第282話

中心に向かってズンズン足を進める渚に歩調を合わせる。


珍しくスニーカーを履いているあたり、本気度が伝わってきて可愛くてしかたねえ。

緩んだ口元がバレないように袖で隠した。





「どこから行く?幼稚園の時以来なんだよね、ここ」


「……マジ言ってんの?」


「うん。しかも全然記憶ないし、初めて来たみたいな感じ」



「冴えねえ青春送ってたんだな。友達と来たり、男に連れて来てもらったりするだろ普通」


「……普通ねぇ。じゃあ、譲は何人も女連れてきて楽しんだわけだ」




シレッとスルーした俺の様子を見て渚はふんぞり返って笑い、譲の下見のお陰で楽しめるわと言ってた。




「お前ラスボスな」


「おけ。ラスボスに下見の成果見せてよ。私に最高の思い出を頂戴?」





挑発的な笑みを向けながら白い手が差し出される。


渚から俺に手を伸ばすことは多くはなくて、それだけで目尻が下がる。






「ほら、早く。時間が勿体ない」


「うっしゃ。じゃあ行きますかっ!」







力強く重ねた手は、お互いの存在を確かめるように切ないほどに硬く繋がっていた。







「色々ありがと。心配かけてごめんね―――…」







歩き始めたと同時に雑音の中から届いた言葉。


横目で渚を見たけど、渚は視線を合わせる意志を見せなかった。


だから聞こえないフリしたんだ。








聞こえてたけど、聞こえないフリ。


渚がそう望んでたから。









本当は会ったら色々聞きたいと思ってた。


俺の知らない所で渚がどんな悪事を働いてたのか。


何故一世は知っていて、俺は蚊帳の外だったのか。


想像では補えないことばかりだったから。








だけど今こうやって肌が触れていればどうでもいい話で。


自分が手を離さなければいいんだって。

そうすれば渚はもう二度と間違いは犯さないと保証できるから。










今この瞬間の確かな現実と、約束された二人の未来があればそれでいいと思えた。

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