イヤホン片方無くした君へ。

吉野 真衣

イヤホン片方無くした君へ。

 片方の耳が聞こえないのは不便だ。不自由だ。障害を持って生まれたのではない。私たちが神様から授けられたイヤホンをぞんざいに扱うから片方が逃げてしまった。それだけの事だった。

 街の景色を音で感じとる事がどれだけ大事なのだろう。最近になって気づいた感覚を研ぎ澄ますと、やはり片方から音が聞こえない。方向感覚(ここでは人間の生き方についての正直さ)が薄れてしまうらしい。聞こえないから聞こうとする。すると逆側の声が聞こえるのだ。迷ってしまい堂々巡りになる事も多かった。

 しかしまったく聞こえない方が良い場合もある。私たちはいつも誰かの悪口を言いふらし、自分が正しいと主張しがちだ。そんな時はノイズキャンセリングイヤホンを装着しやり過ごしたいと何度思ったか……。耳が聞こえなくなる薬などないだろうから。今、少女は片方だけのイヤホンを頼りに探し物をしていた。

「神社に行っても見えない、神様は。それに願っても届かない」

 諦めていた。人を変えられないと。

「片方から聞こえてくるのは優しい声。でもいつまでも子供のまま」

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イヤホン片方無くした君へ。 吉野 真衣 @yoshinomai1202

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