第4話 帝国ホテルのレストランにて
帝国ホテルのレストランで、相沢の顔を見るとウェイターが予約名簿を確認し始めた。
「えっと……相沢様ですね。こちらへどうぞ」
三人用の椅子とテーブルに着いて、相沢がウェイターに「プレステージシャンパン」を注文した。
「畏まりました」
とウェイターがすたすたと厨房へと戻っていく。
シャンパンが運ばれる。それをゆっくり味わいながら今夜のことを性懲りもなく考えていた。どこかのホテルで休憩でもしようか、とか。
シャンパンは甘い。口に含むと舌先で転がしながら、彼女とのキスを思い出していた。
彼女とのキスは甘く官能的であった。
ってか、何考えているんだよ、妹の前で。その妹である李奈のことを見ると、遅れて遅ばれてきたオレンジジュースを、物珍しそうに見ている。
「何しているんだ? 飲めよ」
「こんな高級なお店で、こんな贅沢なもの飲むの、躊躇っちゃうよ。だってこのオレンジジュース、高いんじゃないの?」
「まあ、千円ぐらいはするんじゃないのか?」
適当に言ったらそれを軽く否定してきた相沢だった。
「いや、二千五百円はするわね」
俺はシャンパンをむせ込んだ。胸元をさすりながら、「まじか……」と驚愕する。
「お兄ちゃん、そんな高いもの飲めないよ……」
飲むことに萎えている李奈に相沢は微笑みかける。
「遠慮しなくてもいいのよ。ぐびっと一気飲みしちゃいなさい」
李菜がコップを傾ける。喉をならしながら飲み干した。
「うう……濃厚………すっごい」
なんか、卑猥だな。ていうか俺がそんなこと思っちゃ駄目だろ! 妹だぞ!
「そういえば、名前なんて言うの?」
相沢のそんな言葉に、何故かムスッとした李菜。
「あなたに教える名前なんてない」
「李菜だよ」
「ちょっと…………勝手に名前なんか教えないでよ。名無しで通そうと思ったから」
「お前はなんJ民か? それとも馬鹿か?」
「なにその究極の質問? まさか、私が休日に板を散策していたことも、前の定期テストで赤点を取ったこともお見通しなの?」
俺はずっこけそうだった。
「なに言っているんだよ!」
すると相沢が大笑いした。
「妹さん、可愛いね」
「だ、だろ?」
なぜか、相沢が妹の名を呼ぶことはなかった。
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