女の子同士の恋愛しか許されない高校に入学したけど私普通に男性が好きです〜先輩に異性が好きだとバレたら『更生』とか言って私を百合に染めようとしてきます〜

皇冃皐月

百合の花大学付属百合百合華高等学校

 百合の花大学付属百合百合華高等学校。白亜の校舎に、緑豊かな中庭がトレードマーク。校章は百合の花を模している。歴史ある名門女子校であった。全寮制ということもあって、全国各地から生徒が集う。外からはお嬢様学校と言われているらしい。そんな格式高めなわが校であるが、異質という次元を通り越すとんでもない特徴があった。

 それは。




 ――百合至上主義。




 である。

 これだけ言われてもなんのこっちゃ、と思うかもしれない。わかりやふく説明するのなら、ここの生徒は誰もが主人公になれてヒロインになれる。そういう学校ということだ。

 というわけで、当然ながら同性愛者ばかりになってしまう。学校内にあいては同性愛者がノーマルになり、異性愛者がアブノーマルになる。と

 近年の風潮のおかげで私自身そういうのに偏見はない。そういう指向があってもおかしくないよなぁ、それも個性だよなぁと思える。まぁ私はバリバリ異性愛者なのだが。常に彼氏欲しぃ〜と思いながら生きている、模範的女子高に通う女子高生である。校則で『異性恋愛禁止』と明記されているので作らないけど。え、作れないんだろって? うるさ。

 まぁとにかくそういうわけで、私が異性愛者であることは隠している。


 お昼休みになれば教室は内ではあちこちで百合が繰り広げられる。あっちでは姫と姫のカップルがお弁当を食べさせ合いっこしているし、こっちでは窓際に腰掛けて指を絡ませ合い教室内とは思えないような濃密な時間を過ごしている。


 そんな中、私はぽつんと一人ぼっち。教室のど真ん中でコンビニのビニール袋からパンやらおにぎりを取り出して貪る。

 傍から見れば明らかに異質な光景なのだろう。

 入学してすぐは悪目立ちしていたが、三ヶ月経過した今となっては、こういうものだと皆受け入れてくれている。


 「黒髪ロングにルビーのような赤い瞳。身長は平均よりも高く、胸は控えめ。一年B組所属で、お昼休みには必ず自身の机でコンビニぼっち飯を堪能。メモにある情報と合致します。有留珱ありどめえいさんで間違いないですね」


 銀髪のセミロング、ふわりとした内巻きカールで清楚かつ上品な印象を与える。瞳はサファイアのように青さと沖縄の海のような透明感を併せ持っている。スタイルは女性らしい曲線。男の子が好きそうな体型。なによりも胸がわけわからないくらい大きい。そんな大きいと肩凝るし、走りにくいし、大変そうだなぁと羨ましいよりも可哀想が先に出てくる。そんな名前も知らない彼女は私の目の前にやってきて、しゃがんで目線の高さを合わせる。


 「そうですけど……」


 あそこまでピンポイントに調べあげられた上に名前まで当てられていてしらばっくれるほどの勇気は私にはない。なので、なんだか怪しい雰囲気がプンプン漂っているなという意識は持ちつつも私が有留珱であると認めてしまった。


 「警戒しなくて大丈夫です。私は『百合教育委員会』の委員長をしている梅郷美絵ばいごうびえと申します」

 「百合教育……?」


 この学校に通って早三ヶ月。聞き馴染みのない言葉に私は思わず首を傾げる。なんだよ、百合教育委員会って。初耳なんだが。


 「説明は後で致します。とりあえず同行願えますか? 人のいないところに行きましょう」

 「今からですか」

 「はい」

 「どうしてもですか?」


 食べかけていたおにぎりをじーっと見つめながら問う。


 「どうしてもですね。あまり手段として行使したくありませんが、もしもそちらが拒否し続けるのであれば……仕方ありません」


 心底残念そうな表情を浮かべ、ぐいっと唇を私の耳元まで近付ける。


 「ここで有留さんが異性愛者の異端児であることを大声で叫んでも良いんですよ?」


 普通なら脅しでもなんでもない。好きにしろと突っぱねるところなのだが、この学校内においてはそうもいかない。もしもそれがこのクラスに知れ渡ったら。最悪退学まで考えなきゃいけなくなる。


 「……わかりました」


 渋々。本当に渋々ではあるが致し方ない。

 諦めて彼女の指示に従うことにした。

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