24. 誰がために
「な、なんだこれは......もしかして......」
ハットが興奮気味に、緑の壁に近づいてから何やら持ってきた器具で計測している。
待っている間、試しに刃を当ててみたが、当てた瞬間にこれではダメだとわかった。
今までとは比にならない硬度だ。
近くでよく見てみようと顔を近づけたが、あまりの美さに吸い込まれそうになる。
深く、鮮やかな緑に感動してしまった。
「これじゃ、ダメだ......いったん研究室に戻ろう!」
しばらく壁とにらめっこしていたハットは、急いで器具を片づけてから駆けていった。
僕もその後を追いかける。
研究室に着いた頃には、もう一度戻るには採掘場の門限を考えると時間が足りなかった。
ハットは悔しそうにしていたが、諦めて明日からの準備と作戦会議を行うことにした。
「時間があればなぁ......世紀の大発見かもしれないのに......」
「そうなんですか?たしかにとてもきれいでしたけど......」
「実際に見るのは僕も初めてだからね......ちゃんと調べないといけないけど、ほぼ間違いないと思う。あれは、第四層だよ!あの美しい緑は緑束層としか思えない!」
「まさか......だって第三層を通過してないですよ?」
「そう!だから、あそこは局所的にできた第四層なんじゃないかと思っているんだ。部屋が袋状になっていたでしょ?もしかしたらその周りが第三層なのかもしれない。我々は裏側から回り込んだんじゃないかと思うんだ!」
僕が首をかしげていると、嬉しそうにハットが大きな声で笑った。
「とりあえず、明日からは徹底的に調査だ!楽しみだなー!ちなみに、はっきりするまで秘密にしておいてよ!思う存分調べたいからさ!」
楽しそうなハットを置いて部屋を出ると、またどこからか見られている気配があった。
不気味な視線から逃げるように宿舎に戻っていった。
「最近、誰かに見られてる気がするんだ。」
「......気のせいじゃない?疲れてるんだよ、きっと。」
「そうなのかな。最近すごく感じるんだよね、視線を。」
「......知っちゃいけないこと知っちゃったから、ビビってるんじゃない?」
パラヤがからかうように笑う。
「そうなのかも。知らないことばっかりだよ、僕は。」
「......まだここに来て1年くらいしか経ってないんだから、しょうがないでしょ。」
「そうか、もう1年か。そう考えると、意外と詳しくなったかも。今日もまた発見しちゃったし。」
「......また?なにやったの?」
「内緒なんだけど、実はさ......」
第四層に到達したかもしれない話をすると、運がいいだのなんだのと、パラヤは悔しそうに不貞腐れていた。
自分の部屋に帰ってからベッドに横になって、1年の月日を思い出す。
父さんとの一年に一回は帰るという約束は果たせそうにない。
調査団に所属すると守秘義務が多いため、簡単には帰れないらしい。
それに、第四層のこともある。
父さんには申し訳ないが、まだまだ帰るわけにはいかなかった。
忘れないうちにとベッドから起き上がり、家族へ手紙を書いた。
次の日からは第四層らしき場所を徹底的に調査した。
ハットによると、やはりあの場所は第四層にあたるらしい。
未知の領域を調べられるとあって、ハットは毎日、採掘区の門限まで現地で調査を続けていた。
僕も付き添って色々と手伝っていたが、何かしらの感覚が得られればと思い、やることがないときは採掘しようとあれこれ試していた。
そんな日が続いたある日の朝、いつものようにハットの研究室に向かうと、ハットが紙を持って研究室をそわそわした様子で歩いていた。
「やっと来た!早速、調査に行こう!またしても新発見のチャンスかもしれない!」
「今度はどうしたんですか?」
「どうやら深層につながる大穴があるらしいんだ!一気に深層に行けるチャンスかも!」
ハットが手に持った紙を見せてきた。
そこには、深層の調査依頼、と書いてあった。
僕たちは「8-1087」と看板に書かれている白脈を進んでいた。
「そういえば、第四層の発見報告はもうしたんですか?」
「まだしてないよ!実はしようと思ったんだけど、作ったはずの書類が見つからなくて......悲しみに暮れていたところ、あの調査依頼が来たってわけ!」
「調査って監督官から依頼されるんですか?」
「いや、机の上に紙が置いてあったんだ!僕も調査依頼は初めてだから、そういうものなんじゃない?第四層は調べたいところ全部調べちゃったからちょうど良かったよ!」
なんとも緩いハットらしい。
しばらく紙の案内の通りに複雑な道のりを進んでいくと、少し広い空間に出た。
持ってきた大きめの光蛋結晶で周囲を照らすと、たしかに真っ暗な大きな穴が地面に空いている。
「これはすごい......初めて見たぞ!!」
「結構大きいですね......」
「思ってたよりも大きいね!どれぐらいの深さなんだろうか......ちょっと落としてみるか。」
そう言って、ハットは近くに転がっている第二層の欠片を穴に投げ入れたが、まったく音がしなかった。
「これは、相当な深さなんじゃないか......?まずは深さを確かめないと降りられないぞ......」
「え......降りるんですか?」
「深さがわかったらね!途中で宙ぶらりんは困るでしょ?」
そういう問題ではないと思うのだが、ハットの好奇心は恐ろしい。
手持ちの道具では深さを計測できなかったため、いったん研究室に戻って準備を整えることにした。
とりあえず、ロープの先に石でも括りつけて落として見ようということになり、ありったけのロープを備品室でこっそり拝借してから二人で担いで戻っていった。
二人で大きな荷物を持っていたからか、移動中はとても視線を感じた。
「まずは、長さの目安が知りたいから、もったいないけど光蛋結晶を投げようか!といっても、光の弱い質の低いやつだけど......」
そう言ってから、ハットは持ってきた光蛋結晶を投げ入れた。
光がどんどん小さくなっていき、次第に見えなくなった。
「これはすごいぞ......ちょっと計算してみるから待っててね。」
ハットの計算によると、持ってきたロープでは足りない可能性が高いという。
とりあえずダメもとでやってみようということで、ロープの端を近くの岩場に結び付けてから、もう片方の端に石を括りつけて、その石をそっと奈落に投げ入れた。
どんどんロープが無くなっていき、ピンと張った状態で止まった。
ハットと二人で奈落を覗き込んで確認する。
「やっぱりダメみたいだね......この長さじゃ無理か......」
「とんでもない深さですね。下ってどうなっているんでしょう。」
「まさに未知の世界だよ!気になって仕方がな......」
ドッという音とともに、視界の角でハットが体制を奈落の方に崩していくのが見えた。
時間が止まる。
僕は咄嗟に手を伸ばしてハットの上着を掴む。
落下の勢いが止められない。
もう片方の手で反射的にロープを掴む。
手が摩擦で焼けていく。
それでもロープを離さまいと、痛みに耐えて手に力を込める。
その瞬間、顔に大きな衝撃が走った。
体が浮遊感に包まれる。
かすんだ景色の中に、男のおびえた顔が見えた。
世界はすぐに暗闇に包まれていった。
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