第18話【光】
いきなり部屋のドアが開けられ、俺は驚く。
「……晴秋!」
雨に降られたんだろうか。夏生は全身ずぶ濡れのまま俺に駆け寄る。
「どうしたんだよ、それ……」
「これ……」
夏生は手にしたレジ袋から、たった一つのパッケージを取り出した。
「……コスモス……の種子?」
「まだ、間に合う!」
夏生はとても切羽詰まった声でそのパッケージを俺に差し出してくる。
「この品種は短い期間でも咲く。まだ、間に合う。お前の誕生日まで」
俺はその差し出されたパッケージを受け取った。
「……俺のために……?」
「そうだよ、何か悪いかよ」
「悪くない……」
俺の視界がぼやける。
「悪くない、よ……」
今までずっと、気付かなかった。でも、やっとその大切さに手が届いた。俺は……。
溢れ出す感情で、ずぶ濡れの夏生を抱きしめる。
ひやり、とした体温……でも、確かに感じる熱が力強い。
俺はもっとぎゅっと夏生を抱きしめた。
「……ずっと、そばにいてくれて、ありがとう……」
やっと気づいたんだ。
「俺は、お前の事が、好きだ」
その言葉は何よりも、大事な感情。
それを聞いて、夏生はもっと強く抱きしめてくる。
「こっちの、セリフだっつの……」
夏生は声を詰まらせた。
やっと、ずっと、この時を待っていたのかもしれない。お互いに。
俺は一度、夏生を引き離してその瞳を見つめた。
その瞳には、同じ気持ちが浮かんでいる。
だから……。
その距離は、無意識に近づいていく。
俺の唇と、夏生のそれが重なった。
その温かさは、一言で言うなら『幸せ』だと思った。
次回19話【ふたりで】へ続く
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