第3話

堂々巡りで答えの出ない毎日。

 だけど貧困は進む一方。

 心身共に追い詰められ死を考えていた一ヶ月前のある日、あたしの元に突然やってきたのだ。

 彼──アルベルト・ブラウウェル伯爵が。





◆◆◆





 なけなしのお金を小さなパンに替えて帰ってきたら、あたしの家の前に何故か馬車が停まっていた。


 ここは貧民街スラム

 貧しいながらも毎日を懸命に生き抜く人々の街だ。

 生きるためには何でもする。

 身体も怪しいクスリも何だって売るし、強奪なんて日常茶飯事の無法地帯。


 そんな場所でその馬車は明らかに場違いな雰囲気を醸していた。


 漆黒馬の二頭立て馬車。日々丁寧に手入れされているのか馬の毛並みは遠目から見ても美しい。

 馬の引く客車もまた漆黒でさりげなく施された金箔から、その馬車の持ち主がそこそこの地位にいる貴族であろうことがわかる。

 手綱を引く御者二人の服装もまた綺麗に統一されていた。


 それがあたしの住処の前にドーンと居座ってくれてやがる。

 物凄く邪魔。そして目立ち過ぎ。

 近くに住む人らも場違いな馬車に物珍しい視線を注いでいる。

 中には睨みつけるような鋭い視線を送る者もいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る