第10話 はじめての食堂での食事
私は、今、レイの膝の上、右隣にはエイビー、左隣にはアリサさんとマリーンさん、私たちのテーブルを囲むようにして、騎士服の人達が私たちにどことなく不自然に背中を向けて食事をしている。そんな背中を向けている騎士さんたちの視線を感じるのは気のせいだろうか・・・。
そして、私は、今、必死で心を無にし、口を動かし運ばれてくる食べ物を飲み込んでいる。食べ物の味も香りも分からない。こんな状況でわかれっていうほうが無理でしょ!!
ここは食堂、だから食事をすることにはなんら違和感はない・・・でも、食事を食べさせてもらっている・・・・成人した女性が・・・おかしいでしょ!!一体、何歳くらいと思ってくれているのかな〜。それも、レイだけじゃなく、エイビーも私の口元にほどよく冷ましたリゾットを運んでくる。それも、「やけどしないようにきちんと冷ましたからね」と、とろけるスマイル付きだ・・・今の私には不要だが・・・・。そして、私の口に冷ましたリゾットを入れると、皿からリゾットをスプーンに掬いフ〜フ〜しながら冷ましてくれている。ここは、食堂だ。大勢の人がいるのだ。
あぎゃ〜〜〜〜!!
なのになんで、こんな状況になっているのか・・・・・。
そう、放心状態から解除されたレイは、「俺の娘が可愛すぎる〜〜〜」とあり得ない言葉を連呼し続け私を離さなかったのだ。
もちろん、ひとりで椅子に座りたい希望を伝えた・・・そして1人で椅子に座ろうとしてもみた・・・・でも、椅子が高すぎるのか、私が小さすぎるのか(たぶん後者)、私が椅子に座るとどうも危なっかしい・・・安定しないのである。
そして、今の状態!!
恥ずかしすぎる!!
1秒でもはやくこの状態から抜け出したい!!
そして、もうこれ以上食べられない・・・まだ、たくさん残っているみたいだけど・・・これ以上は無理だわ。
そんな私に出来ることは・・・成人女性としてはありえないけど・・・背に腹はかられぬ。やれば出来る!やったことないけど、実践あるのみ!
「エイビー、もうお腹いっぱい」
私に食べさせるリゾット冷まそうとしているエイビーを見つめながら伝えてみた。(あれ?子供っぽく、幼く話してみたが違和感がまるでない)
「サクラ、まだほんの少ししか食べてないですよ。たくさん食べないと大きくなれませんよ」
イヤイヤ、大きくって・・・こちらの世界でももう成人しているはずだし・・多分身長は成長しないだろうし・・・って、大きくなるってことは横に広がることだよね・・・・そんなのイヤすぎる〜。それに、さっきから私自身に違和感がありすぎる。どうしたんだろう・・私、もうすぐ30歳になる29歳だよね・・・身体が変わっても精神はかわらないはずでは・・・・?)
私の頭の中では、考える必要あり!と警告が鳴っているが、また後で考えよう・・・と先送りして、この食事を切り抜けるか?に専念することにした。
「エイビー、食べさせてくれてありがとう。でも、私お腹いっぱいだから、今度は私がエイビーに食べさせてあげるね」
私は絶対に拒否させてなるものか!という思いで、エイビーからスプーンを取り上げ、「リゾットのお皿取って」と、アリサさんに頼んだ。
そして、リゾットをスプーンで掬ってみたものの、このままじゃ熱いよね〜、ということで、エイビーがしてくれたように私もフー、フーしてみた。
そんな私を、エイビーは唖然(あぜん)とした様子で見つめていて、いつの間にかレイや背中を向けていた周りの騎士までもが固唾を呑んで見つめていた。
自分のことに必死というか、自分のことにいっぱいいっぱいの私は、周りの様子を気にする余裕はなかった。
私は、恥しさを必死で抑え込みつつ、口に入れても火傷しないくらいに冷ましたリゾットをのせたスプーンをエイビーの口元に持っていき、「はい、エイビー、あ〜ん」と言ってみた。
なんとも言えない不思議な顔をしたエイビーが口を開けたので、リゾットが溢れないようにスプーンを差し込んだ。美形のエイビーは、無表情のままリゾットの入った口元だけを動かしている。これは、ちょっとシュール・・・っていうか、怖い・・・・暗闇では絶対にみたくない。
想像してみてください。美しい西洋人形が、暗闇で口元だけを動かしている姿を!美形の無表情は怖いよ!!
そんなことを思いながら、エイビーが口の中のリゾットを飲み込むのを待って「レイ、そろそろ膝からおろして」と伝えてみたのだが・・・・。
レイも騎士さんたちも、私をただ見つめている・・・ジーーーっと。
なんだか、こんなに見られるといたたまれない。
それになんでこんなに見られているのか分からない。
私はどうしていいか分からず、私を見ているレイと騎士さんたちをジーーーーっと見つめ返してみた。すると、レイも騎士さんたちたちも目をそらした。なぜか、騎士さんたちの数人が赤くなっているが・・・・。
やりましたよ私、なんで赤くなっている騎士さんたちがいるのかは分からないけど、なんとかこの状況を回避できそうです。
自分の頑張りに満足していた私には、レイと騎士さんたちが、「俺もしてもらいたい」とか、「初々しくてエロい」などとボソボソとした呟きが耳に入っていなかった。
レイは私を膝にのせたまま何を言わず、もちろん膝から降ろしてもくれない。私は、どうしていいのか分からずレイの胸に背中を預けて、エイビーに「もう、お腹いっぱい」と伝え、それからちょっと不本意ではあったが、「食べさせてくれてありがとう」とちょっと声は小さくなってしまったがなんとかお礼を言った。
エイビーは、一瞬だけ驚いた顔をしたが笑顔で頷いてくれた。
そんなエイビーの笑顔を見て、『嬉しい』と『よかった〜』の感情が一緒に溢れてきた。
そんなふうに嬉しい気持ちやよかったって思う気持ちが溢れてくることなんて、過去の自分にはなかった。それと同時に、自分が発する言葉が自然に子供っぽくなっていることに唖然としてしまった。そして、考え方も感情もなんだか幼くなっているような気がするが、きっと気のせいはないだろう。このままでいいのかな〜〜・・先程先送りした事を考えていたはずだが・・・瞼が重い〜〜〜。
頭の上でレイとエイビーの話し声がするけど、内容までは分からない・・・まあ、いいでしょと思ったところで意識が飛んだ。(なさけない)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます