ある男の話

@youjiali

第1話

 ある薄曇りの冬の昼下がり、都心から少し離れた立地のファミリーマート横のシャッターの前に、壊れたマリオネットのようにへたり込む男がいた。

 垂れ下がったぼろ切れを汚れが油のように固めた服、二度と脱げないような物体と化した靴、頭はそれこそ人形の毛糸で作った髪の毛のように伸びて汚れで絡れ合っていた。詰まるところ男は浮浪者であったが、見たことも無いように完璧な浮浪者であり、これ以上落ちるところは無いという風情であった。たまに開ける男の目は感情もなく行き交う人の足元をおぼろげに見るだけであり、空を見上げることも無い。男の拙い人生はここに行き止まり、もう生きる気力は何処を探しても無くなっていた。


 コンビニのそばにいれば、上手くすると売れ残り弁当が手に入ることがある。しかし大概のオーナーは客や従業員に売れ残りを渡すことはあっても、浮浪者には渡さない。そんなことをしていれば、店舗のそばを何人もの浮浪者がウロウロするハメになる。店舗のイメージダウンになるし、客からもクレームが出る。それでもと言うオーナーで上手く問題をクリア出来ているような店舗は先住浮浪者の縄張りで、男にはそんな闘いに勝ち残れるほどの気力も無かった。

 しかし歩きまわってたどり着いた街で、コンビニの横に無人でシャッターが閉じられた場所を見つけた時、そこに座り込まずにはいられなかった。冬特有の陽射しのないくすんだ日で空気はシンと冷たく、歩みを止め地面に座り込んだせいで男の身体はいやが応にも芯まで冷えていった。ちょっと前までは身内に飢えた狼でもいるのかと思うほど、背中と腹がピッタリ縫い合わさったかのような痛みを覚えていたのに、今はもう只々虚ろなだけであった。男はなす術もなく手も足もほうり出し、益々へたり込んでいった。


 俺ァ、もうどうやって生きれば良いか分からなくなっちまった、、

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