第39話

『 …ぎさ―――… 』




それが自分の名前の欠片に聞こえたのは思い込みなのか。




譲の声じゃない。

パパの声でもない。



けれど心が反応する。

遠い記憶の中で聞き覚えのあるような、穏やかで懐かしい声。


私が知ってる声より少し低くなっているけれど。

閉じた心を開いてくれるような温もりは変わらない。




ネックレスが触れる肌が強く熱を放ち、触れた手はどうしようもないほど震えていた。




思いついたことに意味がある。

譲が言っていた言葉が今頃やけに沁みてきて涙が零れた。




「今ナギサっつったよな?聞こえたよな?」



繋いでいた譲の手に一瞬で汗が滲んでいた。

何かを悟ったように緊張が走った表情で私を見る。



「おいっ!」



私の反応を確認しながら、揺さぶるように肩に触れる。


固まる私を見て譲も何かを察したのか過剰なリアクション。



声が出ない。

体が固まって動かない。




ドアマンのおじさんと話したことをふと思い出して、譲の野生の勘が背中を押してくれて今ここにいる。


もしかしたら兄に繋がる情報があるんじゃないかと、ちょっとした期待を膨らませていたのは確かだ。




元気にしているのかだけでもいい。

噂程度でもいいから手掛かりがあればと思ってた。



まさかこんなタイミングで何年も行方をくらませていた当の本人が現れるなんて考えもしなかった。



待ち受けていたのは想像以上の展開。

準備も何もなく迎えたその時は不安しかなくて、足をすくませた。

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