第231話

「どうして俺に?」


「電話預かったままだったから渡しに行かせてって嘘ついて時間もらったの」



こっちを見張るように背後にいる連中を気にかけた様子で言う。




「譲からお兄ちゃんに伝えてほしい。迷惑かけてごめんなさいって、全部私の責任だからって伝えて」



何がどうなってこんな風になっているのか。

真実に触れるどころか何かを聞くことさえ許されない状況。


ただ自分の半身を失う直前のような恐怖だけが残された。




覇気のない表情、虚ろな瞳、薄っすら開いた唇。

渚の瞳に映る自分は弱く、情けない男だった。


そしてそんな男を見る渚の瞳は何とも言えず切なくて、今すぐにでも抱きしめたくなった。




「前に言ったの覚えてる?何かあった時は私を切り捨ててって」


「でもそれは―――っ、」



状況があの時の想像とあまりにも違いすぎる。

切り捨てるなんて言葉を口にするのも悍ましい。




「今がその時よ。私のことは心配しなくていいから」




電話を握らせた手を遠慮がちに両手で包み込む。

長いまつ毛をじっと見つめていると、手元に向けられていた視線がゆっくりと交わった。




炎が消える直前のように力強い瞳の意味を瞬時に理解できなかった。

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