I want to be by your side.

樟 花梨

I want to be by your side.

 透きとおってる。それが最初の印象だった。長い黒い髪に白い肌。物語に出てくるお姫様みたいに、いつも控えめに笑っていて、いい香りがして。


 ショートカットでいつも「笑い声がうるさい」とか「ちょこちょこ動くな」とか友だちに言われる自分とは正反対だった。それなのに、気づくといつもミウの隣にいて、自然ともたれかかったり、そのまま眠ったりしていたものだから。いつのまにか周りからは「ふたりはペア」みたいな扱いになっていた。

 だから、自分はミウの親友だと、隠し事なんてお互いにないと思い込んでいた。高校2年の冬までは。


 いわゆる中高一貫の女子校で、付属の大学までそのまま進学する子が半分くらいの割合でいる。そういう子たちは大人しい系が多い印象だったから、そんな感じのミウもそうするんだろうな、と思っていて。私は単に面倒くさがりだから、ミウと一緒に同じ付属に行けるならそれでよかったから、進路についてのそんな確認なんて全然していなかった。


 教室に、ふたりで帰りそびれて夕方までだらだらしていたとき、話がとぎれてちょっと黙っている瞬間、ふいにミウが「私、転校するんだ。冬休みになったら」と言った。「へ?」と聞き返した声の大きさと、まぬけさに、自分でもびっくりしてしまった。俯いて、目を合わせないように言ったミウの様子。後から思えば、ミウがずっと言うタイミングをはかっていたのだろうと、簡単に言ったわけじゃないことがわかったけど、その時はただ不意打ちすぎて頭が真っ白になった。


「え……え?」

 飲んでいた紙パックのオレンジジュースでむせそうになり、言葉が続かない。そんな私を、「大丈夫?」と本気で心配してくれるミウに、「いやそれどころじゃないから、詳しく話してよ」と、むせたせいで鼻にツンとくる痛みに耐えながら訴える。


「あの、大学受験のために進学校に移ることになっただけで……引っ越すわけじゃないから……」

 皆に言いそびれちゃって、と沈んだ声のミウの説明に、やっぱり私は返事ができない。色んな気持ちがコンマ何秒で、ラムネを入れた炭酸飲料みたいにわきあがり、そして霧散していった。


 こういう時、まくしたてて騒ぐのが私なのに、黙りこくっているので、ミウはすんごく小さな声で「チエ……怒った……?」と言った。そんな様子に胸がチクチク痛む。何か言わなきゃ。でも、傷つけるような言葉は言いたくない……。

「怒ってないって言いたいよ」

 立ち上がって、バッグをつかむ。教室から出ていく私を、ミウも自分のバッグを持って慌てて追いかけてくる。

「怒ってないって、全然気にするなって、引っ越さないならいつでも会えるからね、変わらないもんねって、言いたいよ!」

 廊下を早足で歩きながら、だんだん声が大きくなるのを止められない。こんなこと、マジで言いたくない。言いたくないのに。

「言ってあげたいのに、言えないよ……」

 涙が出そうになっていやになる。こういう時、ミウを守る王子みたいでいたいっていつも思ってた。ミウが困ってたり、悲しかったりしたら、私が守るんだって、そうなりたいって思っていたのに。


 手をつないだ帰り道。夕焼けの空。細い指。透きとおった笑顔。永遠に、私の大事なお姫様。私が大切にしていたミウとすごした色々な時間は、ミウにとっては大したことなかったの?


「チエ……」


 腕をつかまれて、気づいたらミウに抱きしめられていた。しがみついて、顔は私の肩にうもれていて見えない。でも、たぶん、泣いている。


 ――ごめん、ごめんね。

 ――こわかったの。

 ――言うのがこわかったの……。

 ――チエと会ってなければよかったって、こんなに仲良くならなければよかったって、思うくらいこわくて。

 ――いっそのこと、私のことなんて、すぐに忘れてほしいって思うくらい……。


 ミウの言葉が、耳元できらめいてこぼれてゆく。自分の頬にも涙が流れていた。何年もたって今のことを思いだしたときには、どうしてこんなに真剣に悲しんでたのか、わからなくなっているような大人になっているかもしれない。でも、今はミウが好きで、この儚い宝物が一番大事だから。この瞬間を封じ込めてしまいたいくらいに大事だから……。


「いつだって私はミウの側にいるから」


 かっこつけた言葉は、涙まじりで裏返りそうな声しかでない、頼りない感じだったのに、ミウはそのキレイな瞳で見つめて頷いてくれた。


 手をつないだ帰り道。夕焼けの空。細い指。透きとおった笑顔。永遠に、私の大事なお姫様。

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I want to be by your side. 樟 花梨 @karinkusunoki25

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