第4話 一階層③
マジックリストの説明とステータスを交互に見比べる。灯火の魔法を1回使うと、MPが10減る──そういうことか。
---
HP:403/523
MP:7/57
満腹:37
状態:正常
---
悔やんでも悔やみきれない。便利な魔法には、やはり代償が伴うらしい。問題は、どうやってMPを回復するかだ。
ふと、昔、
『寝て自然回復を待つか、魔法薬を飲むか、レベルアップするか。あとは龍脈の通っているダンジョンなら、回復の泉が湧いてることもある。あれを飲むのが一番手っ取り早いさ……で、何だい? MP切れのババアはお荷物だって言いたいのかい?』
音もなく、サイス型の杖を首元にトンと置き、鋭い眼光で睨みつけるあの姿が脳裏に蘇る。思い出しただけで背筋が寒くなる。
深い皺が刻まれた顔、俺と同じくらいの長身、そして骨太の体。魔法使いというより
レベル15の冒険者にして、年齢不詳。赤い長髪を一つに束ねた彼女は、齢100を超えるとも噂されていた。
レベル15なんて、ババア以外ではおとぎ話に出てくる英雄くらいしか聞いたことがない。
そういえば、3年前、常闇のダンジョン探索から外され、それ以降姿を見ていない。
……まぁ、今さらどうでもいいか。今はババアよりMPの方が大事だ。
どうする?
この不気味な塔で仮眠を取るのか?
だが、満腹度も低下し始め、喉の渇きがじわじわと襲ってくる。この状態で寝られるものだろうか。
通ってきた道を振り返ると、遠くに池が見えた。……どう考えても罠だろうな。
だが、背に腹は代えられない。水を飲んで喉を潤し、空腹を紛らわせるか、それとも宝箱を開けて食料を探すか──
選択肢は少ない。
慎重に池へ向かう。遠くから見ただけでは水の透明度も分からないし、飲めるかどうかすら怪しい。
罠の判明しているルートを戻る。どうしても落とし穴を通らざるを得ないが、杭に刺さっても痛くないことが分かったので、HPに気をつけながら通る。
湿った空気と埃の匂いが、喉の渇きをさらに悪化させる。視線を池に向けたまま、耳を澄ませて異音がしないか確認する。
「……静かだな」
不自然なくらい静かだ。怪物がいれば、池の周辺に何か痕跡が残っていてもいいはずだが、目立ったものは見当たらない。
池の縁に立ち、慎重に水面を覗き込む。意外にも水は澄んでいて、底まで見える。周囲に仕掛けられた罠もなさそうだ。
「本当にただの池か……?」
そう呟きながら手を伸ばし、水をすくってみる。ひんやりとしていて清らかな感触だ。
本来なら飲む前に煮沸が必要だが、道具がない。恐る恐る舐めてみると、少し癖のある味がする。
「マグネシウムとカルシウムの濃度が高い。硬水か……? 」
警戒心を拭いきれないまま、もう一度周囲を見渡す。何か潜んでいる気配は──ない。
「……仕方ない」
覚悟を決め、水を両手ですくい上げて喉に流し込む。冷たい水が乾ききった喉を潤し、体の芯まで染み渡る感覚に思わず息をついた。
明らかに身体が軽くなった。アナライズでステータスを確認すると、満腹以外の状態が全て回復していた。
---
到達階層:1階
LV:1
HP:523/523
MP:57/57
歩数:203
攻撃:32
防御:24
魔攻:45
魔防:36
満腹:30
状態:正常
NEXT:50
かぎ:
---
MPまで回復しているではないか。ババアの言っていた回復の泉と言うやつか。
この泉さえあれば、何度でも灯火の魔法が使える! 惜しむらくは硬水であることだ。硬水は腹を下しやすい。
不安はあるが、嬉しくなって手持ちの水筒に回復の泉を掬うが、不思議な事にいくら掬っても水筒に水が入ってこない。
とことん、ふざけた仕掛けだ。
諦めて、一度調べた道を引き返しつつ、隣接する宝箱を開けて鍵を探す。
フロアをみる限り宝箱は7つある。目の届く範囲に宝箱が7つもあるのは異常だ。通常、どんなダンジョンでも一つの階層に3つあればいい方なんだが。
調査済みルートの隣にある3つの宝箱を開けてみる。
---
解毒薬
回復薬
木の杖
---
アイテムボックスで確認する限り、解毒薬は毒と沈黙を治療できるらしい。
木の杖は攻撃力と魔法攻撃力を僅かに上昇させると書いてある。一つ引っかかったのは説明欄に、
"ただの棒とも言う"
という余計な一言が添えられていたことだ。イラッとする。
ここまでの迷宮の傾向を考えると扉の鍵とやらも宝箱に入っている可能性は高い。
迷宮にはダンジョンマスターという造物主が存在する。ダンジョンは造物主の性格が色濃く反映されるので、ダンジョンマスターの
木の杖を手に持ち、ブンブンと振り回す。
「叢雲にはほど遠いが、ないよりはいいか」
近くのタイルに木の杖をかざし、灯火の魔法を使うと、先ほどより明るく、大きな火の玉が出た。
前方の床タイルの色が藍色に変わり、にゅっと白いドクロが浮かび上がった。何とも不安な気持ちにさせるデザインだ。
罠か……気味が悪い。絶対に乗るまい。
『冒険者なのに、冒険しないね。アンタは……ち●こ付いてるのかい? 』
また、
そう思ったのもつかの間、冒険せざるを得ない状態に陥った。
宝箱の周囲がこの奇妙なドクロの床で囲まれていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます