ふたつ -片一方-

谷行 寂知

1.13歳の1月の夜明け

 トラックのエンジン音が増え始めた。

 夜明けの一番気温が下がる時間帯。


 暖房便座から暖を取る為に数時間丸まり続けた体の筋肉や関節が、一晩中続いた寒さも手伝ってきしむ。

 強い眠気から来るふらつきと、喉の奥には冬場に感染する炎症の痛み。

 何度か咳をして、足元のリュックから水の入ったペットボトルを取り出し、キャップを外して水を一口含むと、炎症の痛みのある部分を洗う様に顔を上に向け強くうがいをする。

 口の中の水を便器に吐き出し、キャップを締めたペットボトルをリュックに戻す。

 軽い咳を繰り返しながら、履いていた中学校の体育ズボンを膝まで下ろす。

 ズボンの下にはハーフパンツを重ね履きして、バスタオルをオムツの様にして履いておいた。

 それを引き下ろして、股の間に押し付けていた折りたたんだトイレットペーパーを引きはがす。

 赤黒い経血を吸ってボロボロになっている。

 諦めのため息をついて、ボロボロのトイレットペーパーをトイレに捨て、備え付けのトイレットペパーで股の間を拭いて捨てて流す。

 リュックの中から使い端のトイレットペーパーを取り出して、何重にも折りたたんだ【偽ナプキン】を作り会陰を開き膣口に押し当て痛むギリギリまで押し込む。

 

 これで多分半日は大丈夫。


 バスタオルを生理用ショーツに履き替え、服を整えてトイレの室内が汚れていないかを確認して、リュックを背負ってトイレ個室から出た。

 経血が少しついた手を手洗い場で洗い、ポケットから出したハンカチで手を拭き、高速道路のサービスエリアの女子用トイレエリアから出た。


 早朝の青白い灰色い初冬の駐車エリアで何台ものトラックがアイドリングをしていた。

 何度こういう時間をここで過ごしたんだろ。

 家はサービスエリアから自転車で30分くらいの所にある。

 家では生理用品をくれなくて、衣服や寝具を経血で汚すと母親から殴られた。

 殴られて泣くと父親から殴られた。

 殴られたくないから生理が始まる度にここで過ごした。

 

「何で生きてるんだろ」


 マチが小さく吐いた言葉は、白い息に包まれて消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る