第2話 忍び寄る脅威



 夜の帳が降りると、海は闇に飲み込まれた。昼間は太陽の光を反射して穏やかに見えた水面も、今は底知れぬ暗黒へと変貌している。主人公は家の中の小さなランタンを灯し、家族と共に食事をとっていた。


 テレビのニュースが流れ、画面には水没した街の映像が映し出される。水中を撮影した映像には、ぼんやりとした巨大な影が映り込んでいた。キャスターの声が緊張感を帯びている。


 「政府の発表によると、水中に未確認の巨大生物が存在する可能性が高まっています。すでに数件の行方不明者が報告されており、当局は夜間の外出を厳禁とする緊急指示を出しました。特に20時以降は決して水辺に近づかないようにしてください」


 主人公は箸を止め、画面を凝視した。未知の巨大生物? 行方不明者? ただのデマではないか——そんな思いがよぎる。しかし、アナウンサーの表情は冗談では済まされないものだった。


 「なんだよ、まるで映画みたいな話じゃないか……」


 父親が苦笑交じりに呟いたが、すぐに真剣な顔に戻る。これまで誰も見たことのない生物が、今この沈んだ街の水の中に潜んでいる。


 家の中には水が入ってこないという異常な状況があるとはいえ、外に出ればこの海の支配者は人間ではなくなるのだ。主人公の背筋が寒くなった。


 ***


 それから数日が経ち、異変はさらに色濃くなっていった。


 20時以降の外出禁止令が発表された後、夜の海は不気味な静寂に包まれた。以前は時折ボートのエンジン音が聞こえたが、今は誰もが息を潜めているようだった。


 そんなある夜、主人公はリビングでうたた寝をしていた。時計を見ると、針は22時を回っている。窓の外は闇が広がり、水面は月明かりを反射してゆらめいていた。


 ——コン、コン


 玄関から音がした。


 主人公は一瞬、空耳かと思った。しかし、数秒後に再び——


 ——コン、コン、コン


 間違いない。誰かが玄関を叩いている。


 「……父さん?」


 父親はまだ帰宅していない。もしかして何かあったのか? 主人公は心臓が高鳴るのを感じながら、急いで玄関へ向かった。


 ドアノブに手をかけようとした瞬間——


 ——ドンッ!


 突然、強い衝撃がドアを揺らした。


 「……っ!?」


 主人公は驚き、後ずさる。外から荒い息遣いが聞こえる。そして、かすれた声が叫んだ。


 「開けろ! 俺だ!」


 間違いなく父親の声だった。主人公は急いで鍵を外し、ドアを開ける。


 父親が転がり込むようにして中へ飛び込んだ。次の瞬間——


 ——ゴォォォォォンッ!!


 ドアの向こう側で、何かが激しく水面を叩いた。主人公は反射的に扉を閉め、鍵をかける。


 父親は床に手をつき、荒い息を整えようとしていた。その身体は水浸しで、肩で息をしている。


 「父さん……! 一体何が……?」


 父親は震える手で顔を拭いながら、低い声で呟いた。


 「あれは……化け物だ……」


 主人公の喉が詰まる。


 「サメなんかとは比べ物にならない……とんでもない化け物が、この水の中にいる……」


 父親の顔は青ざめ、恐怖に引きつっていた。彼の腕には、爪のような傷跡が残っていた。


 窓の外の海が、静かにうねる。まるでそこに何かが潜んでいるかのように——。


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