ブヒッ♡とお仕置き★ミ チェリーピッグマン

蟒蛇シロウ

第1話

 ここは日本の首都、東京都内のとあるビルに入っているとあるオフィス。

 勝豚汁郎かつとんじゅうろうは、株式会社『草詩そうし』の営業マンであり、営業成績は常に下から数えた方が早い。

 彼は日中の集中力が続かないのだ。

 だが、20年この会社に勤め続けているため会社の理念を始め、基本的な業務内容の理解に関して彼の右に出る者はいない。

 そのため1年間に及ぶ新入社員の研修は、毎年彼の担当であった。いや、むしろ新入社員の研修のために、国の不況や会社の業績不振などの状況でも解雇されなかったのではないか、と周りの社員は考えている。

 そんな豚汁郎は、今年も新入社員の研修を担当することになった。



 ~研修当日~


「この度、新入社員の研修を担当することになりました。勝豚汁郎です。よろしくお願いします」

 豚汁郎が挨拶すると、新入社員の水崎絵美みさきえみは元気よく挨拶した。

「はい!! よろしくお願いします! ……って、新入社員もしかして私だけですか?」

 絵美は広い研修室を見回して首を傾げる。

「……あはは……。実はあと4人いたんだけどね。2人は入社直前での入社辞退、あとの2人は音信不通でね。今年の新入社員は水崎さん1人なんだよ」

「え、じゃあ私は1人だけですか?」

 豚汁郎は困ったように頭を掻きながら答える。

 新入社員が1人。そんな年はこれまで1回か2回あったかな、と豚汁郎は回顧する。



 この水崎という新入社員も、自分1人だけだと不安だろう。

 そう思っていると、絵美は豚汁郎ににっこりと微笑みながら

「ラッキーです! 勝さんにマンツーマンで教えてもらえるってことですもんね!」

 と、ガッツポーズをする。




 豚汁郎は、そのポジティブさに半ば呆れながらも同時に感心してしまった。

「おぉ~今年の新人はやる気に満ち溢れてるじゃないか!」

 思わず豚汁郎はそう口にした。

「じゃあ、研修を始めようか」

 豚汁郎がそう促すと、絵美は元気よく返事した。

「はい!! よろしくお願いします!!」



 入社してから数日後のこと。絵美は豚汁郎について外回りの営業について回っていた。

 他の先輩社員は

「仕事ができない勝さんを反面教師にするんだよ」

「あの人偉そうに新人教育担当なんてしてるくせに、実際の仕事できないから笑えるよ」

 などと、絵美にアドバイスを送ったりしていた。

 しかし絵美は成績に拘って、半ば騙して契約を取り付けている社員も多い中、あくまでも顧客に寄り添った営業をする豚汁郎の仕事ぶりを尊敬しているのだった。



「勝さんはいつもどんな思いで営業をなさるんですか?」

 絵美は、そんな豚汁郎に素朴な疑問をぶつける。

「うーん……まず最初に顧客の話を聞くかな。それから、顧客が今何を求めているかを考えて提案するんだ」

「え? でもそれって当たり前じゃないですか?」

「うん、そうだね。だけどその当たり前のことを当たり前にできる人は少ないんだよ」

 豚汁郎はそう言うと、少し間をおいて話を続けた。

「例えばね、その商品を欲しいと思っている人は、本当は別の商品が欲しいのかもしれない」

 豚汁郎がそう答えると絵美は少し考え込んでいるようだった。

「水崎さんも研修が終われば違う部署に配属になるかもしれないけど、向こう側にお客さんがいるってことを忘れなければ、きっと上手くいくよ」

「はい! 今はちょっと難しいお話ですけど、なんかわかりました!!」

 豚汁郎の励ましに元気よく返事をする絵美。そんな彼女に、豚汁郎は微笑みながら頷くのだった。



「勝さん、そろそろお昼ですね! 今日はどこで食べましょうか? 私、今日はパスタが食べたいんですよ!」

 満面の笑みで少し離れたイタリアンのお店を指さす絵美。

「はは、元気だねぇ。じゃあ今日はパスタを食べようか」

 絵美が指さしたイタリアンレストランに入ると、2人はそれぞれ注文を済ませる。

「あ! 勝さん! 私このカルボナーラにしますね!!」

「ん? カルボナーラ頼むの?」

 豚汁郎が尋ねると、絵美は元気よく返事をした。

「はい! 私大好物なんです!勝さんは何にします?」

「ボクはこのペスカトーレにするよ」

 さっそく料理を注文する2人。



「あ! 勝さん、ちょっといいですか? 」

 店員にオーダーを伝えたあと、絵美は思い出したように豚汁郎に尋ねる。

 彼が顔を上げると絵美はそのまま言葉を続けた。

「私のこと、下の名前で呼んでもらっていいですよ! 水崎って苗字、あんまり好きじゃないので……」

 絵美がそう言うと、豚汁郎は少し考え込んだ。

「じゃあ……絵美ちゃん、って呼んだほうがいいかな」

 豚汁郎が少し照れながら言うと、絵美は満足そうに微笑んだ。

「はい! それでお願いします! ……あ! そうだ! 私も勝さんじゃなくて、別の呼び方で呼んでもいいでしょうか?」


「え、別の呼び方? 」

 絵美の提案に豚汁郎が驚くと、絵美は元気よく答えた。

「はい! とんさんってお呼びしてもいいでしょうか?」

「と、とんさん? それってもしかしてボクのあだ名?」

「はい! いいなぁって思ってたんです! ダメですか?」

 豚汁郎は苦笑する。

 嫌なわけではないが、なんだか気恥ずかしいような気持ちになるのだ。だが彼は微笑みながらこう答えた。

「……うん。まぁ、いいよ」

「やったぁ!ありがとうございます!」

 そんな会話をしていると料理が運ばれてきた。

 美味しいパスタを食べ終えると、2人は再び営業の仕事へと戻るのだった。



 絵美が入社してから、2カ月ほど経ったある日のこと。

 いつものように2人は営業に出ていた。その日から2泊3日、青森県まで出張だ。

「とんさん! やっと着きましたね! 青森!!」

 新幹線から降りると、絵美は元気よく豚汁郎に話しかける。

 豚汁郎が頷くと、彼女は興奮したように続けた。

「私ね、青森のねぶた祭りに一度行ってみたかったんです! 今年か来年見に来たいなぁ」

「あぁ、確かにあれはすごい迫力だからね」

 こうして2人は弘前に向かうバスへと乗り込むのだった。

 バスの中でも絵美は、豚汁郎に青森県の行ってみたいところ、食べてみたいものを熱く語って聞かせた。

(観光に来たんじゃないんだけどな……)

 豚汁郎は心の中で苦笑したが、楽しそうな彼女に水を差すのは申し訳ない気がして、彼は黙って彼女の話に付き合うのだった。



 弘前のビジネスホテルにチェックインした豚汁郎たちは、夕食を食べに外出した。

 豚汁郎はカップラーメンかコンビニ弁当で済まそうと思っていたのだが、絵美に外へと連れ出されてしまった。

「絵美ちゃん、夕食ならコンビニ弁当とかでいいよ」

 豚汁郎はそう提案するが、絵美は首を横に振る。

「ダメですよ! せっかく青森まで来てるんですから! 美味しいもの食べないと勿体ないです!」

 絵美はそう言うと、豚汁郎の手を引いて弘前の名産品が食べられる店へと連れていく。

 こうして2人は弘前の郷土料理に舌鼓を打つのだった。



「そういえば明日の営業先って、何件でしたっけ?」

 食事を終えてホテルに戻る道すがら、豚汁郎に絵美が尋ねる。

「5件だね。明後日は1件だけだよ。新規のお客さんだから頑張らないとね」

「はい! そうですね!」

 絵美は元気よく返事をする。豚汁郎はそんな絵美に頷くと、2人はホテルのフロントで鍵を貰って、それぞれの部屋へと向かった。

「とんさん! 今日もありがとうございました! おやすみなさい!!」

 絵美は豚汁郎にそう言うと、部屋に入ってドアを閉めた。豚汁郎もそれに答えるように軽く手を挙げて部屋に戻ったのだった。



 翌日、2人は営業でせわしなく動き回っていた。

「ふぅ……ちょっと休憩しようか」

 豚汁郎はそう言うと、絵美に缶コーヒーを買ってあげた。

「ありがとうございます! いただきます!」

 2人は近くの公園で缶コーヒーを飲みながら一息つく。

 絵美は豚汁郎の隣で美味しそうに缶コーヒーを飲んでいる。そんな様子を見て豚汁郎はふと疑問を口にした。

「……そういえば今さらなんだけど、絵美ちゃんはどうしてこの会社に入ったの?」

 豚汁郎の質問に、絵美は缶コーヒーを飲んでいた手を止めて答える。

「ん~……正直言うと給料がそこそこよかったから、というのが本音です。やりたいことは仕事以外でやれているので、とりあえず今までチャレンジしたことない仕事をしたいなって」

「なるほど、ちゃんといろいろと考えているんだね。素晴らしいことだよ」

 豚汁郎がそう口にすると、絵美は照れたように少し頰を赤く染めて続けた。

「全然そんなことないですよ~……でもいつかは素敵な旦那様と結婚して、子供も産んで……幸せな家庭を築きたいなぁ……なんて」

「うん、その夢は素敵だね。きっと絵美ちゃんならいい奥さんになれるよ」

 豚汁郎がそう言うと、絵美は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます! ……あ! もうこんな時間だ。そろそろ行かないと!」

 絵美はそう言って缶コーヒーを一気飲みすると、勢いよく立ち上がった。そんな絵美を見て豚汁郎は微笑む。

「そうだね。もうひと頑張りしようか」

 2人は残りの営業先へと足を運ぶのだった。



 ようやく全ての営業を終えてホテルの近くまで戻ってきたのは、20時近くだった。

 今日の仕事について軽く振り返りながら、宿泊先のホテルへと歩を進める2人。

 と、その時だった——。

「きゃあああっ!!」

 2人の会話を切り裂くような鋭い悲鳴が、夜道に響き渡る。

「え?何!?」

 豚汁郎が驚きの声を上げる。

 絵美は悲鳴の聞こえた方へと駆け出す。

 豚汁郎も慌てて彼女の後を追うと、そこには地面に倒れ伏した女性の姿と、その女性にナイフを突きつけている男がいた。

「……っ! 絵美ちゃん!」



 2人の元にたどり着いた豚汁郎は、咄嗟に絵美を庇うように前に出る。

「な、なんだお前ら!邪魔だ!どけ!」

 そんな2人を見て、男は慌てたように怒鳴り散らす。

「……」

 豚汁郎は無言で男の前に立ちはだかり、絵美を庇うような姿勢をとる。

 だが男が怯んだのは一瞬のことだった。男はナイフを持っている方の手を振り回しながら叫んだ。

「どけっつってんだよぉぉ!……死ねぇぇぇ!!」

 そう叫びナイフを振りかぶる男。

 豚汁郎が思わず身構えたその時だった——。



「とんさん!危ない!」

 絵美が叫ぶと同時に、彼女は豚汁郎の前に飛び出して回し蹴りで男のナイフを蹴り飛ばし、即座にもう一発、男の腹部に鋭い蹴りをお見舞いした。

 男は豚汁郎の目の前に倒れ伏して動かない。

 どうやら気を失ってしまったようだ。

「……あ、ありがとう……。え、絵美ちゃん……キミって実は強い?」

 呆然としながら尋ねる豚汁郎に、絵美は苦笑いで答えた。

「あ、あはは……実は幼い頃からずっと空手と柔道やってたんですよ」

 そんな絵美の言葉に、豚汁郎はただただ驚くしかなかった。


 2人は男を警察に引き渡した後、ホテルの中にあるレストランで食事をしながら先ほどの一件について話をしていた。

「絵美ちゃん、本当に強いんだね……驚いたよ」

 豚汁郎がそう口にすると、絵美は照れくさそうに笑った。

「いや……あれは、その咄嗟に体が動いたというか……」

「いやいや、本当にありがとうね。ボク1人じゃ、どうなっていたかわからなかったよ」

 豚汁郎は安心したように笑う。

 そんな彼を見て、絵美も笑った。

「いえいえ! とんさんこそカッコよかったですよ!」

「え?ボクが?」

 そんな絵美の言葉に豚汁郎は驚きの声を上げた。

「はい! ナイフを持っているって分かったのに、私を守るように前に出てくれたじゃないですか! 本当にカッコよかったですよ!」

 そんな絵美の言葉に、豚汁郎は少し顔を赤くして頬をぽりぽりと搔いた。

「そ、そうかな……はは、ありがとう」

 豚汁郎がそう答えると、2人はお互いに照れたように笑ったのだった。



 そんな事件もありながら、次の日は何事もなく仕事を終え、青森の地を後にした。

(絵美ちゃんは仕事に対して意欲的だし、わからないことも次々と質問してくれて教えやすいなぁ)

 帰りの新幹線の中で、豚汁郎はそんなことを思っていた。

 隣を見ると初めての出張で疲れたのか、絵美が眠ってしまっていた。

(まぁ無理もないか。慣れない土地での出張だったからね……)

 まるで幼い少女のような彼女の横顔を見て、豚汁郎は思わず顔をほころばせるのだった。



 出張から戻り、土日の休みを挟んで出社した絵美。

「おはようございます!」

 先輩たちに挨拶をして、自分の席へと向かう絵美。

 豚汁郎の席を見るが、彼はまだ出社していないようだった。


 今日の仕事の準備を始めた絵美の席に、女性先輩社員の「光村晴美みつむらはるみ」と「清澤志穂きよさわしほ」が駆け寄ってくる。

「絵美ちゃん、おはよ!」

「おはよう!絵美ちゃん!」

 2人に挨拶を返すと、2人は楽しそうに笑いながら絵美に話しかけてきた。

「ねぇねぇ、初めてアイツと出張だったんでしょ? 絵美ちゃん大丈夫だった?」

「そうそう、絵美ちゃん可愛いからアイツと一緒なの心配だったんだよ?」

 光村はニヤニヤと笑いながら、清澤は心配そうな表情で絵美に尋ねる。



「え? アイツって……とんさんのことですか?」

 2人の言葉の意味が分からず首を傾げる絵美に、2人は頷いた。

「そうそう! アイツよアイツ!」

「あの豚汁野郎のことよ! 大丈夫だった?何かされなかった?」

 豚汁野郎とは、もちろん豚汁郎のことである。

 だが絵美は2人の言葉の意味がわからず、さらに首を傾げた。そんな絵美に2人はさらに続けた。

「アイツ、ずーっと彼女も奥さんもいない中年なのよ!」

「そうそう! モテないからって立場を利用して絵美ちゃんに変なこと言ってこなかった?」

 2人の言葉の意味を理解した絵美は、思わず笑い出してしまった。

「あはは! 大丈夫ですよ! とんさんはいい人でしたよ!」

 2人の心配をよそにそう告げる絵美。

「本当? でも気を付けて」

 絵美の言葉を受けて、光村は彼女にヒソヒソと耳打ちをする。


「あいつ……あの年で女性経験ゼロなんだって……」

 それが聞こえた清澤も噴き出し、光村と目を合わせてクスクスと笑い出した。

「つまりあの豚汁野郎は、中年童貞ってことよ!」

「あの年で童貞ってヤバくない? 絶対性欲溜まりまくってて、変なことしそうだよね!」

 そう話しながら2人はお腹を抱えて笑っている。

「え? でも私も、まだ付き合ったもことないですよ?」

 絵美は先輩たちの言葉に、あっけらかんと答える。そんな絵美に2人は一瞬笑いを止めたが、再び笑って続けた。

「絵美ちゃん、彼氏いたことないの意外なんだけど~! ま、でも絵美ちゃんはいいじゃん!」

「そうそう! 絵美ちゃんはまだ若いんだから、全然いいのよ! でもあのオッサンはアウトでしょ~。ちょっとキモいよね~」

 2人は絵美にそう言って、豚汁郎をこき下ろす。

 だが絵美はそんな先輩たちの言葉を気にすることなく、笑いながら言った。

「そんなことないですよ~! とんさんはすごくいい人です! あ! でもとんさん彼女いないんですか? ちょっと意外かも」

 2人の言葉を否定した後、絵美はそう呟いた。

「はぁ……絵美ちゃんって可愛くて天然だから心配になるわ~……」

「そうだよね、絵美ちゃん可愛いから……あの豚野郎に何か変なことされそうになったらいつでも言ってね?」


 と、その時女性社員たちが何やらザワザワとしだした。

「え、やば!」

「もっとカッコよくなってるじゃん……」

「はぁ……まさに王子様」

「尊いんだけど~」

 女性社員が熱い視線を向けている方に絵美が顔を向けると、まさに絵にかいたような1人の美青年が出社してきた。

 誰だろう? と絵美が思っていると、光村と清澤も歓声を上げて手を振る。そして

「絵美ちゃん絵美ちゃん! 彼は一宮章介いちみやしょうすけくんっていうの! 何度も芸能事務所にスカウトされているのに断って、父親の会社に入った超絶イケメンくんなの!」

「そうそう、つまりこの会社の次期社長なの! はぁ~カッコいいわぁ~! きゃっ! こっち見たわ~」

 と、キャアキャアと騒ぎ出した。


 絵美は女性社員の言葉に驚きつつも、改めて章介を見た。

 長いまつげに縁取られた切れ長の瞳、スッと通った鼻筋に薄い唇……まさにイケメンの条件がすべて揃った完璧な美青年だ。そして会社の御曹司ともなれば、これはモテるだろうな……と絵美は思った。

 すると章介は絵美を見つけると、スッと近寄ってにこやかに挨拶をした。

「はじめまして。あなたが今年の新入社員ですね。社長の息子、一宮章介と申します。社長の息子とはいえ、実は僕も昨年入社したばかりで……。頼りないかもしれないけど、何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね」

 そう言って絵美に手を差し出す章介。絵美は遠慮がちにその手を取ると、章介は優しく微笑んで彼女の手をそっと握った。


 そしてそんな絵美を見て周囲の女子社員たちは口々に叫ぶのだった。

「あぁ~!今の章介さんの顔見た!? 尊すぎ!!」

「絵美ちゃんダメよ! 王子様はこの会社、みんなのものなんだから!」

「水崎さんず~るい~!」

 女性社員たちは口々にそんなことを言っているが、絵美は特に彼や周りの視線を意識することなく、1人の頼れる先輩として章介にお世話になるだろうな、と思うのだった。


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 絵美は章介に、笑顔でそう答えるのだった。

 2人がそんなやり取りをしていると、今度はヒソヒソと声を潜める女性たち。

 豚汁郎が出社してきたのだ。

「王子様のあとに豚汁野郎が出社って……」

「はぁ……久しぶりの章介くんだったのに最悪だわ……」

「アイツほんとキモいからマジ無理……」

 女性たちはそんな悪口を口々に言うのだった。

(なんか……嫌だな……こういうの……)

 絵美はそう思いながら豚汁郎のところへと向かい、いつものように挨拶をする。

「とんさん、おはようございます!今日もいい天気ですね!」

「おはよう絵美ちゃん。そうだね、今日もよろしくね」


 すると、章介が物凄い勢いで走ってきた。

 そしてすぐさま、豚汁郎と絵美の間に割りこんだ。

 そんな章介に、女性社員たちがまたも騒ぎ出す。

「きゃ~!! 章介くんったら、もしかしてあの豚汁野郎から絵美ちゃんを守ろうとしてる!?」

「絵美ちゃんもまんざらでもない感じじゃない!?」

「はぁ……尊い……」

 しかし、章介の取った行動は女性たちの想像していないものだった。

「勝のアニキ! 章介、海外出張からたった今戻りました!! 久しぶりにアニキに会えて嬉しいです!! 今日からまたよろしくお願いします!!」

と、大声で叫んだのだ。


 絵美はそんな章介の叫び声にびっくりして、そして彼を「アニキ」と呼ぶことにもびっくりしたが、何よりも彼の行動の真意がわからず豚汁郎を見た。

 すると豚汁郎は顔を引きつらせていた。そして……

「お、おう……おかえり……」

 そう答えるのだった。

 そんな2人のやり取りを見て、女性社員たちはさらに騒ぎ出したのだった。

「何!? あの2人って仲良かったの!?」

「えぇ!? アニキってどういうこと!?」

「キモいんだけど……」

 そんな騒ぎをよそに、章介は豚汁郎にお土産を渡しながら笑顔で話しかけてくる。

「アニキ! 海外出張に行ったので、たくさんお土産買ってきました! あ! あとこのボールペンなんかも! あとで使ってくださいね!」

 そんな章介の笑顔に……豚汁郎は引きつった笑顔を浮かべながら答えるのだった。

「あ、ありがとう……」

 仕事が始まると章介は、父である社長のいる社長室へと向かって行った。



 豚汁郎と絵美はいつも通り、営業先へと向かうのだった。営業先へと向かう車中、絵美は運転する豚汁郎に話しかける。

「とんさん、章介さんって女性社員の間だとまるでアイドルみたいな扱いなんですね」

 すると豚汁郎は笑いながら答えた。

「はは、そりゃあね。芸能界から何度もスカウトが来るくらいのルックスに加えて、社長の息子という肩書も備えているからね」

 豚汁郎がそう答えると、絵美がさらに問いかけた。

「章介さんは、とんさんのことをとても慕っているように見えました! 今日だって、とんさんが帰ってくるのをすごく楽しみにしてたみたいでしたし……」

 絵美がそう言うと、豚汁郎は困ったように笑った。そして少し考えてから口を開いた。

「実はね、彼もつい1年前まで今の絵美ちゃんみたいにボクが研修をしていたんだよ」

「え!?章介さんが!?」

 豚汁郎の言葉に驚く絵美。そんな絵美に豚汁郎は苦笑いで続ける。

「うん……いやいや最初のうちはワガママで結構大変だったんだから……。まぁ今はだいぶ落ち着いて、将来はいい社長になると思うよ」

 豚汁郎はそう言うと、窓の外に視線を移して少し嬉しそうに微笑むのだった。



 そして午前中の仕事を無事終え、どこかで昼食を食べようか、という時だった。絵美のスマホにメッセージが入る。

「あ、とんさんごめんなさい……。先ほど営業に行った会社「末野屋すえのや」さんの社員さんから連絡があって、私ちょっと忘れ物しちゃったみたいなんです。急いで取りに行って来てもいいですか?」

 絵美はそう言うと、豚汁郎に頭を下げた。

 先ほどの会社はここから歩いて5分も掛からないし、問題なさそうだと豚汁郎は思った。


 絵美が忘れ物を取りに営業先の会社「末野屋」に行くと、改めて社長室へと通された。

「ああ、どうもどうも。君と少し話がしたいと思ってね」

 先ほど商談を検討してくれる、と言ってくれた末野屋の社長「末吉真平すえよししんぺい」が絵美に声を掛けた。

「あ、あの……私の忘れ物って……?」

 末吉は無言でソファーに座ることを勧める。絵美は、とりあえず勧められたソファーに腰かけた。すると、彼は彼女の向かいのソファーに座りながら口を開いた。

「で、本題に入るけど……君って恋人いないの?」

 突然予想もしていない質問をされ、面食らってしまう絵美。

「……い、いませんよ」

 すると末吉は嬉しそうに笑いながら言った。

「そうかそうか!じゃあさ!今度食事でもどうかな?君、すごく可愛いから結構好みなんだよね」

「え!?」

 

 まさかの展開に絵美が驚いていると、彼はさらに続けた。

「こんなにかわいいなら食事だけじゃ物足りなくなってきちゃったよ……。もしワタシの言うことを聞いてくれるなら、さっきの商談の話を考えてあげてもいいけどなぁ?」

 そう言いながらニヤける末吉に、絵美は思わずたじろいでしまう。ゆっくりと絵美の隣に腰を掛ける彼。

「い、いや……ちょっと……」

 絵美が目を泳がせながら言うと、彼は余裕の表情で絵美の肩に手を回す。

「大丈夫、怖いことはしないよ? ワタシに身を任せなさい……ぐふふ! 可愛いねぇ……」

 危機感を覚えた絵美は逃げようとするが、商談先の社長に手を上げていいものかと一瞬不安になる。

 そうしている間に末吉の手がゆっくりと絵美の身体に触れる……その瞬間だった。


 ガチャ!とドアが開く音が聞こえると同時に豚汁郎が部屋に入ってきた。彼の姿を見た末吉は、急いで絵美から離れて立ち上がる。

「ああ、すみません……失礼いたします。ウチの水崎がこちらに忘れ物をしてしまったみたいで、大変なご迷惑をおかけしております」

 豚汁郎はそう言って深々と頭を下げた。そして、ソファーに腰かけている絵美に視線を向けると、優しい声で問いかけた。

「水崎さん? 忘れ物はあった?」

 豚汁郎の問いかけに、絵美は肩を震わせながら立ち上がり答える。

「い、いえ……えっと……あの……」

 すると末吉は冷や汗をかきながら豚汁郎に言うのだった。

「あ、ああ!?……どうやら忘れ物があったというのは、ウチの社員の勘違いだったみたいですな!! いやぁ、こちらこそ申し訳ない!!」

「あ、そうでしたか……。いやいや、それでは次の商談がありますので私共はこれにて失礼させていただきます。」

 豚汁郎は深々と頭を下げ、絵美を連れて社長室を後にした。後ろから社長がなにやらいろいろと言い訳のようなものを繰り返しているようだったが、豚汁郎は足を止めなかった。


 末野屋を出て豚汁郎の車に乗り込むと、絵美はようやく安堵のため息を漏らした。そんな絵美に豚汁郎が優しく声を掛ける。

「絵美ちゃん、大丈夫だった? 何もされてない?」

 豚汁郎の問いかけに、絵美は下を向いて、はい、と頷くのだった。

「あの……とんさん、助けに来てくれてありがとうございました。ああやって商談の成約をチラつかせながら迫ってくることって本当にあるんですね……」

 絵美の言葉に豚汁郎は頷きながら言った。

「うん……。昔からそういうことをしようとする人は、一定数いるもんだ。絵美ちゃん……もしボクが来なかったら、絵美ちゃんは自分でどう行動してたかな?」


 豚汁郎にそう聞かれると、

「商談のこともあってそんなことをしたらクビになるかも……と一瞬思ったんですけど……」

 そこで一旦言葉を切ったあと、絵美は困ったように顔を掻きながら続けた。

「とんさんがあと少し来てくれるのが遅かったら、空手で突き飛ばしてたと思います……あはは……」

 そんな絵美の言葉に豚汁郎は頷いた。そして優しい声で彼女に言うのだった。

「うん、それでいいんだよ。商談のために絵美ちゃんが傷付く必要なんてないんだ。むしろ自分の身を守ることが大切だからね」

 絵美がこくりと頷くと、豚汁郎も頷き返した。

「絵美ちゃんは腕っぷしも強いから大丈夫だと思うけど、それでも危ないなって思った時は、ボクや周りのみんなに遠慮せずに助けを求めてね。どんな時でも、ボクらは絵美ちゃんの味方だから」

 豚汁郎の言葉に、絵美はもう一度深く頷いた。

「はい! これからはそうします!」

 そして、そんな絵美に豚汁郎は笑顔を向けるのだった。

「さて、少し遅くなったけどまだ時間あるし、お昼でも食べに行こうか」

 "お昼"という言葉を聞いた瞬間に、絵美の顔はパァッと明るくなり、しきりに頷くのだった。



 その頃、先ほど絵美に迫っていた末吉は社長室で1人、

「あの豚野郎が邪魔しなければ、あの女をものにできたというのに……。クソッ、このまま諦めると思うなよ、クソ豚野郎!!」

と憤るのだった。

 そこへ秘所と思われる男性が飛び込んできて、彼に耳打ちする。

「な、なんだと!? 西木の娘が両親の死の件で我々を訴えるだと!? バカバカしい!! そんな馬鹿なことあるはずない! ハッタリに決まっている!!」

 そんな末吉の声に、もう1人いた男性が口を開いた。

「いや……どうやらその西木の娘は本気で訴えようとしているらしいです……。しかも弁護士の調べによると、その西木の娘は我々に不利な情報もいくつか握っているようです……」

「な、なんだと!? そんなバカな!!?」

 末吉はそう叫ぶと頭を抱えた。そしてしばらく考え込んだあと、

「あの女め……見逃してやったのに、その恩を仇で返すとはな……。よし、ここはいつものようにあの化け物どもの出番だ! 小娘め……お仕置きしてやらねばわからんようだな……」

 そう言ってニヤリと微笑むのだった。



 それから数日後の昼過ぎ。

「お父さん、お母さん……。やっと証拠を手に入れたよ。2人とも、あたしのためにごめんね……。絶対にあいつらに復讐するからね」

 西木恋にしきれんは自宅の父母の仏壇に手を合わせる。その表情は怒りに満ちていた。

 すると彼女の携帯に電話が掛かって来る。株式会社「末野屋」の社長、末吉真平とその他数名に対する訴えを起こせる準備が揃った、と弁護士から連絡が入った。

 弁護士は直接説明したいことがあるから、事務所まで来て欲しいと恋に伝えてきた。

「わかりました。これから向かいます」

 そう言って電話を切ると、恋は家を出て、電車を乗り継ぎ弁護士のもとへと向かったのだった。

 

 事務所に到着した恋は、応接室へと案内された。

 するとそこには彼女の両親の命を奪った張本人である憎き末吉と、両手を縛られ椅子に座らされている彼女の担当弁護士の姿があった。

「やぁ。恋ちゃん久しぶりだね、いい女になったねぇ」

 驚きと憎しみとで目を見開く恋に、末吉は弁護士の頭を小突きながらニヤリと笑う。

「まさか娘の方から乗り込んでくるとはね。悪い子だ。親の顔が見てみたいよ」

 そう言いながら楽しそうに笑う末吉を、恋は憎悪のこもった目で睨みつけた。


「……あんたがあたしの両親を殺したんでしょうが!!」

 すると末吉はとぼけたように首を傾げる。

「ん? 何のことかなぁ?」

「とぼけないで!! 証拠は揃ってるんだからね!!」

 そんな恋の言葉に、末吉はまた楽しそうに笑うのだった。そして、

「証拠? 誰が証明してくれるんだ? ん? 恋ちゃんの弁護士はどこかな~? どこかな~? あ、ここだ!!」

 末吉は身動きの取れない弁護士の頬を殴りつける。

「ぐぁっ!」

 弁護士は呻き声をあげて床に倒れた。そんな彼に、末吉はまた楽しそうに笑いかけた。


「恋ちゃん、残念だけどこの弁護士は、もう君の弁護をしないってさ。だから訴えるのは諦めてくれるかな?」

 その末吉の言葉に、弁護士は怯えた表情で恋にすがるような視線を送る。

「西木さん……もうこれ以上は……無意味です! もうあの件から5年も経ったんです! そろそろ……」

 そんな弁護士を睨みつけると、恋は吐き捨てるように言うのだった。

「ふざけんな!! あんた、この人を脅したんだろ!?」

 恋は末吉を睨みつけたまま、弁護士の言葉を遮って言った。

 すると末吉はやれやれと言わんばかりに首を振って言うのだった。

「やれやれ……本当に残念な子だね……。ここで先生に何を言っても無駄だよ? だって先生はワタシの言うことを聞くしかないんだからね」



 そんな末吉の言葉に、恋は

「くっ……。せっかく証拠が集まったのに……」

と悔しそうに唇を噛んだ。そんな恋に、末吉はさらに続ける。

「残念だったね~恋ちゃん。でもね、恋ちゃんもここで終わりだよ? ワタシに歯向かうとは愚かな。だが簡単に殺すのはもったいない。ワタシの慰み者にしてあげよう」

 末吉は口元を歪めて、恋にゆっくりと近づいて来る。

「嫌! やめて!」

 そう言って後ずさる恋だが、すぐに壁際まで追い詰められてしまう。そして末吉は怯える彼女の肩を掴むと、そのまま彼女を床へ押し倒した。そして馬乗りになって言うのだった。

「さぁ……たっぷり楽しませてもらおうか……」

 そんな末吉の行為に恐怖で顔を歪ませながらも、弁護士は必死に叫んだ。

「や……やめてください!! 西木さんが訴えを取り下げたならもういいでしょう!?」

 その言葉に末吉は心底可笑しそうに笑った。

「もういい? バカ言っちゃいけないよ! 真実を知っている人間を野放しにしておくわけがないだろう? それに、この娘はワタシに歯向かったんだ……。その報いは受けてもらわないとね」


 そして末吉は恋を見下ろしながら続けるのだった。

「さぁ……まずはその生意気な口でも塞いであげようか……」

 そんな末吉の言葉に恋は必死に抵抗した。だが、そんな抵抗も虚しく、末吉は恋に口づけをしようと顔を寄せてくる。

「いやっ!! やめて!!」

「ぐふふ! さぁお味見といこうか……」

 末吉が鼻息を荒くし、恋に覆いかぶさって口づけをしようとした時だった。

「ぐあぁっ!!」

 末吉が低く、苦しそうに悲鳴を漏らす。

「誰があんたなんかにやられるかっ!」

 恋が彼の股間を思いきり蹴り上げたのだ。さらにもう一度蹴りを入れる。

「ぐはっ! うぐっ!!」

 末吉はたまらず股間を抑え、床に倒れ込むと転げ回るのだった。


 そんな末吉を見下しながら恋は言うのだった。

「お母さんにあんなことして、あたしまで犯そうとするなんて……絶対許さない!!」

そんな恋の言葉に、痛みから復活したのか末吉が叫ぶ。

「このクソガキがぁ!! もう許さん!! 絶対に許さんからな!!」

 彼が叫ぶと同時に、奥の部屋からコウモリのような怪人が現れる。

「ドレインバット、その女を殺せ!!」

 命令を受けたドレインバットは、恋に飛び掛かる。彼女は間一髪でその攻撃を躱すと、急いで応接室を飛び出した。

「くそっ! まさかヴィランを雇っていたなんて——!」

 必死に階段を下りて外に出ると、応接室の窓からドレインバットが急降下で飛び掛かってくるところだった。



「あっ、とんさん! もうお昼過ぎじゃないですか! 何か食べませんか?」

 ところ変わってこちらは、豚汁郎と絵美。

 絵美はお腹を擦りながら豚汁郎にそう尋ねる。

 2人は今日も、いつものように仕事で外回りをしていた。

「ははは、絵美ちゃんといるとなんだかたくさんご飯を食べている気がするなぁ。何が食べたいかな? この近くに美味しいお店はいろいろあるんだけど……」

 豚汁郎の言葉に絵美は嬉しそうに飛び跳ねる。

「おお! それは悩みますねぇ! 中華がいいかな~、でも定食も食べたいような……う~ん、でもカレーとかも捨てがたいし……!」

 そんな絵美の様子に、豚汁郎はにっこりと微笑むのだった。

 

しかし次の瞬間、絵美の表情は一変する。

「——!! とんさん、すみません。やっぱりお昼先に食べていてください……」

 急に真剣な表情になった彼女の様子に、豚汁郎も何かを感じ取ったようだった。

「え? どうかしたの?」

 豚汁郎にそう聞かれると、絵美はすぐに答える。

「私を呼んでる……」

 そんな絵美の言葉に、豚汁郎は驚いた表情で尋ねる。

「呼んでるって……一体誰が?」

「……とにかく行かなくちゃ! すみません、とんさん!!」

 そう言うと絵美は突然走り出したのだった。

「あ! ちょっと絵美ちゃん!?」

 そんな豚汁郎の声も聞かずに、絵美は走り去って行くのだった。

 彼女のこれまで見たこともない神妙な表情が気になり、豚汁郎もまた彼女のあとを追いかけるのだった。


 その頃、恋は追跡してくるドレインバットから逃げていた。

 逃げている時に一度壁に打ちつけられ、怪我をしながらもなんとか走り続けていたが、

(はぁ……はぁ……もうダメかも……!)

 体力が尽きて、ついに足がもつれて転んでしまった恋に、ドレインバットが襲いかかってくる。

「きゃあああ!!」

 そんな悲鳴とともに彼女はドレインバットに掴まれ、遥か上空へと連れ去られる。恋は必死に手足をバタつかせて抵抗する。

「離せ! 離しなさいっ!! この化け物っ!!」

 そんな恋の言葉にドレインバットは不気味に笑うと、彼女の方に視線を送った後、何度も下に目線を下げる。

 恋が彼の視線を追って目線を下げると、既にここは地上から遠く離れた上空であった。

 つまり"本当にここで離していいのか、落下して死ぬぞ"

 と、ドレインバットは嘲笑しているのだ。

「ひっ……」

 恐怖で顔を歪ませる恋。そんな彼女の脳裏に、両親との楽しい思い出が浮かんでは消えていく。

「いや……お父さん……お母さん……の仇……」

 そしてついには泣き出してしまうのだった。

 そんな恋にドレインバットは満足そうな表情を浮かべると彼女から手を離した。そして落下していく恋を見下ろしながら高らかに笑うのだった。


「あそこね! お願い間に合って!」

 少し離れたところから落下している恋を発見した絵美は、1人つぶやいた。

「ミラクルチェーンジ!ミラクルチェーンジ!」

 彼女は走りながら、ポーズを取る。

 すると彼女の姿は、白を基調とした衣装を身に纏い、髪がピンク色に変化している女性戦士へと変身するのだった。

「よしっ! いくわよ!!」

 絵美はそう言うと恋に向かって超スピードで飛行し、接近していく。そして落下中の恋をキャッチするとそのまま地上へ降り立つのだった。

「きゃああああああっ!! ……って、助かったの!? あ、あなたは??」

 恋は安堵のため息をつきながら、自らを抱きかかえる女性に尋ねる。


「私はミラクル☆サニーよ。あなたの敵じゃないわ」

 すると恋は驚いた表情で、絵美が変身した正義の戦士「ミラクル☆サニー」のを眺めるのだった。

「正義のヒロイン……」

 ヒロインの到着で先ほどまでの恐怖で張り詰めていた緊張が一気に解けたのか、恋はその場にへたり込むのだった。

 唸り声を上げながらミラクル☆サニーに飛び掛かるドレインバットだったが、簡単に躱されて凄まじいパンチとキックの連撃を叩きこまれる。再び飛び上がり吸血攻撃を行おうとするも、顔に強烈な一撃を受けてドレインバットは遥か遠くまで吹き飛ばされた。

「すごい……。かっこいい……!」

 ミラクル☆サニーの戦いぶりに、恋は目を輝かせてそうつぶやくのだった。

「さぁ、終わりにしましょう」

 そんな決め台詞とともに絵美はドレインバットにトドメを刺そうと構えを取るが、ドレインバットは恐れをなして逃げ去って行ったのだった。


 追いかけようとしたミラクル☆サニーだったが、怪我をしている目の前の女性を病院へ連れて行く方が先だと判断した。

 そして、少し離れた誰も見ていないところで変身を解除すると、恋の元へと戻って来る。

 そこには既に豚汁郎がいて、彼女に肩を貸していた。

「あ、あれ? と、とんさん!? ど、どうしてここに??」

 驚く絵美に豚汁郎は困ったように苦笑いをする。

「どうしてって……それはこっちのセリフだよ絵美ちゃん……。絵美ちゃんが急に走り出すから心配になって追いかけてきたんだ。だけど絵美ちゃんのことを途中で見失って、その近くまで来たら怪我をしていた女性が倒れていてね」

 豚汁郎の説明に、絵美はホッと胸を撫で下ろすのだった。

「なんだ……そうだったんですね! って、急に走り出したりして、すみませんでした!」

 絵美は豚汁郎にぺこりと頭を下げる。

「うん、ちゃんと反省するように……。さぁ、この人を病院へ連れて行こう」

 豚汁郎はそういうと、絵美と共に恋を病院へと連れて行こうとする。


 しかし、彼女は病院へは行けない、と断る。

 病院へ行けばまた狙われ、関係ない人たちも危険な目に遭うかもしれないから、とのことだった。

 ドレインバットやその仲間がまた襲ってくることを考え、公務ヒーローを呼んだ方がいいのではと2人は提案したが、恋はそれを頑なに拒否する。

「公務ヒーローは……ダメです。証拠を提出したうえでその裏付けが取れて、ようやく公務ヒーローの警護が派遣される。その間にあたしは殺されてしまう……。だから、ダメなんです……」

 そう語る彼女の目には涙が浮かんでいた。そんな恋に、豚汁郎と絵美は心配そうに顔を見合わせるのだった。

「わかりました。じゃあ、公務ヒーローに連絡して派遣されるまでの間、あなたの家で私があなたを守ります。」

 恋の肩に手を置いてそう伝えると、豚汁郎の方を見る絵美。


「とんさん、ごめんなさい。彼女を1人にしておけないんです! だから……」

 絵美が申し訳なさそうにそう言うと、豚汁郎はにっこりと笑って答えた。

「僕は構わないけど、絵美ちゃん1人で大丈夫? いくら格闘技をやっててもヴィラン相手じゃ……」

 豚汁郎のそんな心配をよそに、絵美は自信ありげに答える。

「大丈夫ですよ! 私、こう見えても本当に強いので! それに公務ヒーローは緊急性がある場合はすぐに駆け付けてくれますから!」

絵美のそんな自信たっぷりな様子に、豚汁郎は諦めたように頷いた。

「わかった。じゃあ僕は仕事に戻るよ。絵美ちゃんは早退したってことにしておくけど、何かあったらすぐ連絡するんだよ?」

 そんな豚汁郎に、絵美は笑顔で答えるのだった。

 2人のやり取りを黙って聞いていた恋は、申し訳なさそうに口を開いた。

「あ……ありがとうございます……」

 そんな恋に2人は優しい笑みを向けるのだった。



 豚汁郎と別行動を取った絵美は、恋と一緒に警察署へと公務ヒーローの警護をつけてもらう手続きに来ていた。

 しばらくして恋が窓口から戻って来る。

 その表情を見るに、やはりすぐに警護をつけてもらうことはできなかったのだろう。

 バスで家に移動している間も、恋は辺りを常に警戒していた。

 絵美は周囲に危険な気配は感じられなかったが、年のため、彼女も警戒を緩めないまま恋の家へとたどり着くのだった。

「最近忙しくて散らかってますけど……」

 そう言って恋は絵美を家の中へ招き入れる。1人暮らしには大きすぎる家だな、と思いながらリビングへと通される絵美。

 仏壇に飾られている2つの写真を見て、その理由をなんとなく察する。

 絵美の視線の先にある両親の写真を見て、恋は全てを話しておくべきかどうか、と迷うのだった。


「絵美さん、どうしてあたしの命が狙われているのか、絵美さんには話しておきたいんだけど……。でも、そのせいで絵美さんまで狙われたら……。ううん、巻き込むわけにはいかないわ……」

 絵美は不安そうな彼女の手を取り、優しく言う。

「大丈夫。恋さんに何があったのか教えてください。私、必ず力になりますから!」

「絵美さん……。ごめんなさい、ありがとう。じゃあ、全部話すわね……」

 そう言って恋は覚悟を決めるのだった。



 恋の父親はとある会社に働いていたが、ある日会社の社長が取引先の女性に乱暴を働いている事実を知ってしまう。

 正義感の強かった彼女の父は、被害者の女性と協力してその件を訴えようと画策するが、社長はその事実を隠蔽するために部下を使って女性を殺害させた。

 そして事実を知る西木とその妻も社長の部下によって、人目のつかない廃ホテルに拉致される。両親が行方不明になってから数日後に、当時大学生で両親の無事を願っていた西木の娘、恋の元に知らないアドレスから動画が送られてきた。

 件名が「愛しのパパとママ」となっており、怪しいと思いつつその動画を見てみると、そこには男たちに凌辱される母と、何度も暴力を振るわれている父の姿が映っていた。

 動画を見た恋はあまりのことに発狂したのだった。

 数日後、その映像を解析した警察によって西木夫妻は発見されるが、すでに2人は凄惨な暴行を受けた末に命を落としていた。

 あんなに優しかった両親を惨たらしく殺した奴らを絶対に許せない! 殺してやりたい……。何度も何度もそう思った。それでも恋は、法の裁きで決着をつけようと誓っていた。自分たちのために娘が人を殺したら、天国の両親が悲しむと感じていたからだ。


 両親が死んで少し経ったある時、恋はとあるダークヒーローの噂を耳にしたという。

 神秘の布を報酬としてもらう代わりにどんな相手にも復讐してくれるヒーローの話を。両親を殺した男たちもそいつに殺されればいいと望んだが、いくら願ってもそれらしきヒーローは見つからなかった。

 だからやはり自分が証拠を集めて、社会的に犯人たちを裁く必要がある。

 そうしてようやく証拠を集めたところを、犯人たちに口封じされそうになって、そこを謎の女性戦士ミラクル☆サニーに助けられた。

 恋は全てを絵美に打ち明けるのだった。


 彼女は静かに恋の話に耳を傾けていたが、恋が話し終えると口を開く。

「そうだったんですね……。話してくれて、ありがとうございます」

 そう言って絵美は恋の手を握るのだった。

「絵美さん……」

 そんな絵美の様子に、恋は少し驚いていた。こんなに優しい気持ちで接してくれる人に、久しぶりに会ったからだった。そして、それと同時に両親の優しさを思い出し、復讐心が再び燃え上がるのを感じたのだった。

(絶対に許さない……あいつらだけは!)

 そんな決意を新たにする恋。



「許さない! ……末吉」

 彼女が強い憎しみから思わず零した名前に、絵美が反応する。

「えっ!? 末吉って……まさか、末野屋の? 末吉真平??」

 驚いた様子で尋ねる絵美に、恋も目を見開く。

「絵美さん知ってるんですか? そうです、末野屋の社長、末吉真平。あいつがあたしの両親を殺した犯人なんです……」

 その名を口にするだけでも怒りが込み上げてきて、体に震えが走る恋。絵美はそんな彼女に、自分の体験を聞かせた。

「実は先日、さっき私と一緒だった上司のとんさんと営業に行ったんですけど……。その時に商談の成約をチラつかせた末吉に襲われそうなりました」

「なんですって!? 許せない……あの男は女性を……他人を何だと思ってるの!」

 絵美の話に、恋は怒りを爆発させる。



 その時だった——。

 ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

 時計の針はすでに21時30分を回っている。こんな時間に普通、来客などあり得ないだろう。

 絵美と恋は顔を見合わせると、ゆっくりと立ち上がりドアホンの映像を確認する。

 そしてリビングを出て玄関に向かい、ドアスコープから外の様子を確認すると豚汁郎が立っていた。

「な、なんだ~。絵美さんの上司の人じゃないですか?」

 恋が安堵したようにため息をこぼすと、電話に出て応対しようとした……が、絵美が彼女の腕を押さえて小声で耳打ちする。

「とんさんじゃない……。とんさんは、もし自分がそっちに行く場合には必ず事前に連絡するって……。だから……」

「おーい、絵美ちゃーん! おーい、恋さーん! おーい! おーい! おーい!!」

 玄関の向こうで豚汁郎が2人を呼んでいる。


「だから……あれはとんさんじゃない……! 恋さん、逃げましょう!」

 そう言って絵美が強引に恋の腕を引いて窓の方から逃げようとするが、その瞬間に玄関を蹴破って豚汁郎の姿をした何者かが侵入してきた。

「急いで!」

 絵美は恋の手を引いて裏の庭から飛び出した。そして暗い道路に出て走っていると、上空から赤い瞳が迫って来る。

 そう、それはドレインバットだった。

 後ろを振り返ると、追いかけて来ていた豚汁郎の姿をした何者かが真の姿を露にする。

 それはカメレオンのような姿をした怪人だった。

「ゲッゲッゲッ! もう逃げられんぞ? 散々手こずらせてくれたが、これで終わりだ!!」

 そう言ってドレインバットは恋と絵美を追い詰める。

 2人は挟み撃ちにされてしまい、逃げ場を失ってしまう。

 徐々に距離を詰めてくる2体を前に絵美は恋を逃がして、2体とも自分が引き付けようと考えていた。



 すると、

「ピッグマンキーック!!」

 という声と共に何者かが、飛行しているドレインバットを蹴り飛ばした。2人がそちらに視線を向けると、豚の仮面を着けスーツに身を包んだヒーローと思わしき男の姿があった。

 豚の仮面のヒーローはドレインバットに追撃を食らわせる。驚いている2人に彼は告げる。

「オレの名は、ピッグマン! 悪を許さぬ正義の豚男! 豚の仮面に誓って、お前たちを許さない!」

 そう宣言したピッグマンに、絵美が尋ねる。

「あ……あなたは?」

 そんな彼女にピッグマンは

「さぁ、お嬢さんたち! 早くお逃げなさいっ! ここはこのピッグマンに任せるのだ!」

と、逃げることを促す。

 2人は礼を告げると、慌ててその場を立ち去るのだった。

「さぁて、コウモリ男! トカゲ男! お前たちの悪行もこれまでだ! 覚悟しろっ!!」

 ピッグマンは2体の怪人に向かってそう叫ぶと、拳を掲げて立ち向かっていくのだった。



 一方、逃げていた2人は公務ヒーローの駐在地へと向かう。

 そして駐在地に到着すると2人は状況を説明し、戦闘が行われている恋の家に、近くの支部からヒーローを3名派遣してもらうことになった。

 絵美は恋を駐在所のヒーローに任せると、彼が止めるのも聞かずに元来た道を戻っていた。

 自分もミラクル☆サニーに変身して加勢するためである。

 恋の家に到着した絵美は、

「ミラクルチェーンジ!ミラクルチェーンジ!」

 とポーズを取ってミラクル☆サニーに変身する。

 そしてドレインバット、カメレオンの怪人であるヘンゲロンと戦うピッグマンに加勢する。

「き、君は? まさか君も正義の戦士なのか?」

 ピッグマンが突然の助っ人に驚きミラクル☆サニーに尋ねると、彼女は答えた。

「私はミラクル☆サニー! 正義の戦士よ! ピッグマンさん、助太刀します!はぁあああああああ!!」

 ミラクル☆サニーはそう言ってドレインバットとヘンゲロンに向かっていくのだった。

 2対2の激しい戦闘が繰り広げられ、ミラクル☆サニーとピッグマンが、ドレインバットとヘンゲロンを追いつめる。


「さぁ、観念しなさい!!」

 ドレインバットとヘンゲロンに向かってそう叫ぶミラクル☆サニー。しかし、突然上空から不気味な笑い声が響き渡る。

 2人がそちらに視線を向けると、そこには巨大な口だけが異空間から覗いていた。

「な、何あれ!?」

 ミラクル☆サニーが驚いていると、巨大な口が動く。

「まだまだ有象無象のヒーロー、ヒロインがひしめいているようだな……。だが、それもいずれ終わる。地球は我々が支配するのだからな……」

 それだけ言い終わると、その巨大な口は異空間へと姿を消すのだった。


「隙ありぃ~!!」

 ヘンゲロンの強力な舌の高速連撃がピッグマンを打つ。

「ぐはっ! しまった!!」

 ダメージを受けて倒れたピッグマン。それを好機と見てヘンゲロンが攻撃を仕掛ける。だがそれを見たミラクル☆サニーが、

「ミラクルクルクル! スターリボン!!」

 と取り出したステッキを回し、星型の光弾を放ってヘンゲロンを弾き飛ばしたことで失敗に終わる。

「クソッ、あの豚男よりも女の方が強いな……。ドレインバット、あいつは無視だ。最初に豚男から始末するぞ!」

 そう言って、ピッグマンに向かっていく。


「ぐぅぅ……こ、このままでは……」

 ピッグマンは力の差を感じながらもなんとか立ち上がろうとする。しかし、ダメージが大きすぎて立ち上がれない。

 ドレインバットとヘンゲロンの連続攻撃に追い込まれていき、絶体絶命のピンチに陥るのだった。

「ピッグマンさん! 私が2人を引き付けます! その隙に逃げて下さい!」

 2人の攻撃をなんとかさばきながら、ミラクル☆サニーがそう叫ぶ。

「だ、大丈夫だ! オレに任せろっ! ……うぐぅっ」

 そう叫ぶピッグマンだったが、隙をつかれてヘンゲロンの攻撃を受けてしまい、再び倒れてしまう。

「ピッグマンさん!!」

「だ、大丈夫だ……オレには秘策がある。それよりも、さっきの彼女の方が心配だ……。ここは、任せてくれ!」

 ピッグマンは2人の怪人に向かって駆け出す。

「大丈夫ですか? ここは一旦退却を!」

 ミラクル☆サニーは心配のあまりピッグマンに撤退を促すが、彼は首を横に振る。そしてドレインバットとヘンゲロンの攻撃を必死に受け流しながら、叫んだ。

「オレは豚男! 正義の味方だ! ここで逃げたら……男が廃る!!」

 そんな彼にドレインバットとヘンゲロンは攻撃の手を強める。


「そんなに死にたいのなら……殺してやる!」

「死ねっ!」

 ヘンゲロンの舌とドレインバットの飛行突進攻撃が同時にピッグマンに襲い掛かる。

「ぐっ! まだだっ! ミラクル☆サニー、さぁ早く行くんだ!! オレのことは心配するな……」そう言ってピッグマンが2人の攻撃を受けきる。

「ピッグマンさん!!」

 ミラクル☆サニーが叫ぶと、ピッグマンは微笑む。

「なぁに、このぐらい大したことはないさ……」

 そして続けて言う。

「さぁ、早く行くんだ! 彼女が危ない!!」

「くっ……。ピッグマンさん、ごめんなさい! すぐに戻ります!!」

 ミラクル☆サニーはそう言って彼の元から走り去っていく。


「さぁ、行くぞ! オレは負けない! 負けるわけにはいかない!!」

 2人を追いかけてその場を去っていくミラクル☆サニーを見送ったピッグマンはそう呟いて気合を入れると、ドレインバットとヘンゲロンに向かって行った。

「ぐあっ!」

 ドレインバットの突進攻撃を受けて、ピッグマンは吹き飛ばされる。

「ぐふっ!」

 ヘンゲロンの舌攻撃を受けて、ピッグマンは血を吐く。

 2人の怪人に痛めつけられて、ピッグマンはすでにボロボロになっていた。

 しかし、それでも彼は諦めない。

「オレは……正義の味方だ! 悪には屈しない!!」

 そう言って立ち上がり、再び2人に向かって行くのだった。


 そんな彼の姿を見たミラクル☆サニーは、彼を置いていくことに罪悪感を覚えながらも、今は一刻も早く恋の元へと戻ることを決めるのだった。

「早く恋さんの元に行かなきゃ……」

 ミラクル☆サニーは全速力で自宅へと向かっていた。



 一方その頃、ピッグマンは2体の怪人に対して善戦を続けていたが、やはりダメージが大きく、誰のも目にも限界を迎えようとしているように見えた。……が、しかし……。

「ブヒィィィッ!! もっと!もっとだ!! もっとオレを痛めつけろぉおおおおっっ!!!」

 そう叫びながら、ピッグマンは2体の攻撃を受け続ける。その度に

「ブヒィィィッ~! ブヒィッ~! ブヒィィッ~! ……」という、豚のような悲鳴を上げていた。

 その姿は、正義のヒーローというよりも……まるで1匹の変態のようだった……。

「ブヒィィィッ~!! もっともっと、痛めつけろぉおおおお!! ……ブヒィッ~!!」

と叫ぶピッグマン。


「お、おい……ドレインバット! 早く始末してしまおう!」

 ヘンゲロンがドン引きしながらそう提案すると、ドレインバットも頷くような動きをする。

 そして2人の怪人はピッグマンをなぶり殺しにしようと攻撃の手を強めるのだった。



 一方のミラクル☆サニーは、先ほどの駐在所へと到着していた。

 ……しかし、そこには恋の姿はなく、血まみれで倒れている公務ヒーロー3人の姿があるだけだった。ミラクル☆サニーは驚きつつも、周囲に漂う血の匂いに顔をしかめながら3人へ声をかける。

 しかし、いくら呼びかけても3人は目を開けることもなく、息を引き取っていた。

 ミラクル☆サニーは咄嗟に周囲を見渡して恋を探す。やはり彼女の姿はない……。すると暗闇からドレインバットが奇襲をかけてきた。

「な、どうしてここに……。まさか2体いたの!?」

 ミラクル☆サニーが驚きつつも考えを巡らせていると、ドレインバットが空中を滑空するように接近して来て蹴りを放ってくる。

 彼女はそれをステッキで受け止めると、すぐさま反撃に打って出る。しかし、後ろから強い衝撃を受け彼女は体制を崩した。驚いてそちらに視線を向けると暗闇で無数の目が赤く光っていた。それは全てドレインバットの目であった。彼女はその不気味な光景に一瞬戸惑いを見せるも、再びステッキを構える。


 すると暗闇から複数体のドレインバットが飛び掛かり、彼女に掴みかかったのだ。

 その手は彼女を拘束すると宙に持ち上げて絞め上げる。

「くぅっ……こ、こんなにいたなんてっ!」

 ミラクル☆サニーはそう叫ぶが、ドレインバットの手は緩まるどころか更に強く絞め上げる。そして彼女の腹部に強烈な膝蹴りを喰らわせた。

 彼女は地面に倒れてしまう。そこへ無数のドレインバットが襲い掛かって来るのだった。

「キュキィー!」

と鳴き声を上げながらドレインバットたちが群がって行く。

「や、やめてっ! うぐぅっ!」

「キュキィー!」

 ドレインバットたちは容赦なく彼女のコスチュームごしに牙を突き立て、吸血を試みる。

「うぐっ! く、苦しい……。は、離れてぇ!」

 ミラクル☆サニーは必死に抵抗するが、ドレインバットの牙は彼女の身体に深く突き刺さっていて離れない。

「キュキィー!」

「うぐぅぅっ!!」


 ドレインバットたちは次々と彼女に噛みつき吸血していくが、ミラクル☆サニーはなんとかステッキを掲げると同時に叫んだ。

「サニーフラッシュシャワー!!」

 ステッキから放たれた光が夜の闇を照らし、まるでその一帯だけが朝を迎えたように明るくなる。

 そしてその光から鋭い光線が無数に放たれ、10体はいたドレインバットたちを包み込み消滅させるのだった。

「……ふぅ……あんなにいるのは予想外だった……油断した……」

 変身を解除し、ミラクル☆サニーから元の姿に戻った絵美

「でも、なんとか倒せて良かった。あとは恋さんを探さないと……」

 

 すると、

「絵美さん……あなたが……あの正義のヒロインだったのね……」

 と声がした。その方向に視線を向けると首から血を流して、苦しそうに息をしている恋の姿があった。

「恋さん!? だ、大丈夫ですか!?」

 慌てて駆け寄る絵美。すると彼女は息絶え絶えにこう言った。

「あの化け物に血を吸われて……お、お願い……あたしは……もう……無理……代わりに……末吉を……殺して……」

 と、訴えてくる。

 絵美はこれまでヴィランと戦ってきたことはあるが、殺人を頼まれたのは初めてだった。

 2つ返事でその頼みを引き受けるわけにはいかない。しかし目の前の恋は悔しさ、悲しみ、怒りなど様々な感情を孕んだ瞳を涙で滲ませている。

 絵美は答えに窮していたが、彼女の容体を考えて救急車を呼ぶのだった。



 一方その頃、ピッグマンは……。

「ブヒィィィィィィィィッ!! あぁイイッ!!もっとだ!もっと、オレを痛めつけろぉおお!!」

 ヘンゲロンの舌攻撃やドレインバットの飛行突進攻撃を受けて、ピッグマンはすでに瀕死状態であった。

 だが彼はマゾヒズムに支配された変態と化しており、どんなに痛めつけられてもその声色には恍惚が浮かんでいたのだった……。

「ブヒィィッ~!! もっと強くぅう!!」

 そう言いながら再び立ち上がるピッグマン。その姿はどう見ても異常だった……。

「な、何なんだコイツは……。お前本当にヒーローか? お前みたいな変態見たことがないぞ……」

 ヘンゲロンはさすがに引いているようだった。

 

——と、それまで攻撃を受け続けていたピッグマンが、ドレインバットの突進攻撃を真正面から防ぐ。と、同時に彼の体が赤くなりジュージューと音を立て始める。

「よし、もうそろそろ頃合いだろう! ピッグマン焼豚モード!!」

 彼の轟く勇敢な叫びを聞き、ヘンゲロンは思わずたじろぐ。その様子を見た彼は、続けて語りだした。

「説明しよう! ピッグマンは攻撃を受け続けることによって、M豚パワーが蓄積されていくのだ。そしてそれを解放することによって、さまざまな技を発動したり、別の姿へと変化したりすることができるのだ! そして、今使用しているこれがピッグマン焼豚モードだ!」

 ヘンゲロンは「は、はぁ……」と相槌を打つことしかできなかった。


 そしてピッグマンは、ドレインバットの突進攻撃に対して「ゴロッと焼豚!」と叫ぶ。すると彼の拳が赤く光り輝き始めた。そしてそのままドレインバットに殴りかかると、その拳は光を放ちながらドレインバットの腹部にめり込み、爆発を起こし、その体は四散するのだった。

 突然の反撃に驚き、逃げ出すヘンゲロン。その後ろ姿にピッグマンが手をかざす。そして彼が「厚切り焼豚!」と叫ぶと、彼の手から五本の鋭い斬撃が飛び、ヘンゲロンを切り裂いた。

「ぐあぁっ!! つ、強いんじゃねぇか……お前……」

 そう言い残すとヘンゲロンは爆発四散するのだった。

「あまり強い攻撃が来なかったせいで時間が掛かってしまった……! あの2人は大丈夫だろうか……」

 勝利したピッグマンはそう言いながら駆け出すのだった。



 病院に運び込まれた恋は緊急手術を受けている。

 手術室の前のソファで絵美が不安げに俯いている。

「絵美ちゃん、西木さんは?」

 絵美から連絡を受けて、駆け付けた豚汁郎が彼女に声を掛ける。

「あ、とんさん……。来てくれたんですね……。……それが、意識ははっきりしているけど衰弱が酷くて、助かる可能性は低いって……。お医者さんが言ってました……」

「そうか……。今は……祈るしかないね……」

「……はい」

 2人は何も言えなくなり沈黙するのだった……。


 しばらくして手術室から担当してくれた医師が出てきた。

「西木恋さんのお付き添いの方々ですね? 我々も手は尽くしました。しかし、出血多量とそれによる衰弱、傷口を始め体内で狂犬病ウイルスが異常な値で検出されました……助かる可能性は低いです……」

 それを聞いた2人は顔を見合わす。そして、静かに頷くのだった……。

 

絵美と豚汁郎は恋が運ばれた病室にいた。眠っている恋の手を取ると、彼女は小さい声で途切れ途切れになりながらも、ゆっくりと話し出した。

「絵美……さん……。何回も助けてくれて……ありがとう。それと……最後に頼んだこと……あのお願いは……忘れてください……。あんなこと……お願いして、ごめんなさい。……結局、私の手で末吉に復讐することは、できませんでした……。でも、これで良かったんだと思います……。だって……きっと両親も、そんなことを望んでなかったから……」

 絵美は恋の手を優しく握りながら彼女の言葉を聞く。

「絵美さん……あたし、最後にコーヒーが飲みたいんです……。缶コーヒーでもいいから……ブラックのやつ……。買ってきてもらっても……いい、ですか? ワガママ言ってごめんなさい……」

 それを聞いた絵美は

「わかりました、買ってきますね」

 そう言って病室を後にする。



 彼女が出ていったのを確認すると、恋は豚汁郎の方を見た。

「勝さん……。絵美さんに……親切にしてくれてありがとう、久しぶりに友達ができたみたいで嬉しかった……って、伝えてください……。それから……あたしの……お願い、聞いてもらえますか?」

 豚汁郎は恋の言葉を聞くと、彼女の傍の椅子に腰を掛けるのだった。

「もちろん。なんでも聞くよ」

 その返事を聞き、彼女は安心したように微笑んだ。

「ありがとうございます……。それじゃあ、1つだけ……。さっき手術をしたので……ここに……はありません。でも、あたしの家の脱衣かごになら……昨日のもの……が……。ちょっと……恥ずかしいですけど……どうか、それで……お願いします……」

 彼女の言葉を聞いて一瞬驚いたような表情をした豚汁郎だったが、最後には彼女の目を真っすぐ見てゆっくりと頷いた。

「ありがとうございます……。これで、思い残すことは……ありません……」

 彼女はそう言ってゆっくりと、窓の外に視線を向ける。徐々に明るくなり始めた空を見て、小さい微笑を浮かべ

「お父さん……お母さん……もうすぐ会えるかな……?」

 と子供に戻ったかのような声色で呟くのだった。

 衰弱していく彼女の姿を見つめる豚汁郎の目には、これまでとはまったく違う色が宿っていた。


 絵美がコーヒーを買って戻ってきたのとほぼ同時に、豚汁郎が恋の病室から出て行く。

「あ、あれ? とんさん、どこに行くんですか?」

 病室の入り口から歩いてくる豚汁郎に声を掛けた絵美だったが、彼からの返事はなかった。

 だが彼が横をすれ違う瞬間、絵美はこれまで見たことがない彼の強い「怒り」を感じさせる表情を見て、思わず息を飲むのだった。

「とんさん……」

 絵美の心配そうな声が廊下に小さく響く……。

 豚汁郎が病室から出て行った後、恋は絵美が買って来てくれた缶コーヒーを一口飲む。

「ありがと……絵美さん……。……にがっ……ふふ……でも……美味しい……」

 そう呟いた彼女の頬には涙が伝い、その雫はベッドのシーツを濡らすのだった。そして彼女はゆっくりと目を閉じ、静かに息を引き取るのだった。

「恋さん……もっと早くに……助けてあげたかった……! ごめんなさい……。でも、もうこれで嫌な思いに苦しめられることもありません……。お父さんと、お母さんと……ゆっくり休んでくださいね……」

 絵美は涙を流しながら、そう呟くのだった。




 西木恋の家へと足を踏み入れた豚汁郎。

 彼は彼女に言われた通り、浴室の隣にある脱衣室へと向かった。

 そしてそこにあった脱衣かごの中身を確認。

 するとそこには、女性ものの下着や衣服が入っていた。

 豚汁郎はその中から恋が昨日身に着けていたと思われる下着を探り出すと、それを持参してきたジップロックにしまうと、彼女の家をあとにするのだった。

 

 そして自分のマンションに戻ってきた彼は、なにやら準備を始めるのだった。

 さくらんぼ、桃、イチジク、ティッシュペーパーを乗せた三方を持ち、奥の部屋へ続く襖をスーッと開ける豚汁郎。

 ろうそくがいくつか灯るだけの、暗い部屋に入ると襖を閉める。

 そして先ほど恋の家から拝借してきた彼女の使用済み下着が入ったジップロックを胸元から出すと、ゆっくりとその下着を取り出した。それを顔の前にかざすと、ゆっくりと広げていく。

 その表情は何かを決断した男の顔になっていた。




 恋が亡くなって数時間が経過したあと、末野屋の社長室にて。

 始業時間の少し前、すでに出社していた社長の末吉真平は電話を受けていた。

「おぉっ!! あの小娘が死んだか! ついでにどこぞのヒーローが首を突っ込んでくれたおかげで、世話が面倒だったあの化け物どもも死んでくれたわけだし一石二鳥だな。ワタシたちの証拠は一切消えたというわけだなっ! がっはっはっはっ! ご苦労ご苦労、お前ももう戻って来ていいぞ」

 電話を切ると、堪えきれずに再び高笑いする末吉真平。

「結局世の中は、権力を持っている者が強いのだ。それに気付かない哀れな愚民どもめ……。少しずつ少しずつ……このワタシが世界を牛耳ってやるから、楽しみにしているがいい……がはははっ」

 

すると再び社長室の固定電話に電話がかかってきた。

「おはようございます社長。まだ始業時間の前なのですが、社長にお会いしたいという若い女性がいらしているのですが、いかがいたしましょうか?」

 会社の受付レディからだった。

「ほう、若い女性……? うむ、通しなさい」

 末吉は上機嫌にそう答える。

 しばらくすると、社長の部屋のドアがノックされる。

「どうぞ、入りなさい」

 彼がそう言うと、ゆっくりとドアが開かれる。

(ぐふふ……今回の祝いに、入ってきた女を手籠めにするか……。いざという時には、そいつもまた口を口を封じればよいしなぁ)

 社長はいやらしい笑みを浮かべながら、入ってくるであろう若い女性の姿を待っていたのだが……。


「あ、失礼します」

 と頭を下げながら入ってきたのは、豚汁郎だった。

「な!? わ、若い女ではないのか? ……い、いや……あなたは確か、株式会社「草詩」の勝さん。こんな朝早くからなんのご用ですかな?」

 部屋に入ってきたのが若い女性ではないと知り、落胆と同時に戸惑いを見せた末吉だったがすぐに取り繕うように言葉を紡いだ。

「はい。実は、社長にお話ししておきたいことがありまして」

「ほぅ、それはいったいどのような?」

「はい、実は……」

 そう言うと豚汁郎は末吉の近くにより、耳打ちする。


「先日会ったうちの水崎が、ぜひまた末吉社長とお会いしたい、と申しておりました」

 その言葉を聞いた末吉は、隠すことなくだらしない笑みを浮かべる。

「おぉ……あの可愛らしい新入社員の女性ですな。これはまた、ぐふふ……!」

 豚汁郎は末吉に笑顔を向けたまま、さらに続ける。

「えぇ。なんでも彼女、以前荷物を忘れた際に社長が気遣ってくれたと仰っているのです」

「ほぅ……それは嬉しい限りですなぁ。ではさっそく今日の夜でも……」

「はい、そう伝えておきますね。それともう1つ……」

「?」

 豚汁郎はそこで、一旦言葉を区切ると末吉の目を真っ直ぐ見据えた。

 その目は獲物を狩る時のような、鋭い眼光だった。そして……ゆっくりと口を開く……。



「西木恋があなたによろしく、と……」

 その瞬間、何かを察した末吉は目を見開いて彼を見る。

「な、なにを言っているんだ? 」

 豚汁郎は真っすぐに彼を見据えている。

「ヴィランを雇い、量産型のヴィランを飼いならして証拠を隠滅するとは……あくどい金持ちのやりそうなことですな」

 末吉の顔に動揺の色が見て取れた。そして豚汁郎はさらに言葉を続ける。

 しかし我に返り、状況を整理した末吉はニヤリと笑う。

「どこで知ったか知らんが、弱小企業の平社員ごときがこのワタシを脅すつもりかね? 証拠はどこにある? 今すぐにでも秘書に任せてお前の大切なものを始末させてやってもいいんだぞ? がははっ!」

 調子を取り戻した末吉は、次々と脅しの文句を並べては上機嫌に笑う……が、豚汁郎は一切鋭い眼光を崩さない。

 その様子を見て、苛立った末吉が社内電話で秘書に連絡を取ろうとするが繋がらない。携帯電話も繋がらなければ、外の音も一切が聞こえない。


「無駄ですよ。電話やカメラ、電子機器は全て無意味です。あ、……それと……あなたの息のかかった連中は全て始末させてもらいました……。つまりこのご時世には珍しく、本当に私とあなた2人っきりというわけです。いや、あなた好みの綺麗な女性でなくて申し訳ない」

 豚汁郎はそう言うと、ゆっくりと末吉に近づいていく。

 その迫力に気圧された末吉は、思わず後ずさりをする。

 連絡ができなければ助けも呼べない、怪人たちもすでにやられてしまっている。末吉の目には涙すら浮かんでいた。

 豚汁郎はそんな末吉との距離を詰めていき、彼の肩を掴んだ。

 その力強い握力に恐怖し、末吉は全身に冷や汗をかきながらカタカタと歯を鳴らす。


「お前はこれまで多くの女性を無理やり手籠めにし、邪魔になれば殺してきた。そして会社の不正が発覚しそうになるとそれを全て心優しい部下に押し付けた。西木家の人たちもその1つだ……」

 豚汁郎の言葉を聞き、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら頭を振る末吉。

「もう終わりだ……。あの世できっちり罪を償うんだな……」

 その言葉と共に、豚汁郎が隠し持っていた鋭い牙のようなナイフが末吉の心臓を貫いた。

「ぐっ——!? ぐぇっ……」

 ひと際大きく目を見開くと、末吉は豚汁郎に寄りかかるように崩れ落ちる。

 豚汁郎は末吉の亡骸をそっと床に寝かせると、ゆっくりと立ち上がり天井を見上げて独り言のように呟いた。


「恋さん……約束通り依頼は果たしたぞ。……せめてあっちでご両親と幸せにな……」

 そして、静かに部屋を後にするのだった……。




「恋さん、最後は穏やかな顔でした……。でも……何かもっと私に何かできたんじゃないかって……。もしかしたら救えたんじゃないかって……」

 数日後、いつものように豚汁郎と研修中だった絵美は空を見上げながらつぶやく。その日の空はどんよりとした曇天だった。

 まるで今にも雨が降りそうな天気だ。

 豚汁郎はそんな空を見上げると、低い声で静かに言葉を紡ぐ。

 するとその時、空からポツリポツリと水滴が落ち始めた。それは次第に数を増やし、一気に雨になったのだった……。

 雨が降る中、傘もささずに2人は祈るように目を閉じるのだった……。


「絵美ちゃん。恋さんがね、絵美ちゃんがコーヒーを買いに行っている時僕にね、親切にしてくれてありがとう、久しぶりに友達ができたみたいで嬉しかったって絵美ちゃんに伝えてくれって……」

 豚汁郎の言葉を聞きながら、絵美の目に涙が浮かぶ。その涙は雨に混じって流れ落ちていく。

「恋さん……。私、もっとあなたに何かしてあげたかった……」

 豚汁郎はそんな絵美の肩に手を置くと、優しく微笑む。

「恋さんは、最後に笑ってた。きっとあちらでお父さん、お母さんと再会しているよ」

 絵美は涙を手で拭いながら豚汁郎に笑顔を返すのだった……。

 2人が去った後……雨は上がり、雲間から光が差していた。その光は雨に濡れた街をキラキラと照らしていた。まるで、恋を送り出すかのように……。


 豚汁郎は雨上がりの街を、ただ真っ直ぐに見つめ続けるのだった。

「さぁ……午後も忙しくなるけど、あまり頑張りすぎずにいこうね、絵美ちゃん」

「……はい! とんさん! 今日も1日頑張りましょう!」

 2人が歩み去った後、雨が降り続いていた街に虹がかかったのだった……。

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