【第3章】焼く

【第3章】焼く

日向がA子に勧められた脱毛サロンに足を運んだのは、春先だった。夏を迎える前に試してみるのも悪くない――そんな軽い気持ちだ。


受付カウンターは真っ白で、病院のように無機質な印象。スタッフは親切だが、どこか機械的にも感じられる。

施術はゴムで弾かれるようなチクチクした痛みが断続的に走り、まぶたを閉じても閃光がまぶしい。

「まだ大丈夫ですか?」と尋ねるスタッフの声が妙にフラットで、日向は「はい……」と苦笑いする。


施術前には毛を伸ばしておかなければいけないため、1か月ほど放置していたが、施術後は肌がほんのり熱を持ち、家に帰ってから冷ますようにカミソリを当ててしまう。

熱がさっと逃げ、ひんやりする瞬間にかすかな安堵を覚えた。

翌日にはポロポロと毛が抜けるので、本当はもう剃る必要などないのに――それでも習慣的に、カミソリを当てた。


回数を重ねるごとに毛はみるみる減り、施術終了間近には「もう剃らなくても大丈夫」と言われるほどになっていた。

それでも日向は「カミソリを使う」という行為をやめられない。

最初は3センチ幅くらいを何度も往復していたのが、いつの間にか膝からかかとまでストロークひとつで済むようになってしまった。

「……もう何もない」

手でなぞると、そこにはかつて感じた“剃りたて”の刺激もない。ただ平坦な肌があるだけ。


「それでも剃るんだ」――日向は自分でも理由がわからないまま、薄皮を一枚ぺりりと剥がすようにカミソリを当てる。

そこに一筋の水滴が伝い落ちていく。まるで、かつての「剃る快感」が溶けて流れていくような気がした。

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