第10話 おれおいざか駅
何もないところに「何か」が生まれる瞬間を目撃した。
それはSNSに投稿された悪戯のような、得てして不謹慎な動画だった。
なんの曰くもない場所に、毎日花を供え続け、いつしかそこは近隣の人々すら献花を行うようになっていた。
「さあ、前回に引き続き心霊スポットを作っていこうという企画なんですが」
「今回はもっと奥行きを作っていこうかなと思います!」
軽快なBGMが皮肉の様に流れていた。
画面は定点カメラのように切り替わり、投稿者が道行く人に声を掛け始める。
カメラとは別に用意されたマイクでもあるのだろうか、二人の会話が聞こえ始める。
「あの、そこの駅の中に花が置いてあるんですけど何かあったか知ってますか?」
投稿者は白々しくもそう言った。
「いやあ、私も詳しくは知らないんだけど数日前から花が置いてあってね。誰か亡くなったって話よ。」
主婦と思われる女性はそう答える。
「なるほど、そうだったんですね。お忙しいところすみませんでした突然。」
その後カメラのもとに戻って来て言う。
「皆さん!聞きましたか?誰か亡くなったそうです。一体誰なんでしょうね。」
楽しそうに笑う投稿者。
その後も何人かに声を掛けるたび、カメラに向かってコメントしていた。
「それではさらにここからブーストさせていきますね!」
そう言うとまた通行人を捕まえに行く。
「あの、すいません、私この辺りで調べ物をしているんですが…最近この駅周辺で交通事故があったことをご存じですか?」
新しい切り口だった。
「えっ?そうなんですか?そういえば最近、そこに花が飾られるようになったのって…そう言うことですか?」
「詳しくは分からないんですが、そうかもしれないですね。すいません、ありがとうございました。失礼しました。」
またカメラに戻る投稿者。
「こんな感じでね、ちょっと数日に渡って噂がどんな風に広がるか試してみたいと思います!」
ある意味非常に興味深い実験だった。
かつて伝聞で全国を駆け巡った都市伝説、口裂け女のような、そんな現象が起きるのかもしれない。
私は前回の動画で、既に「何か」が生まれる瞬間を見た。
今回もあるいは、と期待せずにはいられなかった。
「なんでも、お婆さんが運転中の不注意で事故が起きたとか」
「小さい男の子が事故にあったらしいんですが」
「酔っ払いがケンカになったとかで」
一貫性も、根も葉もない、でっち上げを次々と。
そうこうしている間にも、お供えのものは増えていく。
中には傷み始める生花も出てきたようだ。
思ったよりも律義なのか、そういったものは丁寧に片づけを行い周辺を綺麗に掃除しはじめた投稿者。
やっている企画とはまるでちぐはぐな、良いやつなのか悪いやつなのか。いまだにこの投稿者を掴みきれない。
「さあ、もうかれこれ三週間ですね。そろそろ成果が出てくるでしょうか?今日もやっていきます!」
そんな挨拶とともに、定点に設置されたカメラが投稿者と通行人を遠巻きに映し始める。
「すいません、私この辺り慣れてないんですけど、この近くで面白いものってあったりします?」
急に話しかけられて初めは訝しんだ通行人だったが、しばらく話しかけられるうちに信用したのかぽつぽつと返事をしだした。
「いや…面白いもの…は、特に無いかな。残念ながら田舎なもんで。ただ、そこらへんの適当なメシ屋はどこいっても全部うまいよ。メシがうまいくらいかな。ここらは。」
「ただ、面白いとはちょっと違うんだけど…そこの駅あるでしょ。そこでなんか出るらしいよ。」
「出る…とは?」
「ユーレイ。なんか最近死んだ人がいるとかでね、俺もこないだ飲み屋で聞いたばっかりなんだけど。」
「なるほど…それはちょっと怖いですね。わかりました、ありがとうございます。ご飯屋さんも行ってみますね。失礼しました。」
会話を切り上げ、カメラのもとに。
興奮を隠しきれない投稿者。
「皆さん!聞きましたか!?ついに!ついに心霊スポット化しました!!」
「いやあこれは大成功でしょう!今日はまだもう少し時間があるんで、もうちょっと聞いて回ろうかな。」
それからも投稿者は何人かに声を掛け続けた。
「すいません、この変で幽霊が出るって聞いたんですけど、知りませんか?」
幽霊を枕詞に、二時間くらい声を掛け続けたようだ。
「ああ、知ってる知ってる。そこの駅らへんで見たって言ってる人いたよ。」
「友達の友達が夜中に子供の霊を見たって。」
「山姥みたいなのが出るらしい。」
「血まみれの男が立ってたって聞いたよ。」
企画の成功を確信したように、終始うれしそうな投稿者だった。
「もうこれは大成功ですね!ここまでうまくいくなんて!今後もね、定期的にこういうのやれればいいなって思います。では皆さん、面白かったと思ったら高評価を!アカウントのフォローもお願いします!ではでは〜!」
そう言って動画は締められた。
気が付いたら、ほくごう駅は過ぎていた。
もうすぐ最寄り駅だ。
帰ろう。
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