第11話 庇護欲なんかじゃなくて

何とか心を落ち着かせた私と夏音の話は弾んで、ふと時計を見ると針は10時半を指していた。明日は日曜だから学校はないし私の用事もないけど、夏音はきっとまだ疲れているだろうし早く寝た方がいい。そう思って、一旦話を切り上げることにした。


「……あっ、もうこんな時間だ……そろそろ寝ないとね。お風呂、というかシャワーだけど、良かったら先に入る?」

「いいの?それじゃあ……お風呂、先にもらうね。」

「うん、服は私のものを貸すし、カーテンの外に置いておくからそれを着て。シャンプーとリンスとボディーソープはボトルに書いてあるし……シャワーの使い方もわかると思うから……それじゃあ、ごゆっくりどうぞ。」

「ありがとう……それじゃあ行ってきます」

「はーい」


夏音がユニットバスのドアを閉めるのを見届けてから、椅子に座って落ち着く。

そして、思うことは一つ。


まずい。


あの子が、夏音が……可愛すぎる。


冷静になって考えたらこの感情の中身は簡単に分かった。しかも、その想いはだんだんと強くなってきていることも分かる。

世間一般的には恋人に言うみたいな「可愛い」じゃない。どっちかというと小動物や赤ちゃんに言うタイプの「可愛い」。守りたい、助けたい、みたいな想い。

さっき話していた時から心の奥底にあったこの思いは、目を背けたくても背けられなくて、お風呂の話をしたときも夏音が頼ってくれたことが嬉しくてつい早口で話してしまった。


この想いは庇護欲みたいな言葉じゃ表せない、昼間抱いた想いとは比べ物にならないほどの、もっとどす黒い想い。


絶対にあんな状態で出会った相手に持つ想いじゃない。ペットに向けるような想いを夏音に対して持ってしまった私はSの気があるのかもしれない。

そんなことをぐるぐる考えていたら、ユニットバスから声が聞こえた。

「ごめん、バスタオルってどこにあるの?」


その瞬間、バスタオルをしまったままだということに気づいた。

いつもは私しかいないから、バスタオルをクローゼットから出してお風呂に持っていくことを忘れないけど、すっかりそのことを忘れていた。


「ごめんっ、バスタオルはクローゼットの中にあるんだ、今持っていくから……」


急いでバスタオルを取り出して、ユニットバスの扉を開ける。

けれど、私はまた一つ大事なことを忘れていた。


扉を開けた私の目の前には、一糸まとわぬ姿の夏音がいた。

そう。もちろんのことだけど、夏音は今裸だった。


「っっつ!ごめんっっ!はいこれ、タオル!」

急いでタオルを渡し、扉を閉めて椅子へ戻る。


……夏音、結構いい体、してたな……


一瞬頭をよぎったそんな邪すぎる想いを無理やり振り払い、何とか平常心を保とうとしたけど、そんなのは意味もなくて。

私の顔はたぶん、真っ赤に染まって熱くなっているだろう。


「ありがとう、お風呂あがったよ……」

「っうん、それじゃあ私も入るね…………それと、さっきはごめん……」

「ん?何のこと?……ああ、裸を見たこと?いいよ、別に気にしてないし、同性でしょ?大丈夫だよ、気にしないで……」

「それでも悪いよ、だれだって裸を見られたくなんてないだろうし……」

「私は気にしてないのに……それより、早くお風呂入ってきたら?」

「う、うん、そうするよ……それじゃあちょっと待ってて……」


逃げるようにユニットバスに入ってお湯を浴びても、やっぱり私の体の火照りは冷めなくて。それどころか、ここにさっきまで夏音が居たんだ、そんな想いが私の頭から離れなくて。

結局、ずっと悶々としながらシャワーを浴びることになった。

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