5月12日(月)

「『はか』!」

「また変なことを言い始めたよこいつ」

「ダジャレを思いつた私ってもしかして、天才……!?」

「ふとんがふっとんだ」

「真間ちゃんもできたんだ!」

「喧嘩売ってる?」

「売ってない――あ、私今金欠だ。売ってる売ってる! 十万で売ってる!」

 ちょうどいいバイトだ!

「喧嘩を商売にすんじゃねえ! 捕まるぞ!」

「喧嘩でお金を稼げるんだな……」

「おい隼人、真面目に受けとんな! 絶対やるなよ!?」

「真間ちゃん、大変そうだね。手伝おうか?」

「お前のせいだよ!」

「ナイスツッコミありがとう」

「うっせえ!」

 瞬間、背中に衝撃が走る。後ろを見れば足を上げている真間ちゃんが目に入る。なるほど、そういうことですか。

「真間ちゃんもエクササイズをするんだね」

「お前の背中を蹴ったんだよ」

「あれこれデジャヴ? 一昨日も蹴られたような……」

 おい隼人、明後日の方向を向くんじゃない。あれガチ目に痛かったんだぞ? いくらサッカー部だからって。

「よし、学校に行こう」

「お前の思考回路はどうなってんの?」

 あははは、と笑いながら通学路を歩いていって学校に着く。

「じゃあねー、隼人!」

「じゃあな!」

 玄関のところで隼人と別れて、下駄箱で上履きに履き替えるんだけど……。

「おい、峰山。邪魔」

「ちょ、真間ちゃん、割り込んでこないでよ。靴が……!」

「おまっ、私の足の上に靴を落とすな!」

「真間ちゃんの下駄箱が私の上にあるのがいけないんじゃーん」

 履き替えるのに5分ぐらいかかったのはなんでかな?

「とりあえず行こうか! HRに遅れてもいいけど、さすがに1時間目はやばいもんね!」

 スキップをしながら廊下を歩く。

「二年生って何気に階段が遠いしねー」

 そう言いながら、目の前にある角を曲がる。と。

「っだ!」

「峰山!?」

 額に激痛が……! 私の額に、激痛がっ……!

 あら、真間ちゃんってばこっちに駆け寄ってきてくれるのね、やっさしー!

「もう1回蹴るぞ?」

「出会ったときから思うんだけど、私の心の声を知ってるのはなんで?」

「顔に出やすいんだよ。ていうか、ぶつかった相手の方はどうなんだよ」

「たしかに」

 私は廊下の角を覗き込む。そこには、なんと。

「ははっ、あーっはっはっはっ!」

 やばい、笑いが溢れてとまんないよ!

「どうしたんだ、峰山? ――ぶふっ!」

 私と同じように角を覗き込んだ真間ちゃんも吹き出す。だってそこには、

「十六夜先生じゃないですかー!」

 十六夜先生がいたんだもの。

「峰山……。お前これ、毎朝やっているのか」

「毎朝じゃないですけどやってますねー。ていうか先生こそどうしたんですか? 珍しく、校門のところにもいませんでしたし」

「ただ忘れただけだ」

「そうですかー、先生ももう年ですもんね」

「おい、俺はまだ三十代だぞ?」

「てっきり五十代だと」

「ひどくね?」

 率直な感想を言っただけなのになぁ。

「というかもう1時間目始まるんだから、とっとと行くぞー!」

「なんで先生も一緒なんですか?」

「峰山。1時間目数学」

「嘘だろー!?」

 そっか! 十六夜先生って、数学担任なんだったっけ?

「課題終わってないや!」

「それ本人の前で言うか!?」

「貸すよ」

「それも本人の前で言うか!?」

 やっぱり階段では声がよく響くようで、私達の笑い声が何重にも重なって聞こえた。

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