第263話

「その位にしてやってくれないかな。彼の無礼は上司の私が謝るよ」







扉が開き、入ってきた父と同年代くらいのおじさんに諭され、目の前で何も言わず立ち尽くしていた男から視線を外した。





別に彼を責めるつもりなんてなかった。

誰からの謝罪も無用だ。



自分の本心を悟った瞬間、他人を非難することのくだらなさを思い出し力が抜けた。




「ご両親が迎えに来てる。一緒に来なさい」





促されてその人と一緒に部屋を後にする。



蛍光灯が一本切れている静かな廊下に二人の靴音が響いた。

両親という慣れないフレーズが頭の中の大部分を占めていて、それ以外何も考えられなかった。





「赤くなってるね。大丈夫かい?」




そんな私の前を歩く人は足を止めて額を覗き込んだ。


はじめてしっかり顔を見たけれど、私なんかに本当に申し訳なさそうな顔を向けるなんて不思議な人だと思った。




「悪かったね。あとで冷やすものを持ってこさそう」


「平気です。それに私が悪いですから……」




あの人に不快な思いをさせた自覚があるだけにバツが悪かった。

歯切れ悪く言葉を繋いだ私に、その人は柔らかく笑ってまた歩き出す。






刑事というにはちょっと違和感のある丸く穏やかな雰囲気。

その人の背中をぼんやり見つめながら後ろを歩いた。

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