第2話 月燕

「よし。無事に任務も終わった事だし、戻ろう」

誘拐された男の子を両親のもとに返して、口座残高が増えたヒルンは笑顔で言う。


腰に携えた刀が月光で輝く。

手首に着いたブレスレットに触れると、ナノテクノロジーによって瞬く間に、大きな紺色の翼と身を包むスーツが現れる。両翼と背中に光る小さなジェットからは煌々こうこうと赤い光が輝く。


この姿で縦横無尽に空を飛び、敵を斬ることから、彼にはいつしか異名が付いた。


月燕つきつばめ


安直と言われれば返す言葉もないが、彼はこれを気に入っているようだ。


月燕はまた一つ業績を増やして“バー”に戻っていった。



―――ガチャ

ここは、都市郊外のとあるバー。といっても、ただのバーではない。ヒルンたち傭兵の拠点となり、依頼のやり取りが行われる場だ。


「お、帰って来たか。ヒルン」

バーに入ると、カウンターに座った一人の男性がヒルンに話しかけて来た。

彼の名はアルバー。ヒルンにとっては恩人であり、お得意様であり、親代わりである存在だ。


彼はヒルンが行き場に困っていた時、ヒルンに力を与えてくれた。そう、あのスーツは彼が渡したものなのだ。幼い頃から世話をしてきたアルバーは、ヒルンにとっては父親のような感覚なのだ。


アルバーは今日もいつも通り整ったスーツを身に纏って酒をたしなんでいる。彼はそのスレンダーな体を少しだけこっちに傾けながら、低く優しい色気のある声で言う。

「お疲れ様。最近の調子はどうだ?今日は最近名を上げだしたギャングを一掃していたらしいが」

「最近調子が良くて、楽しかったです」

「ははっ、いいね。楽しいのは何よりだよ」

アルバーはグラスを回しながら嬉しそうに笑う。


「ところで、今日も話が有るんだ」

「新しい依頼ですか?なんでも受け付けますよ」

「あ、今日のは依頼ではないんだ」

「そうなんですか。どうしたんです?」

「ヒルン、お前は“ブリッジワークス”という企業を知っているか?」

「はい。たしか、人工臓器? とかを作ってる会社でしたよね」


「その通りだ。そこが数年前からとあるプロジェクトを始めたんだ。それを、リンク計画プロジェクトと言ってな。これは……」


アルバーはヒルンにその計画について説明した。


「つまりまとめるとこういう事だ。

この犯罪が蔓延る世界の治安を保つために、能力を持つ者を集める。

そしてその人達を改造してさらに強化してヒーローさながらの活躍をしてもらおうというものだ」


「……なるほど」

ヒルンはぴんと来ていないような返事をする。

「面白いのはここからだ」






~あとがき~

ヒルンの翼とスーツの個人的なイメージは、マーベルシリーズのファルコンに近い感じです。立ち絵だけでも描けたら良いのですが……。

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