、、やばっ!?」
『対魔法結界』
バギャアァン!!
魔王が魔法を撃った瞬間、ニーア達の目の前で結界が弾けた。
それはつまり、ニーアは魔法を、見てから0.1秒以内に結界を張ったという事、とんでもない反射神経だな。
「ふぅ、、、危なかった、、、」
「ヒィ、、、死ぬかと思ったぁぁ」
「死んでも蘇生できるからいいじゃない、喰らっちゃっても」
「死ぬの怖いから、やだ!」
「3回くらい死んでる人間がなに言ってんのよ」
「僕は死んだことはないけど、流石に死ぬのは怖いからね」
3回も死んでいるのか、魔法使いは後方で戦っているから、死ににくいはずなのだが。
どうやらこのパーティーでは、そんな事は無いらしい。
「ん?大丈夫?」
「ああ、まあ、問題はないね」
「ああそうだ、ドーガ、大丈夫か?」
「ん?ああ、何が起こったかは分から無かったが、なんかやばいって思ったから、咄嗟にガードしたら助かったぜ」
「当たり前の様に言ってるけど、肉体で魔法を弾き返せるのはあんただけなのよ」
「さっすが、筋肉バカだね」
「やっぱりなぁ、最後にものを言うのは、鍛えた肉体だけなんだよなぁ、ガッハッハ」
「ん、すごい」
「おう、ありがとな」
魔法を肉体で弾くのか。
化け物過ぎるだろ、流石に。
まあ過去にもそんな力を持っていた奴は数人いたらしいが。
「まあいいや、えーとねぇ、他に覚えてる魔法、ある?」
「ん、ある」
「じゃあそれを、、、」
『極位対魔法結果』『極位対物理結界』
「よし、じゃあ僕に向かって撃ってみて」
「ん、わかった」
『シャドウストライク』『シャドウバースト』
キィィィィン、、、
「なるほど、、、影の力、、、」
「ニーア、すごい」
「ああ、ありがとう」
流石勇者だな、魔王の扱う魔法を完全に無傷で防ぎ切った。
これほどの防御力があるのは、流石極位魔法というかなんというか。
「よーし、これで名付けの儀式が出来る」
「ん、儀式?」
「ああ、まあ、この儀式魔王側が何かするわけじゃあ無いんだけど、、、」
「よし、、、ハーラ、この術式書いといてー」
「お〜け〜い」
名付けの儀式、か。
この儀式を見るのは実に1000年ぶりぐらいだな。
「蜷堺サ倥¢縺ョ縺弱@縺阪r蟋九a縺セ縺」
「鬆大シオ繧九◇」
「よし、これでオッケー、かな」
この魔法、“名付けの儀式”はロストマジックと呼ばれる古代の魔法の1つで、詠唱が古代語になっている。
よって、詠唱を文字に起こすことが困難なのである。
・・・それはそうとして、ハーラはロストマジックの術式を描けるのか。
ロストマジックは描くのも困難なはずなのだが。
天才魔法使いというのは間違ってないのかもな。
「魔王ちゃん、なんか、頭に名前浮かんでこない?」
「ん、なんか、浮かんだ」
「私の、名前?サディル・デルモール、、、」
「サディル、、、いい名前だね」
「ん、ありがとう」
これで彼女は晴れて本当の意味で魔王になったわけだ。
これから彼がどんな選択をするか、、、楽しんでいこうか。
神の図書館館長、記録の神カーヴェルとして。
そして、彼を育てたものとして、ね。
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