僕にとってのハッピーエンド

あやの しのぶ

僕にとってのハッピーエンド

「ここ…どこだ?」


 僕は気がついたら、知らない学校の靴箱にいた。装飾を見るとおそらく小学校。手にはおもちゃのナイフ。


「あれ? なんでこんなもの持ってるんだ?」


 僕はナイフをカチャカチャと遊んだり、ブンブンと振り回したりした。僕はなんだか楽しくなり、せっかくだからナイフを持っていることにした。


(なんか楽しくなってきた! どこ行こうかな)


 僕は月明かりに照らされた学校をぽてぽてと歩き探索する。


(なんだか歩きづらい。痛みもないし、自分で足をみても怪我はしてない。なんでだろう? 見えないところに傷でもあるのかな。)


 僕は窓に映り込む自分を――


「あれ、何考えてたっけ? まあいいや」


 やっと、靴箱から一番近い教室の前に着いた。見上げると、1-1と書いてある札がある。


 近くで見ると扉が大きいことに気がつく。僕は背伸びをして引き戸を開けると、一般的な小学校の配置をしていた。でも…


「こんなに大きい椅子ってあるかな?」


 僕は男性で小柄といえど身長は160cmある。


 しかし、僕が座って足の届かない椅子と僕より少し低い高さの机。


(もしかして、ここ異世界!?)


 僕は腕を抱えぶるぶると震えた。


 ガタッ


 廊下に何かがいる。僕はゆっくりと音の鳴った方を見つめる。


(どうしよう。隠れる? でも襲われたら……)


 僕は恐怖のあまり目の前が真っ暗になった。


---



「あれ、ここは?」


 僕は気がつくと2-2の教室の前にいた。


(さっきの物音の主に運ばれた? でもどうして?)


 おもちゃのナイフをカチャカチャと触りながら考える。


 ナイフを触っていると、なんだか楽しくなる。


「まあいいや」


 僕はまたぽてぽてと歩いていく。


(今度はどこに行こうかな? アレを探さないと……)


「……アレってなんだ?」


 僕はまたナイフをブンブンと振り回す。


「よし! 学校なんだから理科室あるだろ」


 僕はぽてぽてと歩き、理科室を探すことにした。


 不思議なことに知らない小学校だけど、僕には部屋の場所がわかった。


 2-2は北校舎の1階で、理科室は南校舎の2階だから、上がった後に渡り廊下を進む。


 階段を上っていくと、踊り場に鏡が見えた。鏡に気づいた途端、まるでその場の重力が変わったかのよう足取りが重くなる。


(この道はだめだ。)


 僕はやっとのこと階段を降りると、歩くスピードが上がった。


 (何だったんだろう?)


 僕はとっとっとっと走って、もう一箇所の階段へと向かった。


 もう一つの階段へと向かうと、僕はよいしょよいしょと階段を登る。


 2階に着くと、ナイフをぶんぶんと振り回し理科室まで走る。


 理科室の地窓からするりと入り、準備室からアレを探した。


「ラッキー! 鍵が空いている」


 僕は棚からお目当てのものを取り出して、近くの教室まで持って行く。


「アレ? 今、何してたんだっけ?」


 僕はまたナイフを振った。


---


「次はどこ行こうかな? そうだ家庭科室にも行かないと!」

 

 僕はナイフを振り回す。ナイフを振っていると楽しくなる♪


 ぽてぽてとっとっとっと足取り軽やかに歩いていく。


 僕は、両手を使ってよいしょよいしょと階段を降りる。


 降りた先で、同い年くらいの3人組が見えた。


(一人じゃ心細いから合流させてもらおう!)


「おーい!!」 

 

 僕は腕を振りながら、人の方へと走っていく。


 しかし、その3人組は叫び声を上げて走った。


(待ってよ。ねえ待ってよ。)


 追いかけても追いかけても、全然追いつかない。


 ドン!!ころん。


 角を曲がると何かにぶつかった。


「イテテテ。あれ? ここに道があったはず?」


 壁の上には【縺、縺励g縺励→】と書いてあるから読めないし、追いかけてた3人組も消えた。


 僕はナイフをぶんぶんと振り回した。


 あっ!!


「ナイフ持ってる手、振ってたわ」


 僕は手を顔に当ててしゃがむ。


(こりゃ、驚いただろうな。いやそもそも、彼らが同じ人間の可能性のが少ないじゃん! 追いかけたくなったのはなんでだろう?)


 はあ……。家庭科室行こう。


---


色々あったけど、僕は家庭科室に着いた。


 地窓から入って必要なものを探す。


「これこれ!」


 鍵がかかっているはずの棚から探し物を見つけ、僕は腕を振る。


 さてと、次はどこに行こうかな……あっ!!


 (さっきの人たちだ!!)


「おーい!」


 僕はドッドッドッドッと腕を振って走っていく。


 腕を振ると楽しくなる。


 彼らを追い詰めて、さっき理科室から取ってきたものを置いた教室へ向かうように誘導する。


 あっ! うまくいった! うまくいった! やっと仕返しができたぞ!


 僕は腕を振りながら彼らの前に立ち止まる。


 よいしょ!


 僕は何度も何度も何度も何度も彼らに向かって腕を振り下ろす。


 気がついたら僕の周りには水たまりができていた。


(これで助かった。)


 なんでかわからないけれど、そう思った。


 僕はぽてぽてと歩いた。


 月明かりに照らされた僕の影はまるで……。


(アレ? 今何を考えてたっけ? まあいいや、疲れたからひと休みしよう)


 僕はそのまま目を閉じた。



 僕は目を開けるとカーテンから陽の光が入ってくる。


 目覚ましが鳴るより先に起きたのは久しぶりだ。


 清々しい朝だ。心が晴れやかになっている。


 僕は着替えて、リビングへと向かう。


「おはよう」


 僕が声を掛けるとリビングにいた両親が驚いた顔でこちらを見る。


「何その顔?」


「……今日学校行くの?」


「えっ、当たり前じゃん」


「そ、そう。朝ごはん用意するわ」


 母さんが泣きそうな顔で朝ごはんの準備を始めた。


 父さんは僕を見ようとせず、ニュースを見ながら、


「無理はしなくていいんだぞ」

 と言った。


「なんのこと?」


 僕は自分の席に座る。


『続いてのニュースはこちらです』


 アナウンサーが読み上げたのは小学校で、中学生3人の死体が見つかったというニュースだった。


「なんで中学生が小学校に?夜中に忍び込んだのかな」


 と僕が言うと、両親は青い顔で僕を見て言った。


「小学校からの同級生でしょ?」


「今も同じ部活だっただろ」


「こんな人たちいたっけ?」


 僕は首をかしげた。

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