5月13日(火)

 いやぁ、昨日はほんっと、面白かったなぁ。おでこにたんこぶができたけど。

 ――コケ、コケコッコー!

 あれ? こんな朝早くに家のチャイムが鳴るなんて、珍しいな。いつもは全然人来ないのに。……いや、夕方になったら近所のおばさんが来てくれるか。

 私そんなに子どもじゃないんだけどなー。

「はーいっ」

 誰でもいいから、とりあえず出ないと。

「どちら様ですかぁー? ――って」

 ドアを開けると見慣れた顔がある。おかしい。

「人違いなようですねー、さよーならー」

 バタン、とドアを閉めると、「ちょっと!」という声が向こう側から聞こえる。ついでに、ドアをどんどん、と叩く音も。

「湊、出てきなさい!」

「嫌だね! 出てこいと言われて出ていくやつがいるか!」

「あなたがそうでしょう!?」

「そりゃそうだけど!」

 私はドアを開ける。

「なんの用? 

「仕事でこっちに来ることになったの。一週間だけでいい、泊まらせて」

 母さんの手にはキャリーバッグが。

「……好きにしてもらっていいよ。私は気にしない」

「ありが――」

「でも、『郷に入ったら郷に従え』。規則は守ってもらいます」

「あ、はい……」

 よし、ってことで行ってきますかー!

 靴を履いて外に出る。

「湊、チャイムの音は変えたほうがいいんじゃないかしらー!?」

「ほっといてー!」

 やっばい、待ち合わせに遅れちゃう。学校に遅刻してもいいけど、待ち合わせに遅刻するのは絶対にやだね。

「やっと来たよ」

「おはよー! ごめん、遅れた」

 はあ、と真間ちゃんはため息を吐く。ごめんて。

「どうしたんだ?」

「隼人もおはよう! ……ええとね、母さんが急遽泊まることになっちゃってね……」

「いいんじゃないのか?」

「よくないよー! 母さんがこっちに来ちゃったら、私がここに来た意味がなくなっちゃうのに!」

「どうでもいいだろ」

「どうでもいいように見えることって大抵、どうでもよくないことなんだよね」

 些細な喧嘩が、大きな事故へとつながる。

「あ、ごめん。空気悪くしちゃったね。よしじゃあ、行こうか!」

 うまく呑み込めていないような、目の前の料理に満足していないようなそんな表情をする二人を見て、こんな話をする必要なかったな、と後悔する。

「峰山って毎回思うけど、なんか隠してるよな?」

「かか、隠してるって何を?」

「ま、言いたくないなら別にいいんだけど」

 隼人行こうぜ、と真間ちゃんは隼人と行ってしまう。私も、その後ろを静かに着いていく。

 なんなの、真間ちゃん。

 ――1年ぶりの涙が出ちゃったじゃん。

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