第10話 お姉ちゃんに打ち明ける。


 異能科、異能などを診療・研究する医学の一分科で異能科学とも呼ばれている。


 数十年前にこの世界は異世界と繋がり、その際にやってきた異世界出身の亜人種・異世界を経て異能に覚醒した人間種などを対象に、先天的・後天的問わず異能と認定・異能と思しき各種能力についてを専門として発達した医療分野とのこと。


 そんな異能対策課の尾久さん紹介の異能科のある病院にはリン母さんとシオン母さん付き添いで数日後の週末に行くことになる。


 今日は不都合なく過ごせたこと・週末に病院に行くことを尾久さんに連絡すると『じゃあ予約取っておきますね~』と言ってくれたので再度両親と相談、予約時間を決めて連絡し尾久さんからOKが出た。


 ぶっちゃけ今日リン母さんに色々サキュバス種について聞けたので多少スッキリはしてるけど、傾向と対策はちゃんと相談しないとね。


 これからもシールド薬を服用し続ける必要があるのか、それともまた別に対処法があるのか……トェイさんはどうしてたんだろうなぁ。


 

 と、ここまででまだ家に帰ってから一時間経ってない。

 

 お姉ちゃんが今日は生徒会活動で他の生徒より二時間ほど遅れて下校・帰るからこそ親子三人でまず話し合うことが出来たわけで。


 リン母さんは「ユリちゃんが良いならスズちゃん (お姉ちゃんへの愛称) には夕飯時にでも話そうと思うの~」とのことで「でももしユリがサキュバスハーフであることをスズランには知られたくないなら私たちは協力するよ」とシオン母さんも言ってくれた。


 正直理由もわからず・正体不明の状態で今日のこと色々をお姉ちゃんにバレるのが嫌だっただけで、お姉ちゃんに『実は私、サキュバスハーフだったんだ』と告白すること自体に抵抗はあまりなくて。


 お姉ちゃんがどういうリアクションするかはわからないけどね……お姉ちゃんって普段は亜人種と人間種フラットに接している人だから問題ないとは思うんだけど。


 ただ私が”そう”であることでお姉ちゃんに忌避されたり・嫌われたり・線を引かれる可能性も万が一でも想定はしておくべきなのかも…………めっちゃ嫌だし、気が重いけどね!


 でも私が異能に目覚めている以上は隠し通せる保証もなく、いつかは知られること・バレることも十分考えられるわけで──どちらにしろ覚悟を決めるべきだと思ったんだ。



「ううん、私からお姉ちゃんが帰ってきたら話そうと思う」



 誰にも分け隔てない・私にも優しい・そして寛容で優しくて暖かいリン母さんシオン母さんの娘なんだからお姉ちゃんを信じなきゃね!


 ……夕飯時にその話題で空気が死ぬことを恐れてるんじゃないんだよ、本当だよ?



「ただいまっ」



 いつも家に帰ってくるであろう時間に目星をつけて、十分近く玄関前をうろうろしているとガチャリと開錠音と共に玄関扉が開いた。  



「おかえりお姉ちゃん」



 生徒会終わりのお姉ちゃんにしてもいつもより少し早めの帰宅、そしてお姉ちゃんは少し走り気味に急いで帰ってきたかのようでほんの少し息が乱れている。



「ユリ…………あの…………」


 

 走ってきた理由はなんだろう、サキュバスハーフなことは伝わってないはずだし。

 

 放課後の告白見られたのも私としては「姉に告白シーン見られるとかはずかし~」みたいな気持ちなだけであって。


 そんなお姉ちゃんは何かを話そうとして・言葉にしようとして……言いかけてやめるようなことを何度も繰り返す。



「えっと……どうかした?」


「……なんでもないわ」



 なんでもない、ということはないけどお姉ちゃんが話せるタイミングを待とうかな。


 そして、私としても話したいこと……告白したいことはあって。



「お姉ちゃん、このあと時間ある?」


「え……っ!? ……あ、あるわ。五分間待って」


 

 お姉ちゃんは少しの狼狽・すぐに取り繕うようにして、何故か覚悟を決めたような表情をしてそう答え頷いた。



「わかった、じゃあ私の部屋でいいかな?」

 

「…………ええ」



 そうして五分後私の部屋で話すことにした──



「来たわ」


「入って入って」


 

 自室で待っているとお姉ちゃんが扉をノック、部屋に入るように促すとお姉ちゃんはさっきまで着ていた制服のままに入ってきた。


 そうしてお姉ちゃんは私を一瞬見据えると目を瞑り・深呼吸してからいつものお姉ちゃん定位置のクッションの置かれた床に正座で座る。



「話って…………なにかしら」


「その、ね」



 明らかに緊張した面持ち、私の方が緊張してるはずなのにな~。


 でもお姉ちゃんの方が何故か緊張しているせいで、私は勢いで言えそうな気がして──



「お姉ちゃん、実は私…………サキュバスと人間のハーフのサキュバスハーフだったことが分かったの!」



 い、言った……!


 お姉ちゃんのその反応はいかに……!



「宮浦さんとはどういう………………え? サキュバス? 人間とのハーフ? ………………えっ?」



 ……あれ? どうして宮浦? 何故にに私に告白してきた女子の話が……?


 お姉ちゃんの聞きたかったことはそれなのかもしれないけど、私の告白についての方の衝撃がじわじわ染みてきたようで。



「じゃないわね。ええと、ユリはその……サキュバスって私が知ってるサキュバス?」


「はい……多分想像通りかと」



 この初耳的リアクションを見るに、お姉ちゃんに対しても私・リン母さん・おばあちゃん・ひいおばあちゃんがサキュバスの血を引いていてトェイさんがサキュバスの祖先なことは知らされていないのかもしれない。



「ちなみにリン母さんもサキュバスハーフだって」


「……えぇ」


 

 さすがのお姉ちゃんもリアクション、というかほぼ絶句に近いのかもしれない。


 ちなみにリン母さんにはお姉ちゃんにサキュバスの家系であることを話すことを了解してもらってる、リン母さんもおばあちゃん・トェイさんから必要に応じて子孫に素性を明かしていいことも聞いていたらしい。



「なんだったらひいおばあちゃんのトェイさんが純粋なサキュバスで、あとはおばあちゃん・リン母さん・私までヒト種とのハーフなんだって」



 リン母さんを父親とするお姉ちゃんも妹のアヤメもサキュバスハーフな可能性は十分あり得るけど、確定しているのは私たちだから今話すのはやめておこう。



「……ちょっと待って。色々疑問はあるけれど、これまで普通に暮らしてきたのにどうして今……?」



 お姉ちゃんの疑問はもっともだ、私も”今日のようなこと”が無くてその事実を知らされたら今更と思うかもしれない。


 そうだよねー、やっぱり触れないとダメだよねー……。



「実は私、今朝やらかしちゃって。というかサキュバスの異能に覚醒しちゃって」


「今朝…………ええと、やらかすというのはどういうこと?」


「通学路と校門前でその…………サキュバス由来の”催淫”の異能が発動してしまいまして、周囲に居た女性を催淫状態にしてしまって」


「っ!?」



 今日一の驚きリアクションが出た、そりゃそうだよね。



「それで、催淫状態になってどうなったの……!?」



 明らかに食い気味になったお姉ちゃんに気圧されながらも、それから一連のことをかくかくしかじか。


 催淫というのは異能によるカテゴライズであって、その異能の強さとこの世界におけるルールの”不同意はダメ”ということもあって異能の名前の割に思ったよりいかがわしいことにはならなかったんだよね。


 いや、別に期待してないですけど!? 見る専門であって私が”その”対象とか困るというか超困るんですけど??



「……なるほど、それで蒲田さんが……」


「うん、ミドリ?」



 今度はどうしてミドリ、もとい私の幼馴染の蒲田ミドリの名前が……?



「なんでもないわ。それで……自身がサキュバスハーフなのを知って、ユリは問題ないの?」



 ミドリのことは追及させない様子、まぁ幼馴染同士としてお姉ちゃんと私の友達が仲良いことは良いことだけどね。



「問題ないってことはないけど、受け入れなきゃいけないしね。出来れば人に迷惑はかけたくないけど」


「問題というのはそれもあるけど……不安? 怖くない?」


「最初はちょっと不安だったけど、リン母さんやおばあちゃん・トェイさんが同じならそうでもないかなって…………お姉ちゃんは私のこと怖い?」

 

  

 さらっと聞いたけどそれは私にとっての核心だった。


 もちろん私自身今も完全に受け入れて・ショックじゃないといえば嘘になる、そんなことよりもお姉ちゃんに怖がられる・嫌われたくはなくて──



「怖くないわ」



 即答にして断言だった、これまでの動揺の混じった表情と打って変わってのきりりとした顔。


 それが嘘偽りないことも表情から分かって……私としてはふつふつと嬉しさと安心感が沸き上がってくる。



「よかったー、お姉ちゃんに”サキュバスとか生理的に無理”とか言われる・思われちゃったらどうしようかと」


「ありえないわ。これまで一緒に過ごしてきたユリはユリだもの」


「そ、そう……? ならありがたいけど」


「何かあったら私に言って」


「ありがとうお姉ちゃん」


 

 思わず笑みが漏れてしまう、こう家族として大好きな・女性としても憧れている人にそう言ってもらえると嬉しいよね~!



「っ! な、なるほど……これはすごいわね」


「すごいって……?」


 

 驚いたような表情をしたあとに顔を少し赤らめた後に口元を隠すようにして顔を逸らすお姉ちゃん、たまに私に対してこういうリアクションをするんだよね~……なんでだろう。


 それにしても凄いとは……?



「なんでもないわ…………今改めたのだけど、その、サキュバスの異能に連動して? 容姿もだいぶ変わるのね」


「え、今!? よく別人だと思わなかったねってレベルなんだけど」



 ミドリには即言われましたけど!? 



「……ユリを見間違うわけないわ」


「えっと、ありがとう?」


「……聞こえてた。どういたしまして」


 

 本当にいいお姉ちゃんだよな~、自慢のお姉ちゃんですわ~、世の妹ども羨ましかろ~!


 とりあえずお姉ちゃんに話せて・受け入れてくれてよかったと本当に思う。

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