境界線

霜月 冬至

分かれ目

線、線、線。この世は線で別れております。

境界線、倫理的一線、物理的にも概念的なモノも。

今回の主人公は、それを視るのが上手い子、

如月華火きさらぎはなびと致します。

さてさて、どうなりますことやら...。

黄泉語りをお楽しみあれ♪


ーーーーー


「んー...。おはようございます...。」

誰にも向かない言葉をふと溢す。

習慣のランニングをする。ルートは割と気分。今回はあっち行くかー。

ん?なんかやらかした気が....まぁいっか。

能力の自覚薄いわね...。



「ふっ、ふっ...。」頑張りますねぇ、この子。


木目、土地の境目、家々の壁の模様。意識せずとも見てしまう。あそこは

どういう構造なのかとか、何万回繰り返したかも覚えていない思考がぐる、ぐる。


そして辿り着きますは、とある神社。ウチの親父と神主様が同級生で、

何度も足を運んでいる...のだが。どうにも寺社仏閣は苦手だ。

...私は別に魑魅魍魎とか化生の類ではないのだけど、苦手だ。

何故かこの類の建物は線が。無論

こっから此処までお寺ーとか、神社ーとか、そういう区切りも有る。

でも何故かの、言語化し難い何かによる線引きが

なされている様な、そんな妙な感じがするからだ。


「ま、自分から来ているんですけどもね。」


それはそうと、理由の判らない物事は知りたくなるお年頃。

...猫じゃないので死なないだろう、多分。


ーーー蒼々としたおおきなクスノキから、木漏れ日が漏れ出す。親父がついこの間塗り直した社の外装を仄かに照らし出す。本殿は、何も見えない真っ暗暗。


「えーっと、二礼二拍手一拝っと...。」

神道の礼儀ですわね。できていなくても気持ちが籠っていれば良いのですけど...。

まぁ、本人の気分ですかね。


何か願う訳でもないが、畏敬の念を込めてしっかりと。

ちゃんとしてない大人以外はしっかり敬おう。年長...者?は大事。

かの孔子も語ったのだから間違いない。


「さーってと、本日もがんばろ...。」


日頃の鬱屈を独り言に込めながら帰路に着こうとした時、


「おや。如月んとこの娘さん?偉いねぇ〜こんな早朝からお参りかい?」


うっわぁ。メンへ...面倒くさいのに絡まれてますわね...。


正直心臓が跳ねそうなくらいビビったが、平静を装って

「おはようございます。日課のついでに立ち寄って見ました。」と返事。


「学校でしょ?大変ねぇ...。体には気をつけてね?」


「ご忠告痛み入ります。それでは失礼しますね。」


そう言い終えた時、違和感に気付いた。如月??神主様は

下の名前かさん付けで親父を呼ぶ。おかしい。


やっぱり鋭いですわね...。


それで思い出した。そもそも、足音がしなかった。

まるで今、そこにパッと現れたとでもいうような...。

そう思うと、目を上げるのが怖い。足元に落ちる影の主は誰なのか、判らない。

何か、触れてはいけない線を踏み越えた様な感覚だ。恐る恐る目を上げる。

そこには...。


「...どうしたんだい?」


...怪物がいるなんて事は無く、普通に神主様だった。

恥ずかしい...。厨二病も大概にしろという話だ。


「い、いえ何でも無いです。」


罰が悪くなりそそくさと帰ろうとすると、急に風が吹き荒ぶ。

その瞬間に、声が聞こえた。


18時頃逢魔時、いらっしゃいな。』


お?据え膳ですねぇ。頂くのかしら?


間違いなく、そう聞こえた。振り返らない。行かない。


「黄泉比良坂で、振り返ってはいけないんだ。向こうに、連れて行かれて

しまうからね。」


神話好きの親父から、そう教わった。死者が如何とかじゃなく、

おかしなモノに連れて行かれない為の方法なのかな、と私は解釈した。

あと、シンプルに知らん人に誘われてもついていっちゃイケナイ。

なので、聞いてるだけでぼーっとする様な甘い声が聞こえても、振り返らない。


素晴らしい。100点満点...ではないですけど、応急処置としては中々。

親父さんもそういう経験があったり?


キーンコーンカーンコーン...

チャイムが鳴り響いた。


「やっと終わったー...。」


万年独り言ブツブツ、厨二病を拗らせているこの子に友達なんか居りません。

でも成績そこそこ、見た目はフツー程度、親切、なのでいじめられる訳でもなく。

ちょっと遠目から憐みの視線が飛ぶくらいです。

「悪い人じゃないんだろうけどね...うん。」ってな感じ。不思議ちゃん

って奴ですわね。それはそうとして、本人は一匹狼を気取ってる訳でもないので、

ボッチは辛そうです。自分から関わるのは怖いけど、友達が欲しい...

典型的な友達少ない奴の思考ですね...。

さて、そんななのでチャイムが鳴ると

そそくさと帰宅します。


「(うおーっ。)」


基本読書か運動、あとちょっとの勉強ぐらいしかやらないので自由時間増えても...

あっそうでした。この子ギター始めたんですよ。親父さんに勧誘されたらしいです。

なので、練習時間が欲しい訳ですね。


「いっそげ、いっそげ!」


一個の事しか考えていない時は独り言も控えめに、一意専心

一所懸命と言った感じです。でも、そういう事してると...。


「ぶへぇ!

イッタ...何に躓いた?」


畦道で、転ぶ様な石は何処にも無かったのに...。誰も見てなくて良かった。

やっぱ急いでると良くないなー...。

と思うと誰かが手を差し伸べてくれた。


...強引ですわねぇ。嫌われますわよ?...流石にやりすぎですわ。


大丈夫です来てくれますか?」


「...はい、大丈夫です。」

そう応えた瞬間に、違和感に気づいた。さっきまで、誰もいなかった。

そして、同時に二つの声が聞こえた。片方は、今朝神社で聞いた甘い声。

何て言ったかは判らない。

もう片方は、優しそうだけどなんか信用ならない声。心配して...るんだよね?


あ、あれ?そんな信用なりません?私...。

頑張ってそれっぽく出力した、つもりなんですけど...。

ま、まぁひとまず、アレが好き勝手できない様にはしたのでヨシっです。

結構効きますね...。


ただ、手は握ってしまった。

「え。」

その瞬間、凄まじい眠気で意識が遠のいた。


さて、巫女か友達か、それとも...。乞うご期待ですね。





















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