モノクロの翼

暖花 白湯(あたたか さゆ)

第1話 空

空を飛びたい。


単純明快でいて大きく膨らんだこの夢は昔から人々の顔を、視線を、遥かに広がる上空じょうくうに引き上げてきた。


ある世界の大昔おおむかし、とある兄弟が人類で初めて空を飛んだらしい。

今の僕の様にではないし、この世界の人々からすればつまらないかもしれないが、確かに空を飛んだ。


そこからいくつかの次元を時間を経て。



~~~


月と翼が重なる。


「わぁ。ここはだいぶ荒れてるな」

紺色こんいろに輝く金属の翼を広げ、少年が飛んでいる。


いち、に、さん……。

「今回は目標ターゲットが多いな。報酬が弾むわけだ」


月光を浴びている骨組みだけのビルに、銃を持った男が数人。

「おい、何か聞こえないか?」

「? ただの鳥だろ。ほら、あそこ……?」

「何だあれ!? こっちにむかってきてるぞ!」


敵襲だ! と、冷たいコンクリートに怒声が響く。


あかい光を放ちながら羽ばたく鳥は、銃弾を躱しながら、目にも留まらぬスピードで飛ぶ。


バタリバタリと、人の倒れる音が連なる。その音の後ろから遅れて風が吹き、コンクリートがパラパラと崩れる。


「よし。これで一件落着かな」

少年はナノテクノロジーで構成された翼を畳み、満足気に着地する。


「遅くなってごめんね。もう大丈夫だよ」

彼が語りかける先には椅子に縛られた小学生ほどの男の子が、ひとみいっぱいに涙を浮かべている。


「さあ、おうちのひとのところに帰るよ」


「大企業社長の息子だからって、こんな小さい子を誘拐するだなんて、最近のギャングはよっぽど余裕が無いみたい」

彼はぼそっと呟くと、男の子の手を取って歩き出した。


「お兄ちゃん、ありがとう! お名前はなんていうの?」

すっかり安心した様子で男の子は訊く。


「僕はヒルンだよ。よろしくね」

柔らかな笑顔に、二人を包む雰囲気が暖かくなる。




ここは、とある世界。科学技術の発展によりかつて人々の夢見た世界が目の前にある。……のは一握りの上位層のみ。極端に発展した技術は希少性が高く、争いを生み、暗殺やギャングの様な集団が今日も多くの人々を苦しめている。


ヒルンはこの世界で、傭兵ようへいとして生きている。もう何年この仕事をしているか分からない。それどころか、いま何年生きているのかも怪しい所だ。彼自身は十八歳程度だと推測しているが、顔はそれよりも幼気いたいけだ。


今日も任務が終わる。







~あとがき~

第一話をお読みいただきありがとうございます。

昔の自分が考えていたものを自分が気に入るように書いています。

場面によってジャンルはふらふらするかもしれませんが楽しんでいただければ幸いです!

良ければフォロー、星などよろしくおねがいします!

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