脂肪の謀り

白川津 中々

◾️

生まれてこの方彼女がいない俺にもとうとうチャンスがやってきた。


顔に難あり稼ぎも悪い。低身長の痩躯で舌も回らない弱者男性。それが俺だ。これまで女に相手にされず恨んだ事もあったがやはり恋しいと始めたマッチングアプリ。勇気を出してアプローチを開始し、とうとう一人の女と会う約束を取り付けたのだ。ときめくこの世の春。俺の心に花が咲く。相手のプロフィール写真はガチガチに加工されていたが、それでもなお溢れんばかりの脂肪に包まれていた。


しかしそれでいい。それがいいのだ。

包み込まれるような厚みが俺の寂しさを温める暖となってくれるのだから!


女はやっぱり肉付きだよ、肉付き。抱いた瞬間に感じる弾力、肌感。これね。古来からふくよかな女性は豊穣の象徴としてみられていたことから男は文化レベルで太い女が好きなのである。昨今の針金みたいな細い体型がよしとされる風潮ははっきりといって軟弱惰弱だと断言しよう。支えられる重量が男の度量。俺は200キロでも抱き上げてみせる。今から会うのが楽しみだグフフ。



しかし、彼女はやってこなかった。



「交通費足りなくて、二万円貸してほしいんだ。すぐ返すから」


貸した。電子マネーで送金した。ブロックされた。


もしやと思い、その手の情報が掲載されている掲示板、ボンバーサイトにて彼女の名前を検索したところ常習犯との事。"デブ専はニッチだし男の方も見下してるから疑いもせずすぐに金を出す"との書き込みを読み、泣いた。


悲しいのは騙されたからではない。己が持つかもしれない卑劣さに涙が頬を伝ったのだ。


俺が太い女が好きなのは、こんな自分でも受け入れてくれるかもしれないという浅はかな下心があったからなのかもしれない。「お前みたいな女、相手してやるだけ感謝しろよ」と、賎俗な性根が原動としてあった可能性を否定できないのが、自己嫌悪たらしめるのである。己の矮小な本質が顕となったようで、肉体以上に、心が凍えた。


もう、一人でいるしかない。


銷魂に枕が濡れる。

突きつけられた天涯孤独が、ずきりずきりと、俺を刺していく。


俺は一人だ。

これまでも、これからも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脂肪の謀り 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ