少女”ハードモード”

渡貫とゐち

窓の中、窓の外


 窓の外はまるで異世界に見える……

 そう言ったのはベッドの上にいる少女だ。


 後ろの景色が見えるような、と錯覚してしまうくらい透き通っている銀色の髪と真っ白な肌を持つ。その儚い印象が、自身が伸ばした手が彼女の体を通過してしまう不安を呼び寄せる。

 そこにきちんといることを確かめるためにも、何度も声をかけないといけない。……呼ぶ方も焦燥感に駆られてしまう。


「なに言ってんだよ。部屋の中も外も同じ世界だっつの」

「クーくんにとっては、そうかもしれないけど……。わたしにとってはそう感じるくらい遠い場所なんだよ」


 異世界でなければ、いま読んでいる本の中——空想の物語の世界にも感じられる。

 少女からすれば窓を開けて手を伸ばせば届く同じ線上の先も、絵空事だと感じているのだ。

 無理もない。

 物心ついた時には既に、彼女は部屋の外に出られない体になっていたのだから。


「……いいなぁ」


 窓の外を見れば子供たちが猟犬と一緒に追いかけっこをして遊んでいた。

 緑が多い景色。

 遠くには、小さく白い外壁が見える……——東の王国。

 この村の近くには、村の何倍も大きな広大な森がある。


「…………」


 彼女の手を引いて外に連れ出すことは簡単だ。しかし問題は、行動をしないことではなく、外に出たことで悪化してしまう彼女の体の調子にある。

 何度も挑戦しているが、毎回、彼女の体が拒絶反応を起こしてしまい、体調を戻すまでに長い時間を必要とする。

 今のところ、命を脅かす症状は出ていないが……無理をしたら分からない。出た症状をがまんして長く外に居続けたらどうなるのか、まだ試したことはないが……。

 そうは言っても、試す気が起きなかった。

 本人はどうか分からないが……、

 しかしその場で倒れるほどの高熱を出した上で、連れ戻さない親がいるはずもなかった。


「ずっと、この部屋にいるのかな……」


 このまま大人になっても、おばあちゃんになっても――ひたすら窓の外の変わり映えのしない景色を見続ける人生になるのかもしれない……。

 そんな未来を想像をしたら、一気に不安が押し寄せてきたのか、彼女が体を震わせた。

 膝の上に乗せていた枕を抱きしめて、


「……このまま生きてる意味、あるのかな」

「あるに決まってるだろ」


 顔を俯かせて、そのまま枕に沈み込んでしまいそうだった彼女が顔を上げた。


「……わたしが、生きていて、いったい誰の役に立つの? お母さんに心配ばっかりかけて、クーくんだって、こうして毎日毎日、顔を見せにきてくれて……。それは嬉しいけど、家が隣同士だから、赤ちゃんの頃から一緒だから、顔を見せないわけにはいかないって思わせちゃってるなら……それって、わたしのせい、じゃん……っ!」


 村のみんなも気にかけてくれている。

 気にかけないといけない、という雰囲気を作り出してしまっている自覚があったのだ。

 彼女が負担に思っているのは、そこだ。

 少女の存在がひとつのルールになってしまっている。


 たとえば、村の全員が集まる月に一回の会合に出ないわけにはいかないし、定刻を過ぎても村長からの挨拶が終わらなければ抜け出すわけにもいかない。

 破ったところで咎められることはないだろうけど、村の小さな輪の中で身勝手な行動は居心地の悪さを生んでしまう。

 はっきりとダメだと言われるわけではないが、空気が、視線が、破った者を責め立てている――。

 誰もがそれを理解し、周囲に倣って、全員が互いに人の顔を窺いながら……ひとつひとつの行動を意識している。

 本来なら、しなくてもいい意識なのに、だ。


「『大丈夫?』って、毎回聞かれるのも、つらいよ……」


 外に出られない以上、大丈夫ではないのだが、「大丈夫だよ」と言うしかない。

 彼女もまた、同様に空気を読んで答えてはいるが、大半が願望だろう。

 大丈夫「――だったらいいな」と。

 口に出していれば心と体が言葉に引っ張られて、改善に向けて進むのではないかと試してはいるものの、結果は芳しくない。

 悪化することもなく、ただ一定に、長く続いている。

 そんな毎日の繰り返し。


「わたしがいない方が、みんな、せーせーする――」

「なあ、プラム」

 彼女の手を取って、

「おれが急にいなくなったら、どう思う?」

「…………そんなの、悲しい、よ」

「ん、同じだ。赤ん坊の頃からずっと一緒だった幼馴染がいきなりいなくなったら、おれも悲しい。だから、自分が生きている意味がないとか、言うな」

「クー、くん……」

「もう少し待っててくれ。おれがお前を、絶対に外の世界に連れ出してやるから」


 そう格好つけたものの、彼女プラムの病気について、改善の手がかりは見つけられていない。

 森で採れる薬草をかけ合わせていけば……奇跡が起きて特効薬ができるのではないか。

 子供の知識で考え、毎日森の中を探しては摘んでいるが結果は言うまでもない。


 そもそも、医学に精通している者が村にいないのだから最初から無謀な話ではある。

 傷口に唾をつけておけばいい……一晩眠れば治る……そういう根性論でどうにかしようとする者ばかりだ。

 実際、それで治っているのだから、間違いではないのだろうけど……。

 しかし幼馴染の奇病(?)には効果がなさそうだ。


 村の人間は、良く言えば頑丈、悪く言えば単純、鈍い。

 それと比べたらプラムは繊細だ。薄いガラスの器のような……――

 と、そこまで考えてから、それがプラムに抱く自分のイメージなのだと自覚した。

 毎日、部屋の扉を開けると微笑みと共に言ってくれる「おはようクーくん」の挨拶。その表情を見るのが毎日の楽しみになっている彼にとっては、何度目かは分からないが未だに想像するだけで心臓が元気になる。

 指摘されずとも、分かる……今、自分の顔は赤いのだろう。


「……今更、だよな」


 そう、『クーくん』こと”カムク・ジャックル”は、幼馴染の”プラム・ミラーベル”のことを、村の誰もが知っているが――つまり、好意を抱いている。


 砕けた言い方をすれば……好き、なのだ。

 知らないのは、当事者である、プラムだけである。


 同じにしか見えないけど、実際は種類が違う薬草を摘みながら、合間に日課である木刀の素振りをおこなう。

 もし、プラムを外に連れ出せたのなら、今度はカムク自身が外の世界の脅威から彼女を守らなければならない。

 そのためには、誰だろうと叩き潰す圧倒的な強さが必要だ。



「――付き合ってやろうか? カムク」


 木剣が大木を打つ音を聞いて、真上――木の枝を渡り歩いてきた影があった。

 カムクよりも背丈は小さく、村で駆け回っている子供とそう変わらない大きさだが、手が異様に長い。……人間ではない。この森に暮らす、”テナガザル”だ。


「いつも悪いな」

「そんなこと言うなって、親友だろ?」


 ぱしっ、と。

 ふたりの手が渇いた音を立てて、がっしりと握り合った。

 テナガザルだけに限らず、村にいる牛や豚、馬や狼など、人種以外の者たちを『けものたみ』と呼んでいる。


 人語は、もちろん人間が生み出した言葉であり、彼ら獣の民にとっては馴染みのない言葉だ。彼らには彼らの言語が存在する。

 その上で人語を理解できているということは、つまり彼らの知能と理解力がかなり高いことを意味していた。

 言葉が通じるなら話し合いの場が設けられる。よほどの荒くれ者でなければ、戦闘になるはずもなく――つまりカムクの鍛錬は意味のないものにも思えるが……。


 この森に限ればだが、実質、森を支配しているテナガザル族と良好な関係を築いているカムクや村の者は、彼らから襲われる心配はない。

 だが、先を見て、プラムをもっと遠くの世界へ連れていくと考えているならば鍛えておいて損はないだろう。

 足下から手頃な木の枝を拾って、カムクの木剣を受け止めるテナガザル。


「力任せに振るだけ。相変わらず芸がないなぁ」

「これが当たればでかいだろ」

「あのな、オレはこうして受け止めてやってるが、実際、戦闘になれば相手は剣を避けるんだ。当たらなければどれだけ鍛えても意味なんかないぞ?」


 当たらなければ。

 ……力を込めて振った分、カムクが消耗するだけだ。


「うっ」


 カムクの額になにかが当たり、弾けた。

 どろぉ、と、視界を覆う液体を手の甲で拭えば、甘い香りがした。

 ……果実を投げられたのだ。

 それに気を取られている隙に、テナガザルが持っていた木の枝でカムクの足を払う。


「――うお!?」と、バランスを崩したカムクが背中から地面に倒れ。

 次にまぶたを上げた時、眼前に突きつけられている、枝の先が見えた。


「と、こんな風に、こういうやり方もある」

 自然の中を生き抜いてきたテナガザルの方が、一枚も二枚も上手だった。

「…………こんなの、卑怯だろ」


「お前、そんなことを言っていたら死ぬぞ。東の王国には剣の技術を競い合う大会があるらしいが、あれは魅せるための戦いだ。自然界の喧嘩は違う。殺し合い、奪い合い。そんな中で卑怯だとか言っていられないだろ」


「それでもだ」

 カムクが見ているのは敵ではなく――

「後ろにはプラムがいる。……卑怯な方法を使って失望されたくないんだよ……」


「それで守れなかったら本末転倒だろうに……、ったく。どうせあと数年ってわけでもないだろ。時間をかけて鍛錬すれば、剣の技術だけで当たるようにはなるだろ。卑怯な方法を使わなくていいなら、それに越したことはないしな。これはこれで、効果が薄い割りには知識と手間が必要だからな」


「……悪い、アドバイスしてくれたのに」

「いんや。信念があるなら、変えられない。変わらないからこそ、そいつの信念だ」

 それから。

 続けて鍛錬をおこない、日が傾きかけてきた頃。


「この辺の薬草で治るとは思えないな。調合したら……、村の連中じゃあ、無理か。そもそもプラムを苦しめているのは本当に病気なのか?」

「……どういうことだ?」

「世界にはオレたち獣の民を含め『覚醒者』がいる。そいつらから受けた『呪い』なんじゃないかって可能性もある」

「……呪い? 覚醒……?」

「オレも詳しいことは知らないって。詰め寄るな。本や物語に登場してくる『超常現象』を引き起こす者、と考えればいいと思うぞ」

「本は読まないんだよ」

「だとしても、物語くらい聞いたことあるだろ」

「あるだろうけど、覚えてない。いつも退屈だったからな」


 プラムが嬉々として語ってくれたりもしたが、話の内容を理解しているわけではない。

 その場で、一緒にいて、話を(内容ではなく)聞くことが本題だからだ。


「……意図的に雨を降らせ、雷を落とし、山火事を起こす――それが覚醒者だ」


 そういう認識でいい、と彼は説明を諦めたようだった。


「ふーん。信じられない話だな……、そいつらが、その……覚醒者だって? で、呪いってのはなんなんだ? プラムに、その呪いがかかっていて……外に出られないってことか?」

「可能性の話だけどな。関係なくただの体質ってこともあるが、医学で説明がつかなければ大体が覚醒者による『スキル』ってやつだろう」


 別名として、デバフ、とも言うらしい。


「専門用語はオレも勉強不足だ。そもそもこんな辺境の村に覚醒者がくるとも思えないし……ここ十年で、王国から客人や遠い土地からの旅人がきたりしたか?」

「村の特産品を買いに商人はくるけど……、客人は……分からないな。小さかった頃の記憶なんて曖昧だよ」

「プラムが調子を崩し始めたのは?」

「外に出れなくなったのは……気付いたら、そうだった。思えば、プラムと外で遊んだことはなかったな……。だからたぶん、一歳、二歳からなんだと思う」


 発端を調べ始めると普通に体調を崩していた場合と、たとえば不調の原因が呪いだった場合――ふたつの境界線が分からない。

 次第に悪化していった呪いなのだとしたら、一番最初の不調はかなり軽いものだろう。今のようにベッドで寝たきりな状態ではなかったはずだ。

 そこを特定するのは難しい。


「赤ん坊のプラムに接触した人物を――お前が分かるはずもないか」

「おれもその時は赤ん坊だし」

 それについては、プラムの母親に聞くしかないだろう。

「……もしも、呪いだった場合は、どうするんだ?」


 テナガザルは肩をすくめて、


「どっちにしろ、この村じゃどうしようもない。東の王国へいくか、魔道士や賢者を連れてきて呪いを解いてもらうしかない。ま、無償じゃないだろうな。当然、金がかかる。一般的に、この村の大人の全財産でも足りない額だ」

「……なんだよそれ……っ! 助けて、くれないのかよ……ッ!」

「無償で助けていたら次第に注文が増えていくし、助けてもらうことが当たり前になっちまう。金、と言ったが、頼む相手によっては要求されるものが違うし……、そこはなんとも言えないな――――」


「分かった。東の王国へいく」

「無理だ、やめとけ」


 咄嗟に相手の胸倉を掴もうとしたカムクだったが、眼前の枝が足を止めた。


「あんな戦い方で、王国までいけるわけがねえだろ」

「…………っ」


「前向きに考えろ。原因が……、確定ってわけじゃないが、幅が広がったんだ。魔道士や賢者のスキルで綺麗に消える呪いだった方が、まだマシかもな。医学だとどうしても長期的な戦い方になるだろうし、プラム次第で治り方に差が出る。……どっちにしろ、王国にいかないと先へは進めない」


「…………」

「ならいかせろって言うんだろ? オレは止めるが、まあ、いきたければ勝手にいけばいい。ただ、お前が途中で力尽きた場合、プラムを救う可能性はなくなると思っとけ。親友からのアドバイスとしてはこんなもんだ。今のお前じゃ、この先の山道どころかこの森さえ抜けられないだろうよ」


「……あと、どれくらい強くなれば、先へ進める……?」

「三年、早くて二年。今の鍛錬を続けて、オレたちが戦い方を教えれば――もしかしたらな……確実とは言えない。カムク、お前次第だ」


 ふぅ、と大きな息を吐いたカムクが、覚悟を決める。


「一年、いや、二年後に、東の王国へいく」

 親友の目を真っ直ぐに見て。

「――頼む、おれを、強くしてくれ」

「いいぜ。ただし――オレはともかく、他の奴らは厳しいからな?」


 枝が軋む音が周囲から聞こえ、囲まれる気配と突き刺さる敵意が感じ取れた。

 敵意と言っても鍛錬に必要なもの……と、信じたいが、果たして。


「ま、まあ、お手柔らかに頼む……ぞ、みんな……?」


 ――――テナガザルの群れが、一斉にカムクに襲いかかった。





 そして、一年半が経った頃――。

 十五歳になったカムクが、鍛錬の前に一度プラムの部屋へ訪れる。


 以前と変わらず、プラムの体の調子は良くない。しかし、かと言って悪化したわけでもなく、部屋の中にいれば彼女が体調を崩すこともないのだ。

 村の大人たちが危機感を抱かないのは、楽観視させてしまう条件が整っているせいだ。

 親友が語った覚醒者についての知識も、村のみんなは知らず。

 東の王国へ遠出をしたいと名を挙げる者もいない。

 定期的に村へ訪れる商人に頼んだこともあれど、カムクを乗せていってくれる商人はいなかった。王国へ直接いくのではなく、いくつかの村を数ヶ月かけて回るため、カムクの存在は商人にとって受け入れ難いものだったらしい。

 だから仕方ない。

 元々、鍛錬の後に一人で出発するつもりだったのだから――


 扉を開けると、彼女と目が合う。

「あ、おはよう、クーくん」

「よ、プラム。……と、ゴーシュ」

 プラムがいつも抱えていた大きな枕が、今は小さな獣の民に変わっている。

 八重歯が特徴的な、虎に見えるが、しかし皮膚が爬虫類のそれなので……

 種類がよく分からない。トカゲ……? にも見える。

 まだ子供なので、成長して大人になってみないと分からなさそうだ。


 一ヶ月前、森で鍛錬していたカムクが怪我をして倒れていた彼を発見した。

 命の危険があったため村に連れて帰り、最低限の治療をして回復を待った。

 その間、面倒を見ていたのがプラムだった。

『ゴーシュ』の名付け親はプラムであり、それから過ごした時間が長いためか、ゴーシュもプラムに懐いている。

 本来なら。

 完治した後に彼がはぐれたであろう群れを探し、合流を手伝うつもりでいたのだが……

 いざ部屋から出ようとすると、ゴーシュがプラムに引っついて離れようとしなかったのだ。


 ゴーシュはまだ人語を理解できないためカムクと意思疎通ができないが、プラムはなんとなくだが彼の気持ちが分かるらしい。

「戻りたくないんだって」

 ――とのこと。

 群れを探し、合流させるためにはそれなりの人手と時間を必要とするため、戻る気がないのならこの村の一員にしてしまうのもいいと思っていた……。

 昔から、そうして集まってできた村なのだ。

 反対意見が出るはずもない。


 カムクを除けば、だったが。


「……毎日、プラムが楽しそうに笑ってるから認めるけど……、ゴーシュ。プラムに変なことするなよ」

「クーくん、なに苛立ってるの?」


 プラムから注がれる非難の目から逃げるように。

 うるせえ、と言い残して、部屋を出る。

 そのまま、ずるずると床に腰を落として……


「……またやっちまった」


 こうして一度、扉を閉めてしまった以上、再び開けるのは気まずい。

「仕方ねえな、鍛錬に向かうか……」

 鍛錬の後でまたこよう。

 再び訪れた時には、この気まずさも消えてなくなっているだろう。




「変なクーくん」

 ゴーシュを胸に抱きながら、プラムが呟いた。

「ここ一ヶ月くらい、クーくんってばわたしを見て嫌そうな顔をするんだよ? ……ひどいと思わない?」

 言いながら、ゴーシュの顎の下を指で撫でる。

 すると、ゴーシュが大きく頭を振った。

「あ、ごめんね、嫌だった?」


 まだ人語は話せないものの、目を合わせたり頭を振ったり――などで意思疎通ができている(はず)プラムが、ゴーシュから次の反応がないことを不思議に思った。

 彼が、じーっと見つめる窓の外へ、プラムも視線を向ける。


「外にいきたいの? でもごめんね、わたしが出られないから……」


 しかし、それも長くは続かないだろう。

 あと半年。

 約束してくれた幼馴染のカムクが、具体的な方法を持って、外に出られるように治してくれる、と言った。


 そのために、カムクがこの部屋にいる時間がぐっと減ってしまった。

 プラムにとってはそれが一番、嫌なことだったけど――、

 自分のために頑張ってくれているカムクに、もうやめてとは言いづらい。


 それに。

「クーくんに、期待してる自分もいる……」

 でも、次第に膨れ上がってくるのは……、それでいいの? という自問だ。


 自分の自由のためなのに、こんな安全地帯で待っているだけでいいの? ――と。

 待っていてほしいというのがカムクの願いなのだとしても、黙って従うしかないとは言え、不満を一切持たないプラムでもない。


「……やっぱり、決めた」


 思えば、東の王国へいき、医者や……魔道士? 賢者? を連れてくるのは、大変だ。

 カムクもそうだが、わざわざ村まできてくれる人たちの負担も大きい。

 だったら――、


 だったらっ、だ。



「わたしも、東の王国へいく」



 ばっ、と。

 振り向いたゴーシュの強い訴えを感じ取ったらしく、プラムが決意を口にした。



「反対? でも、聞かないよ。だって――――もう決めたんだから!」




 病気か、呪いか。

 もしも彼女を苦しめる枷がなければ、プラムは世界を変えるような逸材だった。

 そんな人間だったのだ。


 つまり、たとえ衰弱していても、たったひとつの窓に収まって終わる女ではない。




 ・・・おわり

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