プラットホーム

@Ryu-12120126

プラットホーム

駅のホームで、俺は千紘(ちひろ)を見つけた。三年前に別れて以来、初めての再会だった。


 ──声をかけるべきか。


 迷っている間に、千紘は電車に乗ってしまう。気づけば俺も、反射的に同じ車両に飛び乗っていた。


 千紘は窓の外を眺めている。長い髪は切られて、肩につくくらいになっていた。変わったな、と思う。でも、変わっていないとも思う。


 別れた理由は、些細なことの積み重ねだった。仕事が忙しくてすれ違い、口論になり、気まずさに耐えられなくなった俺が「少し距離を置こう」と言い、結局そのまま終わった。


 後悔は、別れてすぐに襲ってきた。だが、意地になって連絡できず、時だけが過ぎた。


 電車が揺れる。千紘の肩がわずかに傾いた。その瞬間、千紘の目が俺をとらえた。


 驚き、少しだけ戸惑い、それから──笑った。


「……久しぶり」


 千紘の声を聞いた瞬間、懐かしさと安堵で胸がいっぱいになった。


「ああ、久しぶり」


 言葉を探していると、千紘が「あっ」と声をあげた。


「降りる駅、ここだった!」


 慌てて立ち上がる千紘。俺も、とっさに続く。


「お前、今時間ある?」


 言葉が勝手に出た。千紘は目を丸くして、少し考え、それから頷いた。


 ***


 駅前のカフェで、俺たちは向かい合った。コーヒーの湯気がゆらめく。


「偶然ってすごいね」


 千紘が笑う。その笑顔を見て、俺の中で言葉が決まった。


「……ごめん」


 千紘の手が止まる。


「別れたこと、後悔してた。もっと向き合えばよかったって、ずっと思ってた」


 沈黙が流れる。でも、嫌な沈黙じゃなかった。


「私も」


 千紘が、静かに言った。


「でも、あの時は、そうするしかなかったんだよね」


 俺たちは、お互いを見つめた。あの頃の痛みを、ようやく言葉にできた気がした。


 ふと、千紘が笑った。


「もう一回、友達からやり直してみる?」


 不意に涙がこぼれた。


「……いいのか?」


「うん」


 千紘も涙をぬぐいながら、笑っていた。


 さよならの先で、また会えた。今度こそ、ちゃんと向き合おう。

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