恋する海月

野宮麻永

第1章 miu

第1話

ドンドンドンと部屋のドアを叩く音で起こされて、時計を見ると午前9時を少し過ぎたくらいだった。

昨日遅く帰ったし、今日は予定もない。だからもう少し寝るつもりだったのにな。


ドアを開けると、目の前に妹の芽衣が仁王立ちしている。



「おはよう、美雨みうちゃん」



……嫌な予感。

芽衣が「お姉ちゃん」ではなく「美雨」と名前を呼ぶ時は、何かある。



「時間ないからっ」



いきなり「時間ない」と言われても、何のことかわからない。



「ロイヤルホテルのランチビュッフェ奢ってあげる」


「えっ! 本当? 行くっ」



ロイヤルホテルはちょっとお高めのホテルで、そこのランチビュッフェはなかなか予約がとれないことで有名。更にお値段も優しくない。それを大学生の妹が奢ってくれるというのだから気前がいい。

逆に良すぎる?



「じゃあ、準備しよっか」


「うん、ちゃちゃっと支度するね」


「今日の美雨ちゃんは、大野美雨。青海中央大学の3年生」



クローゼットを開ける手が止まる。



「えーっと? わたしはもう社会人だし、年だって25だけど?」


「大丈夫。メイクで年なんて、なんっとでもなるから」



青海中央大学は芽衣が通っている大学で、そこの3年ってことは芽衣の同級生ってことになるわけで……



「4歳もサバ読むのは無理があると思うよ?」



しかも大野って……?



「ねぇ、どうして偽名を使う必要があるの?」


「説明はメイクをしながらでっ! 取り敢えず顔洗って来て!」



怖いよ、芽衣。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る