第9話 サキュバスの血と両親のこと。
サキュバスハーフ、別名カンビオン。
カンビオンに関してはサキュバスと人間の間に生まれた混血児で、 長生き出来ず人が触れると泣き叫び家に不吉を呼び込む……的な伝承もあったというけど。
少なくとも我が家は円満な家庭だし、私は女子高生になってるし、そもそもリン母さんも・そしておばあちゃんも健在なのを思うと迷信でしかないのかもしれない。
「大丈夫。私のことを考えてくれたのは分かったよ」
両親の言い分もとい私がサキュバスハーフ種であることを秘密にしていた理由も分かる。
それは今の世界になる以前・異世界から異種族が流入して数十年の間。
ヒト種もとい人間以外の亜人種は表立っての迫害こそされなかったものの、言われのない偏見・差別・誹謗中傷は受けてきたという歴史を授業など聞いて私は知っていた。
この国で暮らす亜人種たちは味方にして融和的にして友好的にして愛を以てして人間と手を取り合おうとしたのが伝えられている。
それでもかつてこの世界を滅ぼしかけた、異世界からの侵略者と同時期に訪れたことで、その侵略者による被害者などが行き先のない悪感情を向けることも少なくなかった。
むしろ今この国にいる亜人種はこの世界の人間と手を取り合って異世界の侵略者を打倒した側なのだからそんな謂れもないはずなのに。
それとは別に姿形の違いからくる差別・拒絶がまったくないわけではなかったという。
だから亜人種と人間との間に生まれた子供・ハーフも”その”対象になった。
結果、見た目も人間そのもので異能も引き継いでいないのに亜人種とのハーフであることをオープンにされて”その”対象になる……なんてことも。
今の世界では差別感情に関して思うことは出来ても言葉に出来ない・表現は出来ても伝えられないように出来ているから問題はないのかもしれない。
それでも両親の考えとしては、不必要な心配を抱かせない為・何かの間違いがあって色眼鏡で見られることを避ける為の防衛手段だったのだと……私に言わなかった・言わずに済んだ方がいいと思ったであろう理由はなんとなくわかってきた。
「ちなみに私の先祖がサキュバスで」「私の祖先は人間だね」
なるほど……。
「ところでリン母さんの先祖でサキュバスって私の知ってる人?」
”あの時”から死の概念はなくなったけど、”それ以前”の死は存在している。
なので私の先祖も遡れば故人なわけで……うん? でも、そういえば我が家には仏壇とかないし墓参りに行ったこともないような。
「私のおばあちゃんがサキュバスの祖先になるの」
「へぇ」
そっかそっか、お母さんにとってのおばあちゃんということは私にとってのひいおばあちゃんが…………ひいおばあちゃんがサキュバスの祖先!?
「え、ひいおばあちゃんってあのひいおばあちゃんだよね? トェイさん!」
確かに一家で唯一外国人っぽい名前で金髪赤眼のとんでもない美魔女 (?) だけど、異世界出身のサキュバス種だとは思わないじゃん!
まぁ確かに一〇〇歳超えらしいのに私と同じぐらいの若々しさで、昔見たアルバムと全く変わらない見た目は”あの時”以降関係なく不思議だとは思ってたけど!
「えー、今度聞いてみよ」
「連絡はしておいたからその内会えるかもね」
トェイさんは全世界を旅している、なんだったら数年前には月面一周ウォーキング企画旅行に行っていたぐらいに活動範囲は広い。
木星見学ツアーに参加するかしないか迷ってる的な話を今年の正月に話してたからなぁ……地球に居るといいんだけど。
サキュバスご先祖だったひいおばあちゃんことトェイさんの話は会えた時に聞くとして──
「そういえば二人はサキュバスとかその異能についても何か知ってる?」
私のサキュバスの知識は伝承だったり創作派生ベースでしかなくて。
でも私がそのサキュバス種の末裔のサキュバスハーフで、お母さんも種族的にはサキュバスハーフだというのだから本当のところを聞いてみたい。
「例えばこの身体なんだけど……」
まだ学校制服のままの私は椅子から立ち上がり両親の前でくるりと回った。
「そういえば……ちょっと見ぬ間に成長したわね~」「私たちの娘は大きくなったなぁ」
「いやいや! 昨日会った私と明らかに違うでしょ!? そんなにすぐ成長することないよね!?」
私が見ても気のせいじゃないと思うし・学校でもザワつくレベルで変わっている……主にむちむちな方面に!
両親もからかっていると自覚があったのか「ごめんね~」「すまない。私はそこまで詳しくないから娘の変化に触れていいものか迷った」と謝った上でお母さんが続けるようにして──
「おばあちゃんから教えてくれたの。念のためにサキュバス種の血を引くあなた……というか私の身体に”そういう”症状が出たら覚醒・異能発動状態かもしれないって」
「リン母さんにも?」
「私はここまで出たことないのよ。そして私にとってのお母さんにも出なかった、だからもう縁が無いものだと思いこんでいたのよねぇ」
お母さんのお母さん……私にとっておばあちゃんにあたる人物にもサキュバスの兆候はなかったらしい。
確かにサキュバスの血を引いていても親子二代に渡ってその兆候が無ければ意識から外すのも無理はないと思う。
むしろ私がここに来て覚醒したのがイレギュラーなのかなぁ……。
「それで相手を誘惑する為に・効率的に精を搾り取る為に女性的な肉付きが一時的に増すらしいの、相手の好みに合わせた結果とも言われてるみたい」
「じゃあこれもサキュバス由来のものなんだ……」
かつての女性サキュバスが男性を誘惑しやすくするための身体変化・幻影を見せる名残……なのかな?
「あと実は汗もかいちゃって……」
「それもサキュバス種の特性の一つのはずよ」
何故か洗濯済みのシーツとルームウェアがあったのもあってちょっと察してはいたのよ、と付け足される……だよね、バレるよね、ゴメンナサイ。
「異能発動状態は汗とかの体液全般に催淫効果があってね。揮発して空気中とかに溶け込ませることで対象の催淫を促すみたいなのよね」
やっぱり単なる汗じゃなかったんだ……シールド薬で汗が止まってるのも、サキュバス絡みのものを抑え込めているのなら納得出来るかも。
「でもそれもおばあちゃんにだいぶ前に聞いた話だから、今度私たち三人で改めて病院に行って聞いてみてもいい?」
「うん。それは私もやっぱりちゃんと知りたいから」
今のお母さんの情報もひいおばあちゃんのトェイさんの実体験? から来るものとはいえ、医療機関での正式な診察・判断や考え方や対処法も聞いておきたいかな。
それに伝承ベースで考えると本来の催淫と嫌悪の対象が逆転していることについても聞かなきゃいけないよね。
「うーん、本来なら男性に”催淫”ならわかるのよね」「”嫌悪”という異能も持っていたと聞いたけど、嫌悪はあくまで副次的で催淫と同じ数値というのは聞いたことがないね」
この口ぶりからするとトェイさんと全く同じというわけではなさそう……?
「それも男女逆転しているのが妙だね……」「関係ないかもだけどユリは昔から男子には塩対応だったものね~」
「えっ!?」
私、男子に塩対応してたの……?
「あんまり親の私が言うのも難だけどね。ユリは女子との方が楽しく話しているように見えたな」
「えぇ……」
「今日〇〇ちゃんと話してね! すっごい可愛くてね! ってうきうき話してたあとに同じ組の男の子の話題を振ったら『そう……。でね! 〇〇ちゃんがね──』って話題がすぐ変わるのよ」
「そんな露骨なことしてたの私!?」
「てっきり男子は苦手なんだと思ってた」
私、男子苦手だったのか…………?
いやでも! 私、幼稚園の頃は仲良くしていた男子がいたはずで、お姉ちゃんともよく一緒に遊んでいて……?
「こればっかりは女子ばかりな私たちの家庭環境の影響もあるかな……」
「そうなのかなぁ」
「好き嫌いは誰にでもあるものよ~」
割とショックだけど、思い返せば思い当たることがないわけでもない。
そうか、サキュバスの異能で男性を催淫しなかったのに正直ほっとしてたのはそれもあったのか……。
「私は家族のみんなもリンも愛しているけどね」
「私も家族のみんなとシオンさんを愛してるわ~」
急な惚気! 雑な導入でイチャイチャに入る両親! これだからバカップル系両親は!
「来週からは私がお父さん役やってみる?」
「久しぶりに私もお母さんがいいかな」
「ちょっとぉ、娘の前でイチャイチャするのやめてくれませんかー」
苦笑しながらも微笑ましく見守る私。
私のお母さんこと
私のお父さんであり──お姉ちゃんとアヤメのお母さんでもあるのは
私たち姉妹にとっては二人ともお母さんなのでややこしいけど、生まれて・出会った時も二人は女性だったので間違いではなかったり。
家庭内での呼び名を好み・自由にした結果、私は二人揃っている時に呼ぶ際は「リン母さん」と「シオン母さん」みたいにしてて、たまにお母さん・お父さん呼びをしたりしてる、それで二人もちゃんと認識してくれるのだ。
私たちの両親はたまに父母性別を入れ替えて、リン母さんから生まれた子供が私でシオン母さんから生まれたのがスズランお姉ちゃんとアヤメということで。
お姉ちゃん・妹のアヤメは同じ家族で血が繋がっていながら、私とは腹違いの姉妹になる──
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