第一短編集

塩田

上質な肉

カルビ、タン、ホルモン、ホルモン、ハラミ、そして、、、

三十路女2人の焼き肉は、現役高校生野球部10人の食欲と並ぶ。目の前に座っているカナは、小学生以来の再会だが、この歳にして童顔なのか全く変わっていなかった。

「ねぇ、今の仕事どうなの?」

カナが目の前の肉を箸で掬いながら私に訊ねる。

「うん、順調。まぁ、少々体力的には無理するときもあるけど、前よりはねぇ。」

「まぁね、あのときエリ相当限界だったもんね。」

「うん。」そう。さっき、エリが “今の” と答えたのは、この仕事を始めたのが3ヶ月前だからだ。というのも、前の仕事では屍同然の生活を過ごしていた。しかし、今の仕事に出逢いとてもやり甲斐を感じる。給料も歩合制でちゃんと週休2日。エリとこうして焼き肉を腹一杯食べられるのもこの仕事に出逢ったお陰だ。


「いやぁ、食べたね。」「ね。」「じゃあ、解散しますかぁ。」「そうだね。」

「また、焼き肉行こうね。その日までお互い元気で。」エリは、いつもと変わらない笑顔で手を振った。

「うん。」私も、膨らんだお腹を摩りながら手を振り返す。この日がずっと続きますように。


翌日、仕事場に着くといつも通りの景色が広がっていた。草の青臭い臭いが漂う。そう、私はとある牧場で働いている。私は、作業服に着替えて家畜に餌を与える。

「今日は出荷日だから、みんな気合い入れてねぇ。」と、社長が事務室から顔を出す。社長はとても腰が据わっていて常に笑顔だ。私は、そういったところに惹かれた。

出荷のトラックが来て、家畜をひとつひとつ丁寧に運ぶ。


ありがとう。君たちのお陰で日本人はよい上級のお肉を安価で、食べられているのだから。ありがとう。人類。

この国で人肉制度が解禁されて、約3年。日本では、牛肉よりも多く売れている。


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