第239話

脈が飛び跳ね、呼吸が浅くなる。

容赦ない脱力感が僅かな思考さえ奪おうとしている。





「親戚に俺ら側の人間が居て、親は資産家。連行したって悪くて拘留止まり、下手したら事情聴取で終わっちまう」




聞きながら拳をギュッと握りしめた。




渚にコネがあることを喜ぶべきなのか。

不満を隠そうともせず俺らに愚痴る男を疎ましく思えばいいのか。


量りにかかった感情が揺らいでいた。




「最近のガキは何考えてんのか分からんね。あの類の富裕層の人間は一番タチが悪い」




あざ笑うように人を蔑む言葉。


何とかバランスを保っていたシーソーが揺らぎ始めると、一方に傾くのにそう時間は掛からなかった。




「ASHだっけ?君らのことも俺らはとっくに内偵済みってわけ。付き合いが長引いてヤバい方に引き込まれる前にこうなったことに感謝するんだな」



そんな言葉にビビるはずもない。

どんなに調べられようが後ろめたいことなんて俺にはない。



けど――、俺は何も知らなかった。

思っていた以上の心の距離を知り虚しさが増した。




「これ以上は君らも関わらないほうがいい。生きてる世界が違うんだよ。

高い服やブランド物で華やかに着飾って周囲を欺く。こんな事になってもいつか何も無かったように社会に出ていく。

取り巻く環境が味方して大人の俺らでも妬ましいくらい鮮やかに世の中を渡っていくんだ」

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